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11.完全に過去の人
しおりを挟むジリアンと暮らし始めて一年。
料理も身の回りのことも、ほぼ出来るようになった。
ジリアンの根気ある指導のおかげだ。
出来なくても怒らない、出来たらベタ褒めで溺愛。
私の夫は甘いにも程がある。
「うん、ユリアナの手作りクッキーは最高だな!手が止まらないよ!!」
いつもこんな感じで、褒め殺しだ。
「クッキーばかり食べてないで、今日は買い物に付き合って。赤い刺繍糸がないの。」
「分かった。馬で行こう。」
二人だと馬の方が早い。
というのは建前で、私を抱っこしたいだけらしい。
ちなみに、馬車の時も抱っこだ。
今では、恥ずかしくないどころか、抱っこじゃないと寂しいと思うようになってきた。
人は、続くと慣れるものだ。
「ユリアナ、俺は書店に用があるのだけど、君は?刺繍糸を買ってから一緒に行くか?」
「私の用事はすぐに済むので、先に書店に行っててくださってもいいわよ。」
「じゃあ、そうするか。医学書の辺りに居るから、後で来てくれ。」
私達は一旦別行動となったが、お目当ての糸を買って、すぐに書店に向かった。
(ジリアンの瞳の色にそっくりだなぁ、この糸!昼バージョンと赤が更に煌めく閨バージョン、両方買えたわ。)
私は上機嫌でジリアンを探していた。
「ユリアナか?」
突然、後ろから声がする。
聞き覚えのあるその声は、ケヴィン皇子殿下だ。
(振り返らずに、聞こえなかった振りをしよう。)
医学書のある棚を目指して、歩き始める。
「おい、ユリアナだろ?」
ケヴィンは、腕を引っ張って、引き止めようとする。
「ど、どなた、ですか…?」
記憶喪失の振りをして、何とかやり過ごそうとしていると、ジリアンが走ってきた。
「ユリアナ、大丈夫か?」
涙目でジリアンに助けを求める。
「あぁ、ユリアナ、怖かったね、知らない人は…ほんのわずかな時間でも、一人にしてごめんよ。俺が居るから大丈夫だ。」
ジリアンは私をすっぽり抱き締めて、ケヴィンに抗議する。
「こんな所まで何なんですか!?妻が怯えてるじゃないですか!」
「あ…いや…すまない。元気な姿を見掛けたので、記憶が戻ったかと…」
「私と妻は穏やかに暮らしています。過去のことは忘れてください。どうかお願いします。」
「そうだな…申し訳ない。」
ケヴィンは、そのままどこかへ去って行った。
何をしに来たかなんて興味もない。
私には、完全に過去の人になっていた。
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