3 / 15
3.皇子妃候補は辞退する
しおりを挟む数日後、父は私の怪我や記憶喪失を理由に、皇子妃候補辞退を陛下に申し入れ、無事に了承された。
表向きは不幸な事故としているが、お見舞金と称した慰謝料が支払われた。
その額はかなりの金額らしいが、父は私にそっくりくれると言っている。
一方で、ケヴィン殿下は、何故か猛烈に反対したそうだが、元々自身の派手な女遊びが発端となっていることが陛下にバレて、きついお叱りを受けたそうだ。
皇子妃候補は他にも三人居た筈なので、私一人居なくなってもいいだろう。
ちなみに、事故の時のエレステラ子爵令嬢は、ドレスを踏んで躓いただけなのに、二十歳も歳の離れた南部のボルト男爵に嫁がされると、オネスト子爵がお詫びに来た時に話していたそうだ。
ケヴィン殿下のような美男に熱を上げていたのに、ドレスを踏んだだけでチビデブハゲなオッサンの嫁とは…と父は悪い顔で笑った。
無表情のままの娘に、様々な事情をゆっくり言い聞かせるように話す父や母は、とても優しい人だなと思う。
しかし、そんな親を騙してまでも、私は煌びやかな首都には居たくなかった。
公爵家は兄が継承するから問題ない。
ちょっとウザい妹ラブの兄だけど、優秀で優しく女遊びもしない。
だから、私は心置きなくここを去れる。
数年後、記憶が戻ったと言っても、この家族なら受け入れてくれる自信がある。
だから、今はここから逃げることを許して欲しい。
「あと、ジリアンのことなんだが、ユリアナに結婚を申し込んできたんだ。首都に居るのはつらいことも思い出すかもしれないから、ジリアンの持つ別荘に移住し、主治医としてだけでなく、伴侶としても支えたいと言っておる。」
「えっ…あの専属の医師の方ですか?」
「そうだ。幼馴染として仲も良かったし、医師としても優秀だし、騎士としての能力も高い。今すぐに決めなくていい。体が動かせるようになるまで、ゆっくり考えなさい。その間にジリアンの為人を観察して、記憶喪失でも結婚生活を送れるか、夫としてはどうかを考えてみるといい。」
「ユリアナ、ジリアンとは本当に仲が良かったのよ?皇子妃候補にならなければ、ジリアンと結婚していたかもしれないわね。記憶が戻ったら、たぶんあなた達は結婚するかもと思ったりもするわ。」
「お父様もお母様も思い出せなくて申し訳ありません。でも、大切にしてくださっていたのは分かる気がします。ジリアン様のことも考えてみます。」
父や母が部屋から出て、私は溜め息をついた。
(ジリアンの奴、周りを固めたな?ついて来るとは思っていたけど、結婚て…)
ジリアンなりに考えてくれた作戦かもしれないので、次に会ったら聞いてみよう。
とにかく今は、ジリアンの助けがないと、ここから動けない。
優秀なパートナーではあるので、ジリアンを信じるしかない。
397
あなたにおすすめの小説
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜
涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください
「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」
呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。
その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。
希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。
アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。
自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。
そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。
アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が……
切ない→ハッピーエンドです
※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています
後日談追加しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる