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勘違い×勘違い
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「し、志島くん!ちょっと待って」
掴まれた腕をぐいぐい引っ張られながら、私にとっては早すぎる志島くんの歩調に必死に合わせてついて行く。
何度か志島くんの名前を呼んだけど、返事もなければ私の方を振り返ることもない。
無視、というよりは聞こえてないって感じだと思う。
止まってほしくて腕に力を籠めてみるけど、当然ながらびくともしない。だというのに志島くんに掴まれた腕は全然痛くなくて、そこに志島くんの優しさを感じてきゅんてなる。
どこに向かっているのだろう。もうすでに駅は通り過ぎてしまった。
志島くんが連れてってくれるのならどこだって構わないし不満なんて微塵もないんだけど、この状況は少々不味い。
なんせ、すれ違う通行人の私たちを見る目が尋常じゃない。
客観的に見て、まんま大男に誘拐されかけている女性の図だ。志島くんの顔は私からは見えないけど、とてつもなくヤバイ顔をしてるってのは安易に想像できる。
このままだと余計な正義感に溢れた誰かに警察に通報されかねないと焦り、もう一度志島くんの名前を呼んだ。
「志島くん!」
と同時に、掴まれているのとは反対の手で志島くんの腕にぎゅっと抱きつく。というかタックルをかます。
もちろん志島くんは私の全力タックルを食らってもびくともしない。でも、志島くんに私の存在を認識させることは出来たようだ。
志島くんの歩みがピタッと止み、ホッと息を吐く。
なんだなんだというギャラリーの好奇の視線を感じながら掴まれていた腕をそっと外し、そのまま志島くんの手に自分のものを絡める。
「……川村」
志島くんが小さく息を飲み、私の名前を呼んだ。
良かった。
暴走機関車と化していた志島くんは、無事人間の心を取り戻せたようだ。人の顔をした志島くんに、心配はいらないとばかりにニコリと笑ってみせる。
「もう!そんなに急がなくても大丈夫だって、ダーリン!相変わらずせっかちなんだからぁ!ほら、一緒に二人の愛の巣に帰りましょう!」
繋いだ手に力を籠め、今度は私が志島くんを引っ張る。
通行人の皆さん!私と彼は付き合ってるんです!これは合意です!誘拐でも強姦でも借金のカタでも、何でもありませんのでご心配なく!ただの痴話げんかですので警察に通報なんて、決してしないでくださいね!!
そう大袈裟なくらいに恋人アピールをする。
とにかく志島くんを守らないと!その一心だった。
「川村、これは」
「ごめんね、さっきのままだと警察どころかスワットまで派遣されかねない雰囲気だったから。この場が落ち着くまでこうしていよう。本当、ごめんね」
手を繋いだまま、歩調を合わせて、志島くんと並んで歩く。
ごめんねと口にしながら、全然ごめんって顔ができなくて、それを隠すように俯いた。
「何で川村が謝るんだ?」
「だって、仕方ないとは言え私と付き合ってるなんて志島くんに嘘つかせちゃうの、申し訳なくって。あ、そういえば志島くんは出てきちゃってよかったの?せっかく飲み会に参加したのに」
「……いい。川村が来るっていうから、無理やり参加しただけだから」
え、私?
隣を見上げると、志島くんが餌を貰い損ねたグレートデンみたいに顔をしかめていた。
なにそれ、可愛いんですけど。
「俺の方が、すまない。無理やり連れだして。どうしても我慢できなくて、あんな暴挙に。今更だが、戻るか?」
「戻んない絶対戻んないよ!ていうか帰ろうとしてたとこだし」
志島くんが歩みを止めたので、自然と私も立ち止まる。
「……藤本と、だろ」
「……は?」
赤い光を交互に発しカンカンと大きな音を立てながら、目の前の踏切が閉じていく。少しして、ガタンガタンとうるさく音をたてながら普通電車が私たちの目の前を通過していった。一瞬の静寂の後踏切が上がり、この場の時間が動き出す。
私と志島くんを除いて。
「川村に文句を言いたい訳じゃないんだ。元々川村が飽きたら終わりだと分かっていたし、俺もそのつもりでいた。俺の後に川村が誰を選ぼうがそれは川村の自由だ。俺はそれに対しどうこう言える立場ではない。そんなこと分かってる。分かってはいるが、どうしても我慢できなかった。……すまない」
背筋はピンと伸ばしたまま、志島くんが深刻そうに項垂れる。
その姿が、お座りって言われたままずっと放置されて困っているお利口なグレートデンにしか見えなくて、無性に頭を撫でてあげたくなった。
「……俺では、だめか?もう少しだけ、俺ではだめだろうか。せめて、川村に捧げる俺の思いの丈を詰め込んだ本が出来上がるまででいいから、もう少しだけ俺で我慢してくれないか?」
「え?」
志島くんの言ってる意味が分からず呆気に取られていると、志島くんの眉間の皺が一層深まった。そして、苦しげに口を開く。
「やはり、藤本がいいのか」
「はあ?」
