【完結】それが愛だと気付く前に〜全て賭けて私を溺愛する幼馴染は、かなりの策士でした〜

紬あおい

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4.皇子からの謝罪と決別

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事故からひと月。
家族やジリアンの助けもあり、怪我は順調に回復して、庭園の散歩程度は出来るようになった。
左腕の骨折も、ようやく骨がくっ付いたようで、無理をしなければ痛まない。

ジリアンとは毎日一緒に居るが、あくまでも主治医というスタンスは崩さない。
結婚について聞きたい気もするが、両親からは考える時間を持つように言われているし、あまり親しくジリアンと話すわけにもいかず、現在に至る。

今日もリハビリを兼ねた散歩をし、ガゼボでひと休みしていた。
目の前にはお茶も茶菓子もあるが、ぼうっとしてしまう。

「公女様、何かお飲みになりますか?」

「結構よ。少し休みたいだけ。」

その時、不意に足音がして、背の高い美男子が現れた。
ケヴィンだ。

「ユリアナ、ちょっと話せるか?」

「申し訳ありません…どなたですか?」

「記憶喪失なんて嘘なんだろう?」

ジリアンが私の前に守るように立つと、ケヴィンは腹立たしげにジリアンを押し除けようとする。

「邪魔だ。おい、ユリアナ!」

「殿下!公女様は本当に記憶を失くされていますし、骨折もやっと治ったばかりです。お話しになりたいのなら、どうか落ち着いてください。」

「っ……そうか、すまない…」

ジリアンに諭されて、ケヴィンの態度が軟化する。

私がお茶を淹れてケヴィンに差し出すと、ひと口飲んで溜め息を漏らす。

「ふぅ…記憶を失くしても、お茶の味や淹れる時の美しい所作は変わらないのだな。美味いよ、ユリアナ。」

「ありがとうございます。身体が覚えていることもあるのでしょう。」

「本当に俺のことを忘れてしまったのか…順調に皇子妃教育が終われば、来年には結婚する筈だったのにな。」

「……………」

「守れなくて…すまない…」

そう言うと、ケヴィンは静かに去って行った。
何から守れなかったのか、何に対してすまないと謝っているのか、分からないままだが、これで全て終わったのだ。

テーブルに残されたティーカップのお茶は飲み干されていて、美味いと言ったのは本心なんだと思った。

皇子妃候補となり、ケヴィンに褒められたことはない。
いつだって私には無関心だった。
なのに今更、お茶を淹れる所作を褒められた。

(全く無関心だったわけじゃないのね。少しは見ていてくれたんだ。)

そう思ったら、少し泣けた。
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