秋の陽

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秋の陽 4

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 いやいや、鈴木さんの説でいくと、その時から、俺の運命の歯車が回り始めた、ってんじゃないよな?!
 いつもの良太であれば、工藤と俺はやっぱ運命で巡り合ったんだ! とか、メチャ喜んでいそうなのに、と自分でも思う。
 だが、あまりな偶然に、戸惑ばかりだ。
 そういえば、もう思い出したくもないが、工藤がはめられて被疑者にされた事件だけど、関与したインテリヤクザがアジア圏の麻薬に厳しい国で大麻所持で逮捕され、終身刑かも知れないという新聞記事を読んだ時、ふと思ったのだ。
 もしこの会社に入社していなければ、ひょっとしてその終身刑が自分だったかもしれない!
 ぞっとした。
 それはもしあの四年の時、工藤に会っていなければだが、実はもう高校二年のあの時に決まっていたとか?????
 いやいや、人生ニアミスなんてもしかしたら誰でもあることかもしれない。
 ただそんな袖すり合ったくらいのことなんか、覚えていやしないのだ。
 第一工藤だって、あの時顔を合わせたことがあるなんて覚えてもいない。
 たまたま、俺が思い出しただけで。
 岐路って、この先まだあるんだろうか。
 そうだ、あの事件だって、千雪さんらがアクションドラマ並みに動いてくれたお陰で工藤が冤罪にならないで済んだのだ。
 まあ、それがうまくいかなかったとしても、おそらくあの、工藤の影のボディガード波多野が、最終手段を用いて何とかしたのかもしれないが。
 やっぱりぞっとする。
 工藤がもし、帰らなかったらとか。
 もしこの先、岐路があったとしても、工藤と離れるとか、絶対いやだ。
 何だか結局、そこに落ち着いてしまった結論に、良太は一人笑った。
「やだ、どうしたの? 一人で思い出し笑い?」
 万里子が良太を見てにっこり。
「え、まあ、分岐点とかやっぱあるのかなって」
「そうねえ、でもそれってあとから思うことでしょ? そこで間違った選択をしたとしても、何とかいい方へ軌道修正していきたいよね」
「そうですよね!」
 万里子の言葉に良太は大きく頷いた。
「あー、やっぱり万里ちゃんだ」
 オフィスのドアを開けるなり、中川アスカは声を上げた。
 青山プロダクション所属の看板美人俳優である。
「アスカさん、お疲れ様です」
 良太がパソコンから顔を上げた。
「アスカちゃん、久しぶり!」
 万里子とアスカはハグすると、大テーブルのソファに仲良く座り、早速互いの近況を話しはじめた。
「お疲れ様です。今日からオフでしたっけ?」
 続いて入ってきたアスカのマネージャ秋山は、タブレットをテーブルに置いて良太を見た。
「お疲れ様。今日はデスクワーク?」
「ええ、久しぶりに」
 秋山は工藤が冤罪にされそうになった事件の折、大捕り物の時に呼んでくれなかったと、しばし良太に拗ねてみせたが、今はそんな事件などなかったことにして仕事も会社も元通りで、張り切って仕事をしている。
 にしたって、大捕り物ってね。
 でも、なんかみんな、いつも通りって感じになって、よかった。
 良太はオフィスを見回して微笑んだ。
 夕方、鈴木さんが帰る前に工藤もオフィスに戻ってきた。
「お帰りなさーい」
 万里子とアスカは結局工藤が帰るまでおしゃべりに夢中になっていた。
「お先に失礼します」
 お疲れ様、とオフィスを出る鈴木さんに声をかけると工藤は万里子を振り返った。
「まだいたのか」
「何よ、その言い方。まあでも、忙しすぎてやつれてるんじゃないかと思ったけど、案外調子よさそうね、工藤さん」
 万里子もつっかかるものの、さほど気にはしていない。
「お前こそ、せっかくのオフなんだろ? こんなところでアブラうってないで、休養しろ」
「言われなくても、明日から俊一と沖縄行くんだ」
 フフっと笑う万里子に、アスカが、いいなあ、あたしも行きたい、と羨ましがる。
「今の仕事が終われば、少しはオフだから」
 秋山が慰めるように言った。
「沖縄はムリですけどね」
 一言付け加えるが。
「つまんないの。ねえ、万里ちゃん、これからご飯食べ行こ? お肉とかお寿司とか」
 アスカの提案に万里子がすまなそうな顔をする。
「ごめーん、夜はちょっと予定あって」
「そっかあ、ま、でも楽しんできて、沖縄」
 残念そうにアスカが言った。
「うん、ありがと! また今度、ご飯食べ行こ?」
「うん」
 万里子は手をひらひらさせてバイバイと言いながらオフィスを出て行った。
「あああ、つまんなーい!」
 アスカはソファに腰を降ろして、また喚いた。
 芸能人はみんなが華やかな世界にいると世間では思っているかもしれないが、案外、一緒にご飯を食べに行くような友人を作るのもなかなか難しかったりするのだ。
 特に強気なアスカだが、実は割と人の言葉の裏がわかってしまうようなところがあって、このオフィスの人間か千雪くらいしか、気を許せる相手が見つからないらしい。
 良太もちょっと可哀そうに思うのだが、何と言って声をかけていいかわからない。
「ちょっと、良太、万里ちゃんに振られた可哀そうなあたしに、俺でよければ、とかくらい言えないの?!」
 とんだトバッチリだ。
「え、ああ、じゃあ、俺でよければ」
 良太は棒読みのように口にした。
「心がこもってなーい!」
「俺に当たらないでくださいよ」
 良太も不服そうに言い返す。
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