わたしがヒロインになる方法

有涼汐

文字の大きさ
2 / 21
1巻

1-2

しおりを挟む

「へぇ、結構本格的?」
「え? 全然そんなことありませんよ? 普通……かと。一人の時は、グラッセもマッシュポテトも作りませんし」

 謙遜けんそんではない。若葉の作るハンバーグは特にこれといって隠し味もない普通のハンバーグである。

「また食べたいなー」
「今度泊まりに来たらね」

 朱利は嬉しそうに「やったぁ!」と声を上げる。いつもより笑い上戸じょうごになっているところを見ると、これは結構酔いが回ってきている。
 気が付けば、入ってからすでに二時間は経過していた。そろそろおひらきとのことで、一旦化粧室に行って戻ってくると、すでに他の三人は店を出る格好になっていた。若葉も慌ててジャケットを羽織り、御影達のあとについていく。お会計は、と思ったけれど、店員が愛想よく「ありがとうございました」と頭を下げたところを見ると、もう御影と羽倉が払ってしまったのだろう。
 階段を上り、大通りまで来たところで御影がタクシーを止め、羽倉と朱利が乗り込む。
 現在二人がどういう関係かわからないので、慌てて自分が朱利を送ると申し出たが、少し酔いの覚めた朱利が「大丈夫、また来週」と笑っているので、そのまま送り出すことにした。

「羽倉さん、ちゃんと送ってあげてくださいね」
「はは、大丈夫。任せておいて」

 羽倉は笑いながらそう告げると、タクシーを出発させた。


 御影と二人きりになるのは、別に初めてではない。だがそれは会社の中、それもエレベーターの中で偶然そうなったなどという話であって、こうやってお酒が入った状態で二人きりという展開は初めてだ。会社の飲み会の時は、いろいろな女性が彼を狙って周りを囲んでいるし、ましてやプライベートな付き合いなんてほとんどない。
 それにたとえ二人きりになったとしても、物語のヒーローである御影が脇役女子の若葉をどうこうしようなどと考えるわけがない。自分の程度ぐらい、自分が一番理解している。

「あ、そうだ! 御影さん、さっきの食事代いくらですか? ちゃんと払います!」
「いや、いいよ。俺達のおごりだ」
「で、でも!」

 かばんから財布を取り出して握り締める。誕生日など何かのお祝いでもないのに、一銭も出さないわけにはいかない。
 すると御影は呆れたような顔で、若葉の額を指で軽くはじいた。

「いいんだよ。そもそも、俺達がお前らの邪魔をしたようなもんだし。ありがたく奢られとけ」
「……はい、ありがとうございます。ご馳走様ちそうさまです」

 そう言われると、こちらもかたくなに払うとは言えない。それならありがたく奢ってもらおう。もし今後、一緒に食事する機会があったら自分が奢ればいい。……そんな機会があればだけど。
 気がつけば時刻は夜の十時近くになっていた。このまま駅へ行って解散かな、と思い、隣に立っている御影に声をかける。

「とりあえず、駅行きましょうか」
「ん? あぁ……」

 御影の反応が少し遅い。どうしたのかと身体を傾けて顔を覗き込んでみる――と、彼は突然、眉間にしわを寄せて、若葉の額の部分を鷲掴わしづかみにした。一体自分が何をした!? と言いたくなったが、とりあえず黙って元の姿勢に戻る。

「御影さん……大丈夫ですか? 酔ってます?」
「いや、全然。というか、お前も強いんだな、酒」
「そう、ですね。朱利とかに比べれば強い方だと思いますよ」

 朱利と同じ量を飲んだというのに、若葉の方はまだ素面しらふに近い。
 二人で駅に続く静かな道を、少し距離を開けながら歩く。この距離が、今の若葉と御影の距離。
 若葉はアルコールにそこそこ強いが、それでも飲めば多少たがが外れるらしく、普段より人に対して馴れ馴れしくなる。この時も、隣を歩く御影に触れたいと素直に思った。脇役だとか、自分なんかとか、そういった言葉は全部どこかに追いやって。ただ、目の前にいるこの人に触れたい。
 ふとぎった想いを、頭を振って散らす。駅に着いたので立ち止まり、御影に挨拶しようと顔を上げる。と、彼がじっと若葉を見下ろしていた。なんだろうかと首を傾げると、御影が口を開く。

「お前、まだ時間平気?」
「……はい、大丈夫ですが」
「なら、もう一軒付き合え」
「え!? ……あ、御影さん!」

 今度は駅を挟んで反対側の繁華街へと歩き出す。どんどん歩いて繁華街を抜け、通りを行き交う人がまばらになってくると、御影は迷うことなくあるビルへと足を踏み入れた。そのまま若葉を連れてエレベーターに乗り込む。この間お互いずっと無言だったので、何となくいたたまれない。どうすればいいのか。

「いらっしゃい」
「どうも」

 店に入ると、マスターが親しげに声をかけてくる。

「珍しいですね、女性を連れていらっしゃるなんて」

 御影は〝うるさい〟と言いたげに顔を軽くしかめる。どうやらここの常連らしい。マスターは御影の態度を気にする様子もなく、奥の窓側の席を勧めてきた。
 そこは窓に向かって横並びに座れる、シックなカップルシートだった。この席に座ると、当然真横に御影が座ることになる。
 さっきの店でも隣同士だったが、あそこでは二人の間にある程度距離があった。が、この席ではどう見ても、二人の肩か膝が触れ合ってしまうだろう。本当にここに座るのかと御影を見上げるが、彼は気にする様子もなくさっさとそのソファーに腰を下ろす。

「何してんだ?」
「あ……いえ……」

 御影はいたって平静だ。若葉は、自分の気にしすぎかと思い直し、彼の隣に腰を下ろす。やはりアルコールのせいで、箍が外れているのかもしれない。
 案の定、二人の膝が触れ合うような近さ。どちらかが少しでも身体を寄せれば肩も触れるだろう。
 もう二度とこんな近くに座ることなんてないかもしれない。それならば、この状況を楽しんだ方がいい。どうせ、何事もなく終わるのだから。そんな風にさえ思ってしまう。

「俺はいつもの、お前は……何か飲みたいのあるか?」
「じゃぁ……私は、ミモザで」

 こういったバーは滅多に来ないが、とりあえず好きなカクテルを頼んでおく。
 きっと〝よくわからないから、御影さん教えてください〟と言うのが、女子として正解なのかもしれない。きっと御影は女子に飲みやすいカクテルを注文してくれることだろう。
 しばらく無言のまま、窓から見える夜景を二人で眺める。眼下ではたくさんのネオンがきらきらしている。
 やがて御影にはバーボンのロックが、そして若葉にはシャンパンベースにオレンジジュースを注いだミモザが届く。ミモザは世界でもっとも美味おいしくて贅沢なオレンジジュースと言われているらしい。確かに、飲みやすいし美味しい。何杯でも飲めてしまう。ドリンクと一緒に出されたのは、ドライフルーツとチーズの盛り合わせ。美味しいチーズに美味しいカクテルの組み合わせは格別だ。
 カランと音を立てながらバーボンを口に運ぶ御影を見て思うのは、バーが本当に似合う人だということ。落ち着きのある店内、男の人を思わせる太い腕にごつっとした指、整った横顔。まるで雑誌に載っている一枚の写真のよう。

「御影さんって、お酒強いんですね」
「そうだな……。ザルとは言われているが」
「酔いつぶれたことってないんですか?」
「ない……、な。俺が潰れる前に、だいたい他が潰れるからな」

 なるほど、と若葉は頷く。他の人より強いため、同じように飲んでいても相手が先に潰れてしまう。ただ、最近ではそこまで飲まずに退散することが多いらしい。
 それから、若葉と御影は他愛もない会話をする。

「御影さんが一番よく飲むお酒ってなんですか?」
「だいたいはビールだな。後は、ウィスキー……他に焼酎とかも飲むが、お前は?」
「んー、そうですね。カクテルを中心にいろいろ試してます」

 飲み始めてから、数杯目。さすがに酔いが回ってきた。せいぜいあと二杯が限度だろう。
 若葉はいつの間にか御影に対しやや絡み酒になっていた。ねたような口調で彼に問いかける。

「御影さんって、私のこと〝お前〟って言いますよねー。私の名前覚えてます?」
「……若葉」

 もし覚えていても苗字の〝鏑木〟だけだと思っていたため、動揺してグラスを落としそうになった。思わず御影の顔を見つめると、彼は熱のこもった瞳で見つめ返してくる。そして、火照ほてった若葉の頬を冷たい指先で撫でてきた。

