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第36話 キス奴隷
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「え⁉ えええ⁉ キスぅぅ⁉」
「なにを驚いているの」
「いや、その、それは……⁉ な、なんで⁉」
「あの日、ポーカー勝負の時、あなたに一目惚れしていたの」
レジーナは、表情をまったく変えずに、とんでもないことを言い放つ。
「ひ、一目惚れ⁉」
「私は年下の男の子が大好きだから」
ズイ、とレジーナが顔を前に突き出してきたので、イスカは二歩ほど下がった。
これは、なんだかまずい雰囲気になってきた。
「いいの? もし拒むなら、私はあなたに協力しない」
「う……ずるい……」
「それとも、誰かに義理立てする必要があるとか?」
無表情ながら、レジーナは小首を傾げた。
「……ニハル?」
その問いに対して、イスカは何度もコクコクと頷いた。
「僕は、ニハルさんの恋人になったから……だから、ニハルさん以外の人となんて、キスはできないよ……!」
「ふうん」
一見すると、レジーナは大してイスカに関心なさそうに見える。だが、その実、胸の内では色んな感情が渦巻いていたようだ。
「面白くない」
「へ?」
「私が得意とするポーカーで大勝しただけでなく、私好みの男の子までモノにするなんて、ニハル、生意気にもほどがあるわ」
表情の動きはほとんど無いのに、言っていることはかなり感情的な内容である。実はかなり激しい性格のようだ。ポーカーフェイスは鍛え抜かれた能力か、はたまたそういう特徴なのか。
「奪ってやりたくなった」
「えっと……あの……」
「私は、このカジノのことなら、かなり詳しいことも知っている。ルドルフを倒すのなら、作戦だって立てられる」
「その代わり、キスしろと……?」
「気が変わったわ。それだけだと足りない」
レジーナはイスカに近寄り、あとちょっとで唇が触れる、くらいのところまで顔を近付けてきた。
「ニハルが、捕まったんでしょ?」
「……!」
気付かれてしまった。
また、素直な性格ゆえに、駆け引きが苦手なイスカは、つい表情に考えていることが出てしまう。
「私なら、ニハルがどこにいるのかも、教えられる」
「ど、どうして……そこまで、知ってるの?」
その時、初めて、レジーナはフッと笑った。自嘲気味な笑顔だ。
「私は……ルドルフのペットだから」
「!」
イスカは言葉を失った。レジーナの言っていることの意味がわかり、なにを言えばいいのか、迷ってしまう。
「幼い頃に口減らしで捨てられて、一人で各地を放浪して生きてきた。その後、奴隷商人に捕まって、ここへと売り飛ばされた。生きるためならなんでもやって来た私にとって、ルドルフに媚びを売ることなんて、なんでもなかった」
淡々と、あっさりと、レジーナは壮絶な生き様を語る。
いつしか、心優しいイスカは、彼女の話に聞き入ってしまっていた。
「こうしてディーラーバニーをやっていられるのも、ルドルフに散々抱かれてきたから。この身を汚す代わりに、掴んだ地位なの」
「だけど、それって……」
「あなたに、私の選択を否定する権利は、ある?」
イスカはなにかを言いかけていたが、黙ってしまう。自分の物差しではかってはいけない、と悟ったからだ。レジーナは生きることに必死だったのだ。
「だから、せめて、少しくらいは欲しいものが、欲しい」
「それが……僕?」
「断りたいなら、断ってもいいわ。正直、私はこのカジノについては、どう転んでも別に構わないの。もう堕ちるところまで堕ちたから。ルドルフに支配されていたって構わない。もちろん、ルドルフを倒してくれるのなら、あいつにこれ以上奉仕をしなくて済むから、ありがたいと言えばありがたいわ。でも、絶対ではない」
