74 / 99
第74話 フラッシュ・ダンス
しおりを挟む
オルバサンは舞う。
舞いながら、剣を振るう。
その動きは華麗にして苛烈。ユナは押し切られそうになるが、なんとかギリギリで踏みとどまって、敵の攻撃を防いでいる。
やむなく防戦一方になっているわけではない。
オルバサンは強いが、しかし、ユナを圧倒的に上回るほどではない。互角、といったところか。油断はできないが、反撃のチャンスは十分にある。
(タイミングを合わせて、スキルを発動すれば、勝てる!)
ユナは自身のレアスキル「フラッシュ・ダンス」を、最も効果的なタイミングで発動させようとしていた。
「フラッシュ・ダンス」は、魔力の消費量に応じて、自分の動きを倍速化させるスキルだ。持続時間こそ短いが、上手く相手の隙に合わせれば、一方的に攻撃を仕掛けることが可能だ。
オルバサンは切れ目なく連続攻撃を繰り出してくるので、なかなかチャンスは訪れない。だけど、どんな戦士あろうと永遠に攻撃しっぱなしでいられる者はいない。必ず息継ぎ、休憩の時は訪れる。そこへ、「フラッシュ・ダンス」を重ねれば勝てる、とユナは確信していた。
無限に続くかと思われたオルバサンのソードダンスだったが、ついに、切れ目が訪れた。
それは、並の戦士であれば見落とすであろう、ごくわずかな停滞の瞬間であった。ほんの少し呼吸を整えるため、オルバサンは足を止め、息を吸った。
「『フラッシュ・ダンス』!」
そこで、ユナはスキルを発動し、通常の三倍のスピードで突撃した。
いくらオルバサンが強くても、目にも止まらぬ速さで動かれたら、太刀打ちはできない。
腹に俊速の剣を叩き込まれ、オルバサンはグフッ! と呻いて、その場でうずくまった。
「いまだニャ!」
ユナとオルバサンのぶつかり合いに割り込めず、ずっと隙を窺っていたチェロが、オルバサンに飛びかかり、地面の上に組み伏せた。そして、相手の喉笛を掻き切ろうとする。
「待って! 殺してはダメ!」
ユナに止められて、チェロはキョトンとした。
よくよく見れば、オルバサンは生きている。腹に剣を叩き込まれたが、刃を当てられたわけではなかったのだ。チェロは不思議そうに小首を傾げた。
「なんでニャ? こいつは、帝国に歯向かう賊だニャ。倒しておくべきだニャ」
「気になることがあるの。彼から、話を聞いておきたい」
滅びし砂漠の王国の王族であるというオルバサン。彼が言うには、故国の滅亡の一端に、ガルズバル帝国が関わっているとのことだ。その話を、もっと聞かせてほしかった。
「こいつは捕らえておくべきよ。そうすべき」
自分に言い聞かせるように、ユナはそう言った。しかし、どこか後ろめたい気持ちもあった。オルバサンはガルズバル帝国にとって不都合な真実を知っている可能性が高い。そのオルバサンを生かしておくことは、帝国に対する背信行為であるかもしれない。
それでも、ユナは、真実を知りたかった。
※ ※ ※
朝になり、オルバサンらは捕縛された状態で、トールに引き渡された。
「メルセゲル王国の、王族……か。まさか、こんな風に盗賊へと身をやつしているとはな」
トールは哀れんだ様子で、オルバサンのことを見ている。
オルバサンは、憮然とした表情で、ひたすら沈黙を貫いている。敗者ゆえ語ることなし、といったところか。
「あなたには詳しく教えてほしいことがあるの、オルバサン。メルセゲル王国滅亡に、ガルズバル帝国が関与していた、という話」
ユナは、あえて全員の前で問いかけた。真実なら、自分一人だけで抱えておくには、あまりにも重い内容だからだ。できるだけ多くの人々と情報を共有しておきたかった。
ところが、オルバサンは何も答えない。戦闘中はあんなにペラペラと喋っていたのに、いざ負けると、途端にだんまりを決め込んでいる。
「何か答えてよ」
「もう俺から語ることはない。殺せ」
「そういうわけにはいかないわ。あんな話を聞かされて、そのままでなんていられないもの」
「あれ以上語ることはない」
「嘘言わないで。滅亡の当事者でしょ。私達が知らないことを色々知ってるはずよ」
そんな押し問答を繰り広げているところへ、馬車がやって来た。
ニハルだ。何人かの護衛バニーを連れている。
「やっほー! 様子を見に来たよ。すごいね、たった一日で盗賊を倒した、って……」
そこまで言いかけたところで、ニハルはギョッとした表情になり、立ち止まった。
オルバサンのことを凝視している。
「オルくん⁉︎」
そう呼びかけられたオルバサンもまた、ニハルの顔を見て、あからさまに動揺した。
「ニハル⁉︎ どうしてここに⁉︎ そして、なんだ、その格好は⁉︎」
「わあー! オルくんだ! 生きてたんだね!」
ダッと駆け寄ったニハルは、思いきりオルバサンに抱きつき、頬ずりせんばかりの勢いで喜んでいる。
「な、なに⁉︎ なんなの⁉︎」
「あー、ごめんごめん。ユナちゃん達はいきなり過ぎて、ビックリするよね」
オルバサンから離れたニハルは、あらためて説明を始めた。
「この人は私の従兄のオルバサン。オルくんって呼んでるの。もともとメルセゲル王国っていう砂漠の国で一緒だったんだけど、メルセゲルが滅んでから、生き別れになっちゃってたんだ」
ニコニコと笑いながら、サラッとニハルはとんでもないことを言い放つのであった。
舞いながら、剣を振るう。
その動きは華麗にして苛烈。ユナは押し切られそうになるが、なんとかギリギリで踏みとどまって、敵の攻撃を防いでいる。
やむなく防戦一方になっているわけではない。
オルバサンは強いが、しかし、ユナを圧倒的に上回るほどではない。互角、といったところか。油断はできないが、反撃のチャンスは十分にある。
(タイミングを合わせて、スキルを発動すれば、勝てる!)