「藤本の、アシンメトリーに切られた前髪や無駄に長い襟足に生えている白髪を抜きたいのだろう?藤本の、学生時代に勢いで開けまくっただろうピアスの穴を埋めるかのようにはびこっている耳垢を片っ端から除去したいのだろう?藤本の、不自然に盛り上がったスラックスの下にある―」
「ちょっとストップストップストーーーーーップ!!!」
またしても暴走機関車となりかけた志島くんを止めるべく、繋いだ手にぎゅっと力を籠める。もう片方の手も重ねて念を込めると、志島くんがハッと息を呑んだ。
良かった。正気を取り戻してくれたらしい。
「志島くんが何を勘違いしてるのか分かんないけど、とりあえず言わせて。藤本はない」
「……違うのか?」
「絶対ない。あり得ない。天地がひっくり返ってもない。見たくもないし想像したくもないから本当にやめて」
恐ろしすぎる勘違いを全否定すると、安堵したのか志島くんの眉間の皺が少しだけ弛んだ。ように見えた、多分。
「そもそも、誰かの頭に白髪があろうがなかろうが抜きたいなんて思わないし。思ったとしても言わないし、もちろん言ったこともないし……志島くんにしか。それに志島くんにしか言いたくないし」
「そう、なのか?」
最後の方もにょもにょと誤魔化したけど、言いたいことはちゃんと伝わったらしい。
志島くんのおでこにでかでかと『半信半疑』と書かれた白い紙が貼ってある。いや貼ってないけどそう見える。それが可笑しくって、「そうだよ」と笑っていると、志島くんも小さく笑った。今度は間違いなく、絶対に。
「……そうなのか。今日川村にキャンセルされ、しかも川村が彼氏を探すための飲み会が盛大に開催されると聞いたものだから、てっきり俺はもう飽きられて用済みになったのかと―」
「ええ!何それ!それ嘘だよ、大嘘!彼氏なんて探してないし、志島くんに飽きるとか、ないない!!何それ一体誰がそんなデマを―」
とそこまで言って、ニヤけた顔をした後輩と藤本がフッと過ぎった。間違いない。志島くんの暴走した勘違いは絶対こいつらのせいだ。仕事も碌にしないくせに、本当に余計な事しかしないなフジモンザキヤマペア~~!
「そうか。じゃあ本当に今日は予定があっただけだったんだな」
「……う、うう。それは、ごめん。本当は予定なんてなかったんだけど、ちょっと志島くんに会い辛くて」
志島くんに嘘をついた罪悪感と会いたくなかった本当の理由を思い出して、胸が苦しくなる。
「そうなのか?つまり、彼氏は探していないが俺には飽きたということか―」
「違う!違うよ!」
「なら、なんで」
志島くんに心底不思議そうな顔をされ、うぐっと口ごもる。
「だって…志島くん、彼女いるよね?」
それでも、気まずすぎる沈黙と志島くんの真っすぐすぎる視線に耐えきれなくなり、認めたくなくて聞きたくなくて喉にずっと詰まっていたそれを、苦渋の想いで吐き出した。
志島くんが、は?って顔で私を見る。
そして、は?って顔のまま「いない」ときっぱり言い切った。
何だかその一連の言動が、シラを切られているみたいでムッとなる。
「じゃあ、彼女じゃなくて好きな人。ほら、いるでしょ」
証拠は上がってんだぞ白状しろとばかりにきつめに言うと、志島くんは目をそっと伏せて「それは、いる」と肯定した。
肯定されたらされたで、チッてなる。
「やっぱり」
「それが、何か関係あるのか?」
「あるよ!大ありだよ!関係ないって思ってたら大ごとだよ!最低だよこのバカチン!」
何にも悪びれた様子もない志島くんの言葉にカッとなる。
それに志島くんの好きな人を想像したら、瞬間的に怒りが増幅してあっという間に爆発してしまった。
チッ、カッ、ドカン、だ。
「……ごめん、今のはただの八つ当たりだから気にしないで」
そして、スーッと熱が引いていく。
私のこういう子供っぽくて感情の起伏が激しくて短絡的な所が、だめなんだよ。志島くんに好きになってもらえないのも、当たり前だ。
なんか物凄く惨めな気持ちになって、無性にお母さんの芋煮が恋しくなった。ああ、実家に帰りたい。
「とにかく、志島くんに好きな人がいるのに、今まで私の変なお願いにつき合わせちゃって本当、ごめんね。志島くん優しいから、断れなかったんだよね。でも、もういいから。もう十分付き合ってくれたよ、ありがとう。……私、応援してるから。志島くんの片思いが実るの。ううん、片思いじゃないよ絶対。両片思いだよ。だって彼女志島くんのこと全然怖がってなかったし、むしろ全面的に信頼してるって感じだったし。見るからに志島くんのこと大好きって顔してたし。だから志島くんはあの可愛い彼女と、どうかお幸せに―」
「ちょっと待て」
綺麗に最後まとめようとしていると、志島くんの低い声で遮られた。
「一体何の話を、誰の話をしてるんだ?」
は?を通り越してきょとんとした顔でそう言われ、私もきょとんし返す。
「そんなの志島くんの話に決まってるじゃん。え?藤本の話まだ続いてると思ってた?」
「違くて。俺の好きな人が、誰だって?可愛い彼女って、一体誰のことを言ってるんだ?」
それ、わざわざ掘り返して聞く?