「僕は、なにをすればいいの……?」
「私が望んだ時に、キスをしてもらう」
レジーナは唇に指を当てて、急に、表情に色香を醸し出させた。
「それだけでいいわ。ニハルが見ていないタイミングで、こっそり、キスするの。それって、とても興奮することじゃない?」
「……!」
イスカは判断に苦しんだ。
こんなレジーナの要求を呑んではならない。
だけど、ニハルを一刻も早く助け出さないといけない。他に頼れるバニーがいるかもわからない。
「あと五秒で、結論を出して」
レジーナは指を立てて、カウントを始めた。
「五……」
もしもイスカが、駆け引き上手であれば、逆にレジーナへ強気に出ることも出来ただろう。けれども、純粋なイスカには、なにも策が思い浮かばない。
「四……」
大好きなニハルを助け出したい。
ただ、その一心で、イスカは決断を下した。
「わ、わかったよ……レジーナさんの言うとおりにする……だから、ニハルさんを助けるのを、手伝って……!」
そう言った瞬間――レジーナは微笑み――イスカの体をグイッと抱き寄せた。
ドキッ、とイスカは胸を震わせる。レジーナの豊かなおっぱいが、イスカの胸板に胸板にギュッと押しつけられる。香水のにおいか、甘い、いい香りが鼻をくすぐる。そんな気分になんてなりたくないのに、頭がクラクラして、心地良さを感じてしまう。
「約束よ。これから……あなたは、私のキス奴隷……」
レジーナは唇を重ねてきた。
(ごめん……ニハルさん……)
イスカは胸が苦しくなり、ギュッと目を閉じた。
そんなイスカの唇に、強引に、レジーナは舌を割りこませてきて、情熱的なキスを重ねる。
ニハル以外の女性とキスをしているということに罪悪感を覚えながらも、イスカは、自分の胸が高鳴っているのを感じていた。
(いや……だ……こんなの……)
悔しさのあまり、涙が滲んでしまう。でも、なぜか体は抗えない。
それから一分もの間、レジーナは余すことなく堪能するかのように、イスカの唇を味わい続けたのであった。
「なにを驚いているの」
「いや、その、それは……⁉ な、なんで⁉」
「あの日、ポーカー勝負の時、あなたに一目惚れしていたの」
レジーナは、表情をまったく変えずに、とんでもないことを言い放つ。
「ひ、一目惚れ⁉」
「私は年下の男の子が大好きだから」
ズイ、とレジーナが顔を前に突き出してきたので、イスカは二歩ほど下がった。
これは、なんだかまずい雰囲気になってきた。
「いいの? もし拒むなら、私はあなたに協力しない」
「う……ずるい……」
「それとも、誰かに義理立てする必要があるとか?」
無表情ながら、レジーナは小首を傾げた。
「……ニハル?」
その問いに対して、イスカは何度もコクコクと頷いた。
「僕は、ニハルさんの恋人になったから……だから、ニハルさん以外の人となんて、キスはできないよ……!」
「ふうん」
一見すると、レジーナは大してイスカに関心なさそうに見える。だが、その実、胸の内では色んな感情が渦巻いていたようだ。
「面白くない」
「へ?」
「私が得意とするポーカーで大勝しただけでなく、私好みの男の子までモノにするなんて、ニハル、生意気にもほどがあるわ」
表情の動きはほとんど無いのに、言っていることはかなり感情的な内容である。実はかなり激しい性格のようだ。ポーカーフェイスは鍛え抜かれた能力か、はたまたそういう特徴なのか。
「奪ってやりたくなった」
「えっと……あの……」
「私は、このカジノのことなら、かなり詳しいことも知っている。ルドルフを倒すのなら、作戦だって立てられる」
「その代わり、キスしろと……?」
「気が変わったわ。それだけだと足りない」
レジーナはイスカに近寄り、あとちょっとで唇が触れる、くらいのところまで顔を近付けてきた。
「ニハルが、捕まったんでしょ?」
「……!」
気付かれてしまった。
