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続 その後の話
37 水族館の海月②
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イルカショーの時間になったため、会場に向かう。母さんはイルカショーを見るからには全身に水を浴びたいというイルカガチ勢(俺からしてみれば)だったらしく、前から3番目くらいに座らされた。いや、水槽ちっかい。絶対濡れる。
水族館のショップエリアで買ったカッパを二人で被りながら、ショーを観覧する。生き生き動いているイルカやアザラシ、溌溂した飼育さんの声はあっという間に場を盛り上げる。
イルカが飼育員さんを乗せて、水槽の中をぐるぐる泳ぎだした。
あれくらい大きな水槽が家にあったら、クラゲさんもあんな窮屈な風呂場に居ないで済むのになぁ。
なんて考えていたら、視界の端で、イルカが泳いだ勢いで観客席に波が飛んできていた。そろそろ構えておかないといけない。
カッパのフードを手で押さえて、顔が濡れないようにする。無駄な足掻きだと知ったのは、水槽から溢れてきた水をもろに被った後だった。こんなにかかるなんて聞いてない。母さんは隣で歓声を上げていた。ジェットコースターじゃないんだからさ、水しぶきに向かって手を上げて騒ぐのやめよ?
顔を濡らした水を手で拭う。カッパの下の服は無事みたいだ。すると懐に入れていたペットボトルから、今まで聞いたことがない唸り声が聞こえてきた。
「どうした?イルカ、嫌いだった?」
囁きながらクラゲさんをちょんちょんつついていると、第二波の波に襲われる。今度こそ完全に不意を突かれたため、水が口に入ってちょっと噎せた。
「ケホっ、びっくりしたぁ……あれ?クラゲさん?」
ペットボトルに再び目を向けると、そこに二つの金色の丸は無くなっていた。どこに行ったんだとあたりを見渡し、すぐに見つけてしまった。
そう、目をぴかぴかさせているクラゲさんが水槽の中のイルカを追い回しているのを。
ちょっっっ、おい!
先程イルカが飛ばしてきた波が、俺を攻撃するものだと見なしたのだろうか。何でか知らないが、クラゲさんが怒っている。
気配で危険を感じたのか、イルカはクラゲさんから逃げ回っている。急に制御不能になったイルカ達に、飼育員さんが戸惑っている。
イルカの様子がおかしいことに気づいた飼育員たちは、機転を利かせて今度は陸に上がらせているアシカの芸を見せ始めた。クラゲさんの動向に気が気でない俺はショーを見てるどころではない。
クラゲさんがその気になったら、これだけ大きい水槽だってイルカごと飲み込めてしまう。そんな確信があった。
クラゲさんに追いかけられているイルカが、助けを求めるようにきゅうと鳴き声を上げたところで、堪らなくなって立ち上がる。
「まって、それ以上はいいから!戻って来て───」
「おおー!じゃあそこの元気なお兄さん!こちらに来てください!」
「……へっ」
ショーのアナウンスをしていた女性が俺を見て手招きする。話を聞いていなかった俺は、席から立ったまま呆然とすることしかできない。正直、不特定多数の視線を浴びたことで頭の中が真っ白になった俺は、クラゲさんのことがすっかり抜け落ちた。
母さんが俺を羨ましそうな目で見上げている。母さんだけでなく、会場の色んなところから視線を感じる。
すみません、何の話でしょうかと聞ける空気ではない。
「よろしければお連れさんもどうぞ!」
「やったわね、裕也!早く行きましょ!」
意気揚々と立ち上がる母さんにされるがまま、俺は客席から離れた。
あの後いっぱい動物と交流させていただきました。
あの指名は、「イルカくん達とふれあいたいお友達はいるかなー?」という呼びかけがあってのものらしい。母さんと二人で前に出ると、飼育員の指示に従ってアシカに命令して芸をしてもらったり、ふれあわせてもらったりした。
小さい子どもたちに混ざってイルカとタッチしたり、アシカの背を撫でたりした。みんなびっくりするくらいいい子だし、アシカは大人しかった。目立っていることこの上なかったが、正直初めてなものだったから楽しかった。そう、普通に楽しんでしまった。クラゲさんを放ったらかしにしたまま。
ふと我に返って、イルカの水槽を上から覗く。もうクラゲさんに追いかけられていないらしく、イルカ達は今は落ち着いた様子だった。
奥の方の水が他より盛り上がっているように見えて、目を凝らす。クラゲさんだ。遠くからじっとこちらを見ている楕円の金色の穴が二つ、わなわな揺れているのを視界に捉えた。
あ、泣かせちゃった……。
水族館のショップエリアで買ったカッパを二人で被りながら、ショーを観覧する。生き生き動いているイルカやアザラシ、溌溂した飼育さんの声はあっという間に場を盛り上げる。
イルカが飼育員さんを乗せて、水槽の中をぐるぐる泳ぎだした。
あれくらい大きな水槽が家にあったら、クラゲさんもあんな窮屈な風呂場に居ないで済むのになぁ。
なんて考えていたら、視界の端で、イルカが泳いだ勢いで観客席に波が飛んできていた。そろそろ構えておかないといけない。
カッパのフードを手で押さえて、顔が濡れないようにする。無駄な足掻きだと知ったのは、水槽から溢れてきた水をもろに被った後だった。こんなにかかるなんて聞いてない。母さんは隣で歓声を上げていた。ジェットコースターじゃないんだからさ、水しぶきに向かって手を上げて騒ぐのやめよ?
顔を濡らした水を手で拭う。カッパの下の服は無事みたいだ。すると懐に入れていたペットボトルから、今まで聞いたことがない唸り声が聞こえてきた。
「どうした?イルカ、嫌いだった?」
囁きながらクラゲさんをちょんちょんつついていると、第二波の波に襲われる。今度こそ完全に不意を突かれたため、水が口に入ってちょっと噎せた。
「ケホっ、びっくりしたぁ……あれ?クラゲさん?」
ペットボトルに再び目を向けると、そこに二つの金色の丸は無くなっていた。どこに行ったんだとあたりを見渡し、すぐに見つけてしまった。
そう、目をぴかぴかさせているクラゲさんが水槽の中のイルカを追い回しているのを。
ちょっっっ、おい!
先程イルカが飛ばしてきた波が、俺を攻撃するものだと見なしたのだろうか。何でか知らないが、クラゲさんが怒っている。
気配で危険を感じたのか、イルカはクラゲさんから逃げ回っている。急に制御不能になったイルカ達に、飼育員さんが戸惑っている。
イルカの様子がおかしいことに気づいた飼育員たちは、機転を利かせて今度は陸に上がらせているアシカの芸を見せ始めた。クラゲさんの動向に気が気でない俺はショーを見てるどころではない。
クラゲさんがその気になったら、これだけ大きい水槽だってイルカごと飲み込めてしまう。そんな確信があった。
クラゲさんに追いかけられているイルカが、助けを求めるようにきゅうと鳴き声を上げたところで、堪らなくなって立ち上がる。
「まって、それ以上はいいから!戻って来て───」
「おおー!じゃあそこの元気なお兄さん!こちらに来てください!」
「……へっ」
ショーのアナウンスをしていた女性が俺を見て手招きする。話を聞いていなかった俺は、席から立ったまま呆然とすることしかできない。正直、不特定多数の視線を浴びたことで頭の中が真っ白になった俺は、クラゲさんのことがすっかり抜け落ちた。
母さんが俺を羨ましそうな目で見上げている。母さんだけでなく、会場の色んなところから視線を感じる。
すみません、何の話でしょうかと聞ける空気ではない。
「よろしければお連れさんもどうぞ!」
「やったわね、裕也!早く行きましょ!」
意気揚々と立ち上がる母さんにされるがまま、俺は客席から離れた。
あの後いっぱい動物と交流させていただきました。
あの指名は、「イルカくん達とふれあいたいお友達はいるかなー?」という呼びかけがあってのものらしい。母さんと二人で前に出ると、飼育員の指示に従ってアシカに命令して芸をしてもらったり、ふれあわせてもらったりした。
小さい子どもたちに混ざってイルカとタッチしたり、アシカの背を撫でたりした。みんなびっくりするくらいいい子だし、アシカは大人しかった。目立っていることこの上なかったが、正直初めてなものだったから楽しかった。そう、普通に楽しんでしまった。クラゲさんを放ったらかしにしたまま。
ふと我に返って、イルカの水槽を上から覗く。もうクラゲさんに追いかけられていないらしく、イルカ達は今は落ち着いた様子だった。
奥の方の水が他より盛り上がっているように見えて、目を凝らす。クラゲさんだ。遠くからじっとこちらを見ている楕円の金色の穴が二つ、わなわな揺れているのを視界に捉えた。
あ、泣かせちゃった……。
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