「んっ……」
「熱いな。瞳もうるんでるし誘われてる気分になる」
「そ、んな……」

 酔った身体を、御影の指と瞳が一層熱くしていく。まるで、御影という存在に酔わされている気分になってきた。御影は息だけでふっと笑い、そっと若葉の頬から手を離した。

「最後にもう一杯飲むか、何か飲みたいのあるか?」

 心臓がバクバクと鳴っていて、飲みたいものが何も思い浮かばない。

「……お、すすめありますか?」
「そうだな……。なら、ポートワイン飲むか?」

 ポートワイン。ポルトガルを象徴するワインで、最高の甘口ワインとして多くの人に愛されているお酒だ。普通のワインよりもアルコール度数が高く、食後酒としてよく飲まれている。
 また、男性からこのポートワインをすすめられるのには意味がある。果たしてこれを知っている女性はどれぐらいいるのだろうか。
 お酒は好きだが詳しくはない若葉が、その意味を知ったのはいつだったか。確か大学時代に〝あいつ〟から聞いたような気がする。思い出したくなくて、若葉は記憶にふたをして答える。

「……ぜひ、それで」

 御影はどうしてポートワインを薦めてきたのか。気まぐれか、本気か、それとも単なる偶然か。そして、若葉の返答をどうとらえたのか。御影の表情や態度は特に変わらない。もしかしたら、若葉がポートワインの意味を知っているかどうか、測りかねているのかもしれない。
 渡されたポートワインをゆっくりと飲む。綺麗なルビー色と、フルーティーな味わい。美味おいしいな、と思いつつ、残りのチーズと一緒にいただいた。これだけ飲むと、さすがに少し眠気が襲ってきてうつらうつらしてくる。外に出た時に、冷たい空気で目が覚めるといいのだけど。

「若葉、行くぞ」
「へ?」

 若葉が眠気とたたかっている間に、御影は支度を済ませてしまっていた。慌てて出る支度をすると、当たり前のように手を繋がれ、引っぱられる。

「ありがとうございました」

 マスターが穏やかな笑顔で頭を下げる。若葉もつられるように頭を下げ、御影と共にエレベーターに乗り込んだ。

「お酒の代金……」
「気にすんな」
「でも……さっきも、おごってもらったし……」

 あぁ、思考がうまくまとまってくれない。眠気がピークになりかけている。このままでは御影にもたれかかって寝てしまいそうだ。それはダメ。そんな迷惑はかけられない。

「むぅ、ちゃんと払いますー! 私大人ですー!」

 若葉は、眠気を振り払いつつ改めて主張する。

「知ってるよ、ちゃんと大人だって。俺が奢りたいだけだから」
「何ですかそれー、わけわかんないですー」

 酔いが回ってきたのか、口調がまるで子どものようになる。
 一方御影は、エレベーターの中で若葉の腰を抱き寄せ、熱をはらんだ瞳で見つめてくる。
 エレベーターが一階に着くと、ビルを出て大通りでタクシーを捕まえる。彼は若葉を車内に押し込むと、自身もそのまま乗り込み、運転手に行き先を告げた。若葉にはそれがうまく聞き取れない。御影は自分の家を知っていただろうか。
 若葉は完璧に酔っ払いと化していた。御影の肩に頭を乗せて寄りかかる。意識はあるが、身体はふわふわしていた。

「御影さん」

 返答はない。酔っ払いの相手ほど面倒くさいものはないだろう。どっかのビジネスホテルで降ろしてもらったって構わないのだけれど。そうは思っても、感情がうまくコントロールができない。

「私お酒強い方なんです……」
「そうだな。弱けりゃバーに行く前に潰れてるだろうしな」
「……だから、お持ち帰りってされたことないんです」

 運転手がいることはわかっていたが、若葉は構わず自分をさらけ出す。
 大学時代からそれなりに飲み会に参加していたが、いつも潰れることなく帰宅していた。けれど同級生の中には、カクテル二、三杯で「酔っ払っちゃった」と可愛く言って、狙った男子を持ち帰る女の子もいた。持ち帰られると見せかけて、女子が持って帰っているというパターンもあるのだ。
 その子達は揃いも揃って「若葉もお酒弱いふりしなきゃダメだよ!」なんて言ってきた。
 だけど、最初の段階で酒に強いと知られてしまった以上、そんな真似をしたら狙いはバレバレだろう。それに、酔っぱらったふりをして結局何もなかった時のことを考えると、とてもじゃないが実行に移す気にはなれなかった。
 自分がモテるどころか、女子として見られること自体少ないのは自覚している。そんな若葉が女子として恋のフラグを立たせるには、勇気が必要だった。それが酒の上での勇気だったとしても。

