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~番外編~

妊娠出産編・番外 『その時の雲雀くん』

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こちらは以前拍手御礼小説として公開していたSSになります。
千鶴出産時東京でバイト中だった弟・雲雀のお話。読者様からいただいたネタを元に書かせていただきました。
※こちらには拙作『合縁奇縁』『お嬢と!』のキャラが登場します。(雲雀のバイト先が『合縁奇縁』の舞台となったカフェで、『お嬢と!』に登場する双子が雲雀の大学の友人なので)※
以下、未読の方のための簡単なキャラ説明です。
・タケル(雲雀のバイト先の店長。オネェ)
・清香(タケルの同居人兼恋人。清楚系美少女。高校生)
・秋吉(雲雀のバイト先の副店長。タケルの親友(悪友?))
・左近(雲雀の大学の友達。双子の兄)
・右近(雲雀の大学の友達。双子の弟)
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 いつものようにカフェ『miel』でバイトに励んでいる雲雀だったが、その様子がおかしい。
 やけにそわそわしているのだ。それも、どうもエプロンのポケットを気にしている節がある。
 その挙動不審ぶりには、店長であるタケルも、タケルの同居人兼恋人の清香も、他のスタッフも気付いていた。
「どうしたのかしら? 雲雀ちゃん」
 タケルはそっと、隣に立つ副店長兼親友の一人、秋吉に尋ねる。
 秋吉は「さあ?」と肩を竦めた。

「「ひーちゃんは、実家からの連絡を待ってるんだよ」」

 二人の疑問に答えたのは、カウンター席に座る青年二人だった。
 鏡に映したようにそっくりな容姿から、二人が双子であると一目でわかる。
 右近と左近という、雲雀の大学の友達だ。
 最初、雲雀に連れて来られてこの店にやってきた二人は、今ではすっかり常連となっている。
「実家? あらやだ、もしかして誰かご病気、とか?」
「あ、そういやぁ緊急連絡が入るかもしれないから携帯持ったままバイトさせてくれって言われてたなぁ」
 双子の話に、秋吉がぽんと両手をつく。
「ちょっと、アンタそんな大事な話をなんでアタシに報告しないのよ」
「悪い悪い、忘れてた」
 けらけらと笑う秋吉の脇腹を、タケルが無言でどつく。
「でも、そういう事情ならしばらくバイトは休ませた方が……」
「「大丈夫。そういうんじゃないから」」
 またも双子が答えた。
 その整った顔が、にやにやと愉快気に笑っている。
「どういうこと? さっちゃん、うーちゃん」
「ひーちゃんのお姉さんが、今臨月なんだって」
 と答えたのは左近。
「だからひーちゃんは、いつ「お姉さんが産気づいた!」って連絡が入るか、そわそわしてるんだよ」
 それに続いて答えたのは右近だ。
 なるほど、と。タケルと秋吉は顔を見合わせる。
 雲雀のシスコンぶりはこの店でも周知の事実だった。
「でもさ~、予定日にはまだまだ早いんだよ」
「ね~」
 くすくすと双子が笑う傍から、あまりにもそわそわしている雲雀がついに「雲雀さん! 落ち着いて下さい!!」と清香に怒られていた。


 そんな風に雲雀が今か今かと待ち続けているから、自然、『miel』の面々もその時を待ち望むようになっていた。
 元気な子が生まれるといい。
 大事もなく無事にお産が終わるといい。
 そう思っていた矢先、バイト中の雲雀のエプロンポケットに入っていたスマートフォンがブルブルっと振動した。
 バイト中、雲雀は家族からの連絡以外は全て着信音もバイブ機能も消しているらしい。だから、この振動は家族からの連絡。そしてこのタイミングでの連絡は、つまり……
「すみません、失礼します」
 雲雀は慌てて客とタケルに断りを入れると、さっとスタッフルームに入っていった。
 タケルも秋吉に目配せし、後を追う。

「はあ!? もう生まれそう!?」

 スタッフルームの扉を開けたとたん、雲雀の大きな声が響く。
 それを聞いて、タケルもぎょっとした。
「連絡遅いよ!! え? 急に産気づいた……って、そりゃ……。うん、うん。え? そりゃ、俺も駆けつけたいけど……」
 バイトのことを気にしているのだろう。雲雀は今日から三日連続でシフトに入っている。
 だがタケルは、ぽんぽんと雲雀の肩を叩き、「店の事なら気にせず、帰りなさい」と小声で言う。
「~っ、ありがとうございます!」
 雲雀はスマートフォンを手で押さえてタケルに深く頭を下げると、すぐにそちらへ向かう旨を家族に伝えた。

 それから雲雀はバタバタと制服から私服に着替えて、スタッフルームを出る。帰りは裏口からではなく、店を通って出ていくことにした。
 迷惑をかけることになる他のスタッフにも礼を言っておこうと思ったのだ。
 すると……
「雲雀ちゃん、これ、持って行きなさい」
 タケルが店のロゴの入ったケーキボックスを渡してくれた。これは、期間限定で持ち帰り用に販売しているアップルパイだった。
「店の物で悪いけど、ご家族で召し上がってね」
「店長……」
「雲雀~、焦り過ぎて転ぶなよ~」
 カウンター奥の厨房からは、秋吉がひらひらと手を振ってくれる。
「雲雀さん、店のことは私達に任せて下さい。お姉さんに、元気な赤ちゃんが無事生まれるといいですね!」
 さっきまでフロアにいなかったはずの清香は、今日は手伝う予定もなかったのに雲雀が抜けるから降りて来てくれたのだろう。だが嫌な顔一つせず、他の皆も温かく送り出してくれる。
「ありがとう、ございます!」
 雲雀は改めて、この店でバイトしていて良かった!! と思った。


 翌日。
 タケルの元に、雲雀からメールが届いた。
 残念ながら、雲雀はお姉さんのお産には間に合わなかったようだ。
 実家に辿り着いた時にはすでにお産も終わっていて、面会時間も過ぎていたと。
 だが次の日、ようやく姉とその子供に面会できた雲雀は、姉も赤ちゃんも無事であること。
 タケルが差し入れたアップルパイを、家族で美味しく食べたこと。
 そして、生まれてきた赤ちゃんがすごく、すごく可愛いということをメールに書いて、写真まで添付してきた。
 曰く、「俺と姉ちゃんにすっごく似てて可愛い」とのこと。
 変わらぬシスコンぶりに呆れるが、お姉さんと雲雀、そして赤ちゃんの三人で写っている写真は微笑ましかった。
 確かに雲雀と姉は似ているし、赤ちゃんにも多少その面影はある……かもしれない。
「ふふっ。可愛いわねえ……」
 それに、赤ちゃんの写真は良い。可愛くて、見ているだけで幸せな気分になる。
 にこにこと写真を見ていると、ひょいと隣に清香が寄り添って来て、一緒に写真を見た。
「タケルさん、もうずっとその写真見てますねぇ」
「だって可愛いんだもの」
「むう……」
 タケルがデレデレっとした顔で言うと、清香はどこか面白くなさそうに頬を膨らませた。
 清香も赤ちゃんを可愛いとは思うのだが、タケルがあまりにも夢中なのでちょっと嫉妬しているのだろう。
(アラヤダ! もう、可愛いったらないわぁ……)
 そんな恋人の嫉妬心が可愛くてしょうがない。
 タケルは清香の小さな頭をそっと抱き寄せて、

「……俺の子供はキヨが生んでくれるよね?」

 と耳朶に囁く。
「~っ!!」
「ふふっ! アタシもキヨにそっくりの可愛い赤ちゃん、欲しいわぁ」
「もう! タケルさん!!」
 照れて顔を真っ赤にする清香が、ばしばしとタケルの肩を叩く。
 タケルはくすくすと笑いながら、もう一度、雲雀からのメールに目を通した。
 メールからは、甥っ子の誕生を喜ぶ雲雀の気持ちが溢れている。

(よかったわね、雲雀ちゃん)
 
 タケルはにこにこっと笑みを浮かべて、「ようし今日も頑張るわよー!!」と店に立った。




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雲雀の番外編……のつもりで書き始めたはずが、気付けば『合縁奇縁』のキャラのお話……みたいになってました(^^;)
未読の方には「ごめんなさい!!」なお話でしたが、千鶴出産時の雲雀はこんな様子でした~。

久しぶりに『合縁奇縁』のキャラや『お嬢と!』の双子が書けて楽しかったです。
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