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5.幼馴染は求婚する
しおりを挟むケヴィン殿下が帰った後、ジリアンはしばらく何も言わずに傍に居てくれた。
私の涙が止まるのを待つかのように。
「ユリアナ、落ち着いたか?」
「うん。全て終わったんだなって。やっとケヴィンに振り回されなくて良くなったから、これは嬉し涙よ。あ、もう殿下って言わなきゃね?」
「ここを離れたら殿下とも言わなくなるさ。喧騒から離れて俺と静かに暮らさないか?」
ジリアンは、私の頬に手を添えて笑う。
「ジリアン…求婚してくれたってお父様とお母様に聞いたわ。いくら幼馴染でも、そこまでしてもらうのは悪いわ。ジリアンは凄いお医者様だもの…」
ジリアンの人生を、私の記憶喪失なんて嘘に巻き込んではいけない。
「君は、何も分かってないんだなぁ。静かに暮らすことを考えろ。今は、俺と結婚することが一番皆が安心するだろう?ユリアナも家族も。幼馴染・主治医・護衛騎士、一人三役のお得な俺だぞ?」
「ふふっ、お得だなんて、ジリアンたら!でも、そうよね。ジリアンなら安心だわ。お願いしようかな。」
「よし!今から公爵様の所に行くぞ。俺に任せてくれ。」
「ちょっと、ジリアン?これは!?」
ジリアンは、ひょいと私を抱き上げて、父の執務室に向かう。
「公爵様、失礼致します。公女様に結婚を申し込み、承諾していただきましたので、ご報告に参りました。必ず幸せにしますので、どうかお許しください!」
「はっ!?ユリアナの記憶は?」
執務中の父が目を見開き、立ち上がる。
「記憶は戻りません。しかし、幼馴染であり医師である私を信じて、結婚してくださるそうです!」
「そうか…ユリアナは、本当にそれでいいんだな?」
「はい。ずっと傍に居てくださって、記憶がなくても、ジリアン様なら安心して一緒に居られる気がしました。先程、ケヴィン殿下と仰る方が庭園にいらしたのですが、怖くて怖くて…ジリアン様が一緒に居てくださったので大丈夫でしたが。」
「何!?殿下が来たのか?何しに?」
「殿下は公女様に謝罪にいらしたのですが、どなたか分からず公女様は怖かったと思います。ここに居ると、そのような想いをこれからもなさると思いますので、私と結婚して穏やかな地に行くのが最良かと。」
ジリアンの控えめ、且つ饒舌な説得に感心しながら、私はジリアンの腕の中で大人しくしている。
「そうか…ジリアンを信頼しているようだし、君にユリアナを任せたいが、ユベントス侯爵家の方は大丈夫か?ジリアンのご両親とは、まだ話していないのだが。」
「うちは兄が既に侯爵を継承することが決まっています。だから私は、医師だったり、騎士だったり、自由にしておりまして。結婚に際して、身分が必要であれば父が持っている爵位をもらうことも可能です。」
「いや、私が持つ爵位を授けよう。それならば、問題なく結婚出来るであろう。殿下の所為でこうなったのだから、陛下も承認せずに居られないだろうし、そこは私が動く。他に必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれ。」
「ありがとうございます。都度、相談させていただきますので、よろしくお願い致します。」
ジリアンは完璧に父を説得し、満足したようだ。
その後、私を抱いたまま、私室に連れて行ってくれた。
「ゆっくり休んで。全て俺に任せて。大丈夫だから。」
呪文のように囁くジリアンの声を聞きながら、私は眠りに落ちた。
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