「私、ポートワインの意味……ちゃんと知ってますよ」

 斜め上にある御影の顔を見つめる。御影は少し驚いた顔をしていた。
 男が女にポートワインをすすめる意味は〝今夜は帰したくない〟だ。女がそれを受け入れて飲む意味は、〝あなたにすべてを〟。もし断る場合はブルームーンを頼む。ブルームーンの意味は〝できない相談〟。相手を振るという意味になる。
 御影の返答はない。やはり単なる気まぐれだったのか。それとも彼にしてみれば意味なんてなかったのか。結局お酒の力を借りた勇気は無駄に終わるのか。
 泣きたくなる。悔しさからなのか、悲しさからなのかはわからない。もしかしたらどちらともか。
 酔った頭で思うのは、この人が最初の人になってくれるといいのに、ということ。無愛想で口が悪くて――でも優しい人だから。
 若葉は、二十六歳にしてまだ未経験だ。こんな自分でも、たった一夜なら大切に抱いてくれるかもしれない。愛し合っているような錯覚を味わわせてくるかもしれない――
 なんて自分勝手で卑怯な考え。我ながら呆れてしまう。けれどその想いは、湧き上がる泉のように心の奥底から溢れ出てくる。
 彼はまだ何も言ってくれない。
 そんなに自分には魅力がないのだろうか。そんなに〝女〟に見えないのだろうか。
 どうしようもないほどに、みじめだ。
 もう考えたくはなかった。悲しいのも苦しいのも惨めなのも嫌だった。
〝お母さん〟だなんて言われて、いつも周りをなだめて面倒を見て、何を言われても笑って受け流しながら、自分一人で傷ついている。
 若葉はいつの間にか目を閉じて寝息を立てていた。ふと片目から一滴の水がこぼれる。

「……帰すわけないだろ……っ」

 意識の沈んでしまった若葉は、御影が切なげにつぶやいた言葉を聞くことはなかった。


 身体がふわふわと浮かんでいる気がした。お酒と煙草の匂いがかすかに鼻をくすぐる。煙草の匂いは少し苦手だけど、これは何故かあまり気にならない。
 若葉は、そばにあった温もりにすり寄った。気持ちがいい。この温かいものは一体なんだろうか。
 ぼんやりと目を開けると、切れ長の黒い目が視界に入る。

「起きたか」
「……う?」
「寝ぼけてんな……、まぁいい。おい、若葉」
「ん……」
「タクシーでのこと、了承と取るからな」

 タクシーでのこととは一体なんだろうか。うなりながら思い出す。

(あぁ、多分ポートワインのくだり)

 これはきっと夢だろう。だって御影が自分を女として抱くと言っているのだ。夢以外の何でもない。だけど、嬉しい。おぼろげな意識の中ではにかみながらも微笑み、頷いた。

「お前、あおりすぎだ……っ」
「んぁ……」

 唇が塞がれる。最初は軽く触れるだけだったけれど、やがてついばまれ、挟まれる。うながすように舐められて、震えながらもかすかに唇を開くと、口づけはさらに深くなる。
 本来なら目をつむってするだろうキス。けれど若葉と御影は、お互いを真っ直ぐ見つめたまま唇を合わせる。御影の瞳に自分が映っていることに、ぞわりとした。
 そう言えば、これがファーストキス。二十六歳になるまでファーストキスすら済ませていなかったなんて、朱利にも言えない。もっと早くしていれば良かった。こんなに気持ち良いものだったなんて。でもそれは、きっと相手が御影だから。
 彼の赤い舌が、若葉の口の中へとねじ込まれる。ぬるぬるとして熱いそれは、若葉の口蓋こうがいや頬の裏を丹念に、まるで確かめるように這っていく。敏感な舌の上をこすられ、溢れる唾液をすすり上げられると、ぞくぞくとしたしびれが身体を支配した。

「……んんっ……」

 御影の手が若葉のシャツのボタンを性急に外していく。今にも引きちぎらんばかりのその手つきは少し怖いくらいなのに、絶え間なく与えられる口づけはどこまでも優しい。
 シャツの前が開かれて、キャミソールをたくし上げられる。今日の下着は何色だったか、上下セットだったか。そんなことが頭をぎるが今更だ。
 ブラの上からもわかるほどにとがり出したいただきに、キスをされる。それだけで腰がびくんと震えてしまう。まだ始まったばかりなのに、これではどこまで持つのかわからない。御影は若葉の反応を確かめながらブラを持ち上げ、胸の膨らみに舌を這わせると、痛いぐらいに吸い上げた。

「……っ」
「綺麗につくな。このあとを花だと例えるヤツがいたが、なるほどな……。こうして見ると確かに花が咲いたみたいだ」

 そう言って舌舐めずりしながら、そこを指でさする。胸元に目をやると、赤い痕がくっきりとついているのが見えた。薄れる意識の中でこれがキスマークなんだと納得する。

「身体、少し浮かせろ」
「は……い……」

 御影の声はまるで麻薬のようで、色気を含んだ低い音が耳を犯す。
 腰を支えられながら身体を浮かせると、腕に引っかかっていたシャツを抜き取られ、キャミソールも脱がされる。ごつごつとした指で背中を撫でられ、器用にブラのホックを外された。その手際の良さに、こういうことに慣れているのかな、とぼんやり思ったけれど、気付かないふりをする。気にしたら何も始まらない。
 腕からブラを抜き取られ、初めて男性の目に自分の裸をさらす。恥ずかしさと熱に浮かされながら御影を見上げると、彼は目を細めて若葉の身体を愛撫あいぶする。

「これは、たまらないな。吸い付くみたいに手に馴染なじむ」

 胸の膨らみを下から持ち上げ、やわやわと揉み、痛いぐらいにとがった若葉のいただきを人さし指で円を描くように撫でる。まるでらされているようで、もっと強くとねだりたくなる。
 小さく息を吐きながらその弱い愛撫を受け入れていると、突然彼の手の動きが激しくなる。片方の頂をぐにぐにと指で挟んで揉んだかと思うと、もう片方を熱い舌で丹念に舐め始めた。

「ひあぁ、あっ……! い、きな、り、っ」

 思わず腰を浮かせる。その瞬間、そこを強く吸い上げられた。身体の芯に甘いうずきが駆け上がり、若葉はシーツを足で掻く。
 続いて御影は首筋や鎖骨にも唇を這わせ、服に隠れるか隠れないかという際どい部分にも痕をつけていく。まるで自分の所有物であると主張するかのように。それは胸の谷間や胸の下、おへそにまで達し、若葉の身体の至るところに赤い花が散る。
 ふと、スカート越しに臀部でんぶを撫でられ身体が震える。だが御影はお構いなしにファスナーを下ろしていく。

「若葉、腰……」
「うぁ……」

 脳内を直接刺激するような色気のある声が耳元でささやいてくる。
 若葉が腰を浮かせると、ストッキングごとスカートをずり下ろされた。スカートはそのまま床に投げ落とされたが、ストッキングは中途半端に片足首に引っかかってしまう。

「全部脱がせるより、こっちのほうがエロいな」
「うー、いじわる、しないでください……っ」
「悪い悪い」

 御影は楽しそうな笑みをこぼしてストッキングを足首から抜き取ると、足首からふくらはぎを往復するように撫でた。若葉はまたビクンと震える。

「んんっ」
「お前はどこもかしこも性感帯みたいだな」
「わ、かんない……ですっ、あ、あっ」

 御影は若葉の片脚を持ち上げ、膝の裏側をべろりと舐めてから、ちゅっちゅっと音を立ててキスをする。彼の唇はそのまま太ももを辿っていき、脚の付け根を強く吸った。若葉は太ももを閉じようとしたが、間に入り込んできた御影の身体にはばまれてしまう。
 彼の視線がどこに注がれているのか、経験の少ない若葉にもはっきりとわかる。

「そ、んなところ……っ、見ないで、ください……」
「それは聞けないな」

 そう言いながら、御影は下着越しに若葉の秘所を何度も指でこする。するとそこは次第にぐちゅりと湿った音を立て始めた。若葉は恥ずかしさにもがきたくなるが、火照ほてった身体はうまく動かない。そんな若葉に構わず、御影は下着の上から丁寧に秘所をほぐす。

「ん、ん、っ」

 唇から溢れそうになる甘い声。若葉は手の甲で唇を押さえ必死に我慢していたが、御影は眉間にしわを寄せながら、その手を取ってシーツに縫いつける。

「あぁっ、や、こえ……でちゃうっ」
「いいから、ちゃんと感じてる声聞かせろ。俺しか聞いてない」

〝その御影さんに聞かれるのが恥ずかしいのだ〟と反論しようとしたが、未だ止まらない愛撫あいぶのせいで言葉にならない。愛液でぐちゅぐちゅに濡れた下着に御影の指がかかり、若葉に見せつけるかのようにゆっくりと下ろしていく。そのさまはあまりにも卑猥ひわいで、若葉の身体は余計に熱くなる。
 御影はここでようやく自身のシャツを脱ぎ捨てた。そしてまた身体をかがめ、若葉の秘所に指を一本、埋め込んでいく。

