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番外編
【番外編】海旅の末に
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※33、34話『海旅の末に』の小話
温泉を後にした俺は、クラゲさんとお喋りする時間を取るために一足先に部屋に戻った。旅行中は友人たちと一緒にいることが多いから、あまりクラゲさんの様子を見れてないのだ。
旅行自体、クラゲさんは楽しみにしていたという様子ではなかったし、やはりつまらない思いをさせているかもしれない。
旅館の一室に足を踏み入れる。和の趣を感じさせる畳の上には、ふわりと香る檜の香りが漂っている。部屋には、すぐそこにある海が一望できるベランダがある。
ゆったりと畳に腰を下ろし、自分の荷物を引き寄せる。ペットボトルの中でじっとしているクラゲさんに声をかけると、沈黙が返ってきた。
「どうしたの?」
「…………」
「もしかして、置いていったこと、怒ってる?」
なるべく一緒に居たいと思っているのだが、流石に温泉にペットボトルを持っていったら不審がられてしまう。変に人の目を集めるのは嫌だからと部屋にクラゲさんを置いて行ったのだ。
そこでふと、さっきまでのことを思い出す。そういえば、碌な説明もせずに置いていったんだった。友人たちが俺に話しかけてくるから、説明する隙が無かったのだ。だが、彼からしてみれば、急に見知らぬ場所に置き去りにされたと同然のことだろう。そんなことをしたら、彼が怒るのも当然か。
「ご、ごめん。お詫びにさ、今日の夜はたくさんお喋りするから、許して」
部屋のベランダに出れば、友人たちに気づかれずクラゲさんと一緒にいられるだろう。そのことも含めて、許しを請いながら説明するのだが、クラゲさんの機嫌はいまいち治らない。
蓋を開けても出てきてくれない。ペットボトルの口に指を入れてみると、細い触手が指にきゅっと巻き付いた。脳裏に、把握反射という文字が浮かんだ。赤子の手のひらに指を入れるとギュッと握られるときの、赤子の間にしかない反射動作のアレだ。赤ちゃんだ。
かわいい、という言葉を飲み込んで、もう一度謝る。彼から触れてきたからと言って、機嫌が良くなったわけじゃないということはこちらまで伝わってきていた。
何が原因なのだろうか。苦悩していると、部屋のドアが空いて、一人の友人が俺の名前を呼んでくる。
「裕也ー?」
「うぉっ」
反射的に鞄にペットボトルを押し込む。手元からはクラゲさんが驚いてる気配がした。
クラゲさんの姿が俺以外に見えてないのはわかっているんだけど、気を抜いているときに第三者に話しかけられると、思わずドキッとしてしまう。
「飲み物も買わずに部屋に戻るなよ。コーヒー牛乳買ってきたけど、お前コーヒー大丈夫だったっけ」
「あ、ああ……ありがとう」
「定番だよなぁ、コーヒー牛乳。ここの旅館にも販売していて、テンション上がったぞ」
友人はどかどか部屋に上がると、浮足立った雰囲気で荷物をあさりだした。カードゲームでも出すつもりだろうか。修学旅行みたいだ。
その後も次々と友人が戻ってきたせいで、クラゲさんとの話を流さざるを得なかった。鞄の中にいる小さな存在を気にかけながらも、友人たちが眠るまで彼らに付き合う時間が始まった。
(クラゲさんが不機嫌な理由は38話でなんとなくわかる)
温泉を後にした俺は、クラゲさんとお喋りする時間を取るために一足先に部屋に戻った。旅行中は友人たちと一緒にいることが多いから、あまりクラゲさんの様子を見れてないのだ。
旅行自体、クラゲさんは楽しみにしていたという様子ではなかったし、やはりつまらない思いをさせているかもしれない。
旅館の一室に足を踏み入れる。和の趣を感じさせる畳の上には、ふわりと香る檜の香りが漂っている。部屋には、すぐそこにある海が一望できるベランダがある。
ゆったりと畳に腰を下ろし、自分の荷物を引き寄せる。ペットボトルの中でじっとしているクラゲさんに声をかけると、沈黙が返ってきた。
「どうしたの?」
「…………」
「もしかして、置いていったこと、怒ってる?」
なるべく一緒に居たいと思っているのだが、流石に温泉にペットボトルを持っていったら不審がられてしまう。変に人の目を集めるのは嫌だからと部屋にクラゲさんを置いて行ったのだ。
そこでふと、さっきまでのことを思い出す。そういえば、碌な説明もせずに置いていったんだった。友人たちが俺に話しかけてくるから、説明する隙が無かったのだ。だが、彼からしてみれば、急に見知らぬ場所に置き去りにされたと同然のことだろう。そんなことをしたら、彼が怒るのも当然か。
「ご、ごめん。お詫びにさ、今日の夜はたくさんお喋りするから、許して」
部屋のベランダに出れば、友人たちに気づかれずクラゲさんと一緒にいられるだろう。そのことも含めて、許しを請いながら説明するのだが、クラゲさんの機嫌はいまいち治らない。
蓋を開けても出てきてくれない。ペットボトルの口に指を入れてみると、細い触手が指にきゅっと巻き付いた。脳裏に、把握反射という文字が浮かんだ。赤子の手のひらに指を入れるとギュッと握られるときの、赤子の間にしかない反射動作のアレだ。赤ちゃんだ。
かわいい、という言葉を飲み込んで、もう一度謝る。彼から触れてきたからと言って、機嫌が良くなったわけじゃないということはこちらまで伝わってきていた。
何が原因なのだろうか。苦悩していると、部屋のドアが空いて、一人の友人が俺の名前を呼んでくる。
「裕也ー?」
「うぉっ」
反射的に鞄にペットボトルを押し込む。手元からはクラゲさんが驚いてる気配がした。
クラゲさんの姿が俺以外に見えてないのはわかっているんだけど、気を抜いているときに第三者に話しかけられると、思わずドキッとしてしまう。
「飲み物も買わずに部屋に戻るなよ。コーヒー牛乳買ってきたけど、お前コーヒー大丈夫だったっけ」
「あ、ああ……ありがとう」
「定番だよなぁ、コーヒー牛乳。ここの旅館にも販売していて、テンション上がったぞ」
友人はどかどか部屋に上がると、浮足立った雰囲気で荷物をあさりだした。カードゲームでも出すつもりだろうか。修学旅行みたいだ。
その後も次々と友人が戻ってきたせいで、クラゲさんとの話を流さざるを得なかった。鞄の中にいる小さな存在を気にかけながらも、友人たちが眠るまで彼らに付き合う時間が始まった。
(クラゲさんが不機嫌な理由は38話でなんとなくわかる)
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