また、素直な性格ゆえに、駆け引きが苦手なイスカは、つい表情に考えていることが出てしまう。
「私なら、ニハルがどこにいるのかも、教えられる」
「ど、どうして……そこまで、知ってるの?」
その時、初めて、レジーナはフッと笑った。自嘲気味な笑顔だ。
「私は……ルドルフのペットだから」
「!」
イスカは言葉を失った。レジーナの言っていることの意味がわかり、なにを言えばいいのか、迷ってしまう。
「幼い頃に口減らしで捨てられて、一人で各地を放浪して生きてきた。その後、奴隷商人に捕まって、ここへと売り飛ばされた。生きるためならなんでもやって来た私にとって、ルドルフに媚びを売ることなんて、なんでもなかった」
淡々と、あっさりと、レジーナは壮絶な生き様を語る。
いつしか、心優しいイスカは、彼女の話に聞き入ってしまっていた。
「こうしてディーラーバニーをやっていられるのも、ルドルフに散々抱かれてきたから。この身を汚す代わりに、掴んだ地位なの」
「だけど、それって……」
「あなたに、私の選択を否定する権利は、ある?」
イスカはなにかを言いかけていたが、黙ってしまう。自分の物差しではかってはいけない、と悟ったからだ。レジーナは生きることに必死だったのだ。
「だから、せめて、少しくらいは欲しいものが、欲しい」
「それが……僕?」
「断りたいなら、断ってもいいわ。正直、私はこのカジノについては、どう転んでも別に構わないの。もう堕ちるところまで堕ちたから。ルドルフに支配されていたって構わない。もちろん、ルドルフを倒してくれるのなら、あいつにこれ以上奉仕をしなくて済むから、ありがたいと言えばありがたいわ。でも、絶対ではない」
「僕は、なにをすればいいの……?」
「私が望んだ時に、キスをしてもらう」
レジーナは唇に指を当てて、急に、表情に色香を醸し出させた。
「それだけでいいわ。ニハルが見ていないタイミングで、こっそり、キスするの。それって、とても興奮することじゃない?」
「……!」
イスカは判断に苦しんだ。
こんなレジーナの要求を呑んではならない。
だけど、ニハルを一刻も早く助け出さないといけない。他に頼れるバニーがいるかもわからない。
「あと五秒で、結論を出して」
レジーナは指を立てて、カウントを始めた。
「五……」
もしもイスカが、駆け引き上手であれば、逆にレジーナへ強気に出ることも出来ただろう。けれども、純粋なイスカには、なにも策が思い浮かばない。
「四……」
大好きなニハルを助け出したい。
ただ、その一心で、イスカは決断を下した。
「わ、わかったよ……レジーナさんの言うとおりにする……だから、ニハルさんを助けるのを、手伝って……!」
そう言った瞬間――レジーナは微笑み――イスカの体をグイッと抱き寄せた。
ドキッ、とイスカは胸を震わせる。レジーナの豊かなおっぱいが、イスカの胸板に胸板にギュッと押しつけられる。香水のにおいか、甘い、いい香りが鼻をくすぐる。そんな気分になんてなりたくないのに、頭がクラクラして、心地良さを感じてしまう。
「約束よ。これから……あなたは、私のキス奴隷……」
レジーナは唇を重ねてきた。
(ごめん……ニハルさん……)
イスカは胸が苦しくなり、ギュッと目を閉じた。
そんなイスカの唇に、強引に、レジーナは舌を割りこませてきて、情熱的なキスを重ねる。
ニハル以外の女性とキスをしているということに罪悪感を覚えながらも、イスカは、自分の胸が高鳴っているのを感じていた。
(いや……だ……こんなの……)
悔しさのあまり、涙が滲んでしまう。でも、なぜか体は抗えない。
それから一分もの間、レジーナは余すことなく堪能するかのように、イスカの唇を味わい続けたのであった。
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