ユナは自身のレアスキル「フラッシュ・ダンス」を、最も効果的なタイミングで発動させようとしていた。
「フラッシュ・ダンス」は、魔力の消費量に応じて、自分の動きを倍速化させるスキルだ。持続時間こそ短いが、上手く相手の隙に合わせれば、一方的に攻撃を仕掛けることが可能だ。
オルバサンは切れ目なく連続攻撃を繰り出してくるので、なかなかチャンスは訪れない。だけど、どんな戦士あろうと永遠に攻撃しっぱなしでいられる者はいない。必ず息継ぎ、休憩の時は訪れる。そこへ、「フラッシュ・ダンス」を重ねれば勝てる、とユナは確信していた。
無限に続くかと思われたオルバサンのソードダンスだったが、ついに、切れ目が訪れた。
それは、並の戦士であれば見落とすであろう、ごくわずかな停滞の瞬間であった。ほんの少し呼吸を整えるため、オルバサンは足を止め、息を吸った。
「『フラッシュ・ダンス』!」
そこで、ユナはスキルを発動し、通常の三倍のスピードで突撃した。
いくらオルバサンが強くても、目にも止まらぬ速さで動かれたら、太刀打ちはできない。
腹に俊速の剣を叩き込まれ、オルバサンはグフッ! と呻いて、その場でうずくまった。
「いまだニャ!」
ユナとオルバサンのぶつかり合いに割り込めず、ずっと隙を窺っていたチェロが、オルバサンに飛びかかり、地面の上に組み伏せた。そして、相手の喉笛を掻き切ろうとする。
「待って! 殺してはダメ!」
ユナに止められて、チェロはキョトンとした。
よくよく見れば、オルバサンは生きている。腹に剣を叩き込まれたが、刃を当てられたわけではなかったのだ。チェロは不思議そうに小首を傾げた。
「なんでニャ? こいつは、帝国に歯向かう賊だニャ。倒しておくべきだニャ」
「気になることがあるの。彼から、話を聞いておきたい」
滅びし砂漠の王国の王族であるというオルバサン。彼が言うには、故国の滅亡の一端に、ガルズバル帝国が関わっているとのことだ。その話を、もっと聞かせてほしかった。
「こいつは捕らえておくべきよ。そうすべき」
自分に言い聞かせるように、ユナはそう言った。しかし、どこか後ろめたい気持ちもあった。オルバサンはガルズバル帝国にとって不都合な真実を知っている可能性が高い。そのオルバサンを生かしておくことは、帝国に対する背信行為であるかもしれない。
それでも、ユナは、真実を知りたかった。
※ ※ ※
朝になり、オルバサンらは捕縛された状態で、トールに引き渡された。
「メルセゲル王国の、王族……か。まさか、こんな風に盗賊へと身をやつしているとはな」
トールは哀れんだ様子で、オルバサンのことを見ている。
オルバサンは、憮然とした表情で、ひたすら沈黙を貫いている。敗者ゆえ語ることなし、といったところか。
「あなたには詳しく教えてほしいことがあるの、オルバサン。メルセゲル王国滅亡に、ガルズバル帝国が関与していた、という話」
ユナは、あえて全員の前で問いかけた。真実なら、自分一人だけで抱えておくには、あまりにも重い内容だからだ。できるだけ多くの人々と情報を共有しておきたかった。
ところが、オルバサンは何も答えない。戦闘中はあんなにペラペラと喋っていたのに、いざ負けると、途端にだんまりを決め込んでいる。
「何か答えてよ」
「もう俺から語ることはない。殺せ」
「そういうわけにはいかないわ。あんな話を聞かされて、そのままでなんていられないもの」
「あれ以上語ることはない」
「嘘言わないで。滅亡の当事者でしょ。私達が知らないことを色々知ってるはずよ」
そんな押し問答を繰り広げているところへ、馬車がやって来た。
ニハルだ。何人かの護衛バニーを連れている。
「やっほー! 様子を見に来たよ。すごいね、たった一日で盗賊を倒した、って……」
そこまで言いかけたところで、ニハルはギョッとした表情になり、立ち止まった。
オルバサンのことを凝視している。
「オルくん⁉︎」
そう呼びかけられたオルバサンもまた、ニハルの顔を見て、あからさまに動揺した。
「ニハル⁉︎ どうしてここに⁉︎ そして、なんだ、その格好は⁉︎」
「わあー! オルくんだ! 生きてたんだね!」
ダッと駆け寄ったニハルは、思いきりオルバサンに抱きつき、頬ずりせんばかりの勢いで喜んでいる。
「な、なに⁉︎ なんなの⁉︎」
「あー、ごめんごめん。ユナちゃん達はいきなり過ぎて、ビックリするよね」
オルバサンから離れたニハルは、あらためて説明を始めた。
「この人は私の従兄のオルバサン。オルくんって呼んでるの。もともとメルセゲル王国っていう砂漠の国で一緒だったんだけど、メルセゲルが滅んでから、生き別れになっちゃってたんだ」
ニコニコと笑いながら、サラッとニハルはとんでもないことを言い放つのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
61
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる