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♠︎まさか俺の白髪が運命の赤い糸だったとは(1)
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俺の見た目は怖いらしい。
顔、身長、身体つき、声。そのそれぞれが人の平均よりも突出して怖く、それらが融合して足し算ではなく掛け算、いや二乗三乗となり、その結果俺という本体そのものが畏怖の象徴となるのだと、昔からの友人である溝口は言った。
溝口の理論はよく分からないが、とにかく俺が怖がられているというのはよく分かった。というかそんなもの溝口に言われなくても、身に染みて知っていた。
落ちていたハンカチを拾えばすいませんと顔を引きつらせて謝られ、道を聞きたくて声をかければすいませんと顔を引きつらせて謝られ、歩いているだけで飯を食ってるだけでただ息を吸って吐いてるだけで謝られ恐れられる日々。
何もしていないのに見た目が怖いからってそんな態度を取られると、俺だって流石に傷つく。俺の記憶が正しければ小学生低学年の時には、近所のおじさんに訳もなく謝られていたような気がする。
中身は怖くないんだとアピールしたくても、元々引っ込み思案で口下手な性格が災いして、さらに怖がらせてしまう始末。
中学生の時には、友達が欲しくて誰かの役に立ちたくてした行動の結果、何故か俺の視界に入ったやつは男女関係なく先生でさえ問答無用に殴られて最終的に東京湾に沈められるという絶対に嘘だと分かるとんでもない噂が横行し、そして皆がそれを信じてしまった。
中三の終わりには、俺と目が合うと石になるとか、俺と言葉を交わすと冥界の扉が開いて世界が崩壊するとか。そんなイタイ噂も流れ、そして何故か皆それを信じていた。
あり得ないとわかっていてもそれを納得させてしまう程の説得力をお前は持っている、と溝口は誇らしげにそう言った。
そんなものは全然いらなかった。
お前は選ばれたものなのだから魔王を倒して世界を救えと言われた勇者もこんな心境なのだろうかと同情し、それから俺は異世界物のゲームや漫画を受け付けなくなった。
平凡に、平和に暮らしたい。
俺は悟った。
もう怖がられるのは仕方ないとしてそれを最小限に留めることに努めよう。
なるべく人に関わらない様に、必要以上に怖がらせない様に。
それを意識してからは行き過ぎた噂は聞かれなくなった気がする。だからといって怖がられなくなることはなかったけど。
歳を重ねるにつれ凄みが増しより本物に近付いてきた、と溝口は目を輝かせて言った。
何の本物なんだと問いたいが、自分で傷口に塩を塗り込むようなことになりそうなので、それに関して何も言い返さなかった。とりあえず溝口のみぞおちを一発殴った。
俺のことを怖がらないのは両親、兄弟、直属の上司、それに溝口だけ。女子供は特に駄目だ。一目見て必ず脅えさせてしまう。会話など、もう何年もしていない。
と、24歳にしてこの先の人生を悟り半分以上諦めていた俺の前に、例外が現れる。
「川村莉緒です。よろしく」
新人研修で同じグループになった彼女は、俺の顔を真っすぐに見据えてそう言った。
身長が俺の胸くらいしかなく物静かな印象のくせに、その顔には俺に対する恐怖は一切ない。
こんなに普通の人間として扱われたことは初めてで、普通の人間としての喜びに打ちふるえた俺は、簡単に恋に堕ちた。堕ちない筈がない。
川村は俺を憐れに思った神様が遣わした天使だと思った。
だからと言って彼女と付き合う為にモーションをかけるなんて愚行は犯さない。
せっかく普通の人間として見てくれているのに下手なことをして、やっぱり彼は人間ではなかったなどと思われたら、それこそ俺は立ち直れなくなってしまう。
この恋は死ぬまで決して表には出さず宝物の様に大切に胸に秘めていようと、恋に恋する少女の様なことを本気で思っていた。
――のだが。
顔、身長、身体つき、声。そのそれぞれが人の平均よりも突出して怖く、それらが融合して足し算ではなく掛け算、いや二乗三乗となり、その結果俺という本体そのものが畏怖の象徴となるのだと、昔からの友人である溝口は言った。
溝口の理論はよく分からないが、とにかく俺が怖がられているというのはよく分かった。というかそんなもの溝口に言われなくても、身に染みて知っていた。
落ちていたハンカチを拾えばすいませんと顔を引きつらせて謝られ、道を聞きたくて声をかければすいませんと顔を引きつらせて謝られ、歩いているだけで飯を食ってるだけでただ息を吸って吐いてるだけで謝られ恐れられる日々。
何もしていないのに見た目が怖いからってそんな態度を取られると、俺だって流石に傷つく。俺の記憶が正しければ小学生低学年の時には、近所のおじさんに訳もなく謝られていたような気がする。
中身は怖くないんだとアピールしたくても、元々引っ込み思案で口下手な性格が災いして、さらに怖がらせてしまう始末。
中学生の時には、友達が欲しくて誰かの役に立ちたくてした行動の結果、何故か俺の視界に入ったやつは男女関係なく先生でさえ問答無用に殴られて最終的に東京湾に沈められるという絶対に嘘だと分かるとんでもない噂が横行し、そして皆がそれを信じてしまった。
中三の終わりには、俺と目が合うと石になるとか、俺と言葉を交わすと冥界の扉が開いて世界が崩壊するとか。そんなイタイ噂も流れ、そして何故か皆それを信じていた。
あり得ないとわかっていてもそれを納得させてしまう程の説得力をお前は持っている、と溝口は誇らしげにそう言った。
そんなものは全然いらなかった。
お前は選ばれたものなのだから魔王を倒して世界を救えと言われた勇者もこんな心境なのだろうかと同情し、それから俺は異世界物のゲームや漫画を受け付けなくなった。
平凡に、平和に暮らしたい。
俺は悟った。
もう怖がられるのは仕方ないとしてそれを最小限に留めることに努めよう。
なるべく人に関わらない様に、必要以上に怖がらせない様に。
それを意識してからは行き過ぎた噂は聞かれなくなった気がする。だからといって怖がられなくなることはなかったけど。
歳を重ねるにつれ凄みが増しより本物に近付いてきた、と溝口は目を輝かせて言った。
何の本物なんだと問いたいが、自分で傷口に塩を塗り込むようなことになりそうなので、それに関して何も言い返さなかった。とりあえず溝口のみぞおちを一発殴った。
俺のことを怖がらないのは両親、兄弟、直属の上司、それに溝口だけ。女子供は特に駄目だ。一目見て必ず脅えさせてしまう。会話など、もう何年もしていない。
と、24歳にしてこの先の人生を悟り半分以上諦めていた俺の前に、例外が現れる。
「川村莉緒です。よろしく」
新人研修で同じグループになった彼女は、俺の顔を真っすぐに見据えてそう言った。
身長が俺の胸くらいしかなく物静かな印象のくせに、その顔には俺に対する恐怖は一切ない。
こんなに普通の人間として扱われたことは初めてで、普通の人間としての喜びに打ちふるえた俺は、簡単に恋に堕ちた。堕ちない筈がない。
川村は俺を憐れに思った神様が遣わした天使だと思った。
だからと言って彼女と付き合う為にモーションをかけるなんて愚行は犯さない。
せっかく普通の人間として見てくれているのに下手なことをして、やっぱり彼は人間ではなかったなどと思われたら、それこそ俺は立ち直れなくなってしまう。
この恋は死ぬまで決して表には出さず宝物の様に大切に胸に秘めていようと、恋に恋する少女の様なことを本気で思っていた。
――のだが。
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