「いっ……つ……」
「痛いのか?」

 初めて受け入れた異物に若葉がうめくと、御影は指を抜いて心配そうに尋ねる。

「だ、いじょうぶ……ですっ」
「若葉……、お前もしかして、初めてか?」

 これ以上熱くならないと思っていたのに、御影の言葉を聞いて若葉の全身はさらにカッと熱くなった。それだけで御影は答えを察したのだろう。

「それなら、もっと解さないとお前が辛いな」

 御影の口調からは、若葉が処女であることを面倒くさがる様子も、特に喜ぶ様子もうかがえなかった。ただ、「解さないと」のあたりで声が少しはずんだように聞こえたのは、きっと気のせい。願望ゆえの空耳。
 そう、これは若葉が見ている〝願望〟という名の夢の世界。
 そうでなかったとしても、若葉の願望が現実に色をつけていることは間違いない。だって、若葉を見つめる御影の瞳がこんなにも優しく見える。
 御影は若葉の太ももを抱きかかえると、またゆっくりと秘所に指を埋め込み、ゆるゆると馴染なじませるように膣壁をこすっていく。
 若葉ははっはっと短く息を吐きながら、優しい愛撫あいぶに身体がどんどんうずいてくるのを感じた。

「もう一本増やすぞ」

 近くにいるはずの御影の声が、どこか遠くから聞こえてくる気がする。
 穏やかな愛撫がもたらす優しい快感。それがむしろもどかしい。
 もっと、強くしてほしい。もっと、激しくしてほしい。奪うぐらいで構わない。
 だが御影の手は変わらず緩慢かんまんだった。増やされた指は膣内でうごめき、何度も抽挿ちゅうそうを繰り返す。やがて先ほどよりほぐれただろうそこに、突然生暖かい風を感じた。

「ひぁっ、な、に……」

 驚いて下腹部のあたりにいる御影に視線をやると、彼は秘所に顔を近付けていた。思わず身体を上にずらして逃げようとしたが、力強い腕に太ももを押さえられてしまう。
 おまけに脚を頭の方へ持ち上げられ腰を浮かせたまま固定されてしまい、誰にも見られたことのないそこを御影に見せつけるような形になった。

「や、や、それっ、やぁ……っ」
「大丈夫だ、気持ち良くなるだけだから」
「あ、あ、あっ」

 とがらせた舌が、入り口部分をねっとりと上下に往復する。それを何度も繰り返した末に、溢れ出してきた蜜をじゅるじゅるっと音を立てながら吸い上げられ、舌をねじ込まれる。

「ひあぁあっつ、あ、ついぃ」

 どこもかしこも、熱すぎる。熱いのは御影の舌か、自分の身体か、それともその両方なのか。頭を振りながら若葉は快楽を逃がそうとするがうまくいかない。
 御影の唇が花芯を優しく挟み込み、舌でちろちろと舐める。頭が真っ白になりそうな快楽が怖くてたまらない。この行為はどこまで自分の脳を溶かしていくのか。

「き、きちゃう……み、かげさん……なんかきちゃうっ」

 足のつま先から何かが勢いよく駆け上がってくる。耐え切れそうにない何かに、翻弄ほんろうされている。
 御影が息だけでふっと笑う。それが花芯にかかり、若葉の喉からは「ひっ」と小さな声があがる。

「イキそうなんだな、怖がらないでイっていい」

 じゅぅっと大きな音をたてながら、強く花芯を吸い上げられた。
 先ほどまでの優しい愛撫とはうってかわって、御影の舌は容赦なくそこをなぶる。

「あっ、ひ、うぁあ、あ、あ……っ。あぁああああっ……」

 若葉は腰を痙攣けいれんさせて、ひときわ高い嬌声きょうせいを上げた。目の前がチカチカして、涙で御影の顔がゆがんで見える。
 一度達した若葉は、ぐったりと肢体を投げ出してゆっくりと息を整える。わずかに身体は動くが、とてもだるい。これがイクということなのか。
 消えそうな意識の中で、かすかにガチャガチャという金属音や袋を破くような音が聞こえてくる。頭の隅で何の音かと思ったけれど、それを確認するために上半身を起こす力はなかった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。