二度と立ち上がれなくなるまで徹底的に叩き潰すのが志島流なのか、それが志島くんの優しさ故なのか。あえてそれを私の口から言わせようとするなんて、本当に酷いよ志島くん。
「……私、見たんだよ。土曜日に、志島くんが可愛い女の子といるの」
ヤケクソ気味にそう言い放つと、志島くんがハッと顔を上げた。
――ほらね、やっぱり。
待てって言われて良い子に待つフリしながらご主人のいない所でこっそりつまみ食いしていたのがバレた時のグレートデンみたいな顔しちゃってさ。
自然と口元に自嘲が浮かぶ。
「だから、そういうこと―」
「妹だ」
「……え?」
「一緒にいたのは妹だ」
掴まれた腕をぐいぐい引っ張られながら、私にとっては早すぎる志島くんの歩調に必死に合わせてついて行く。
何度か志島くんの名前を呼んだけど、返事もなければ私の方を振り返ることもない。
無視、というよりは聞こえてないって感じだと思う。
止まってほしくて腕に力を籠めてみるけど、当然ながらびくともしない。だというのに志島くんに掴まれた腕は全然痛くなくて、そこに志島くんの優しさを感じてきゅんてなる。
どこに向かっているのだろう。もうすでに駅は通り過ぎてしまった。
志島くんが連れてってくれるのならどこだって構わないし不満なんて微塵もないんだけど、この状況は少々不味い。
なんせ、すれ違う通行人の私たちを見る目が尋常じゃない。
客観的に見て、まんま大男に誘拐されかけている女性の図だ。志島くんの顔は私からは見えないけど、とてつもなくヤバイ顔をしてるってのは安易に想像できる。
このままだと余計な正義感に溢れた誰かに警察に通報されかねないと焦り、もう一度志島くんの名前を呼んだ。
「志島くん!」
と同時に、掴まれているのとは反対の手で志島くんの腕にぎゅっと抱きつく。というかタックルをかます。
もちろん志島くんは私の全力タックルを食らってもびくともしない。でも、志島くんに私の存在を認識させることは出来たようだ。
志島くんの歩みがピタッと止み、ホッと息を吐く。
なんだなんだというギャラリーの好奇の視線を感じながら掴まれていた腕をそっと外し、そのまま志島くんの手に自分のものを絡める。
「……川村」
志島くんが小さく息を飲み、私の名前を呼んだ。
良かった。
暴走機関車と化していた志島くんは、無事人間の心を取り戻せたようだ。人の顔をした志島くんに、心配はいらないとばかりにニコリと笑ってみせる。
「もう!そんなに急がなくても大丈夫だって、ダーリン!相変わらずせっかちなんだからぁ!ほら、一緒に二人の愛の巣に帰りましょう!」
繋いだ手に力を籠め、今度は私が志島くんを引っ張る。
通行人の皆さん!私と彼は付き合ってるんです!これは合意です!誘拐でも強姦でも借金のカタでも、何でもありませんのでご心配なく!ただの痴話げんかですので警察に通報なんて、決してしないでくださいね!!
そう大袈裟なくらいに恋人アピールをする。
とにかく志島くんを守らないと!その一心だった。
「川村、これは」
「ごめんね、さっきのままだと警察どころかスワットまで派遣されかねない雰囲気だったから。この場が落ち着くまでこうしていよう。本当、ごめんね」
手を繋いだまま、歩調を合わせて、志島くんと並んで歩く。
ごめんねと口にしながら、全然ごめんって顔ができなくて、それを隠すように俯いた。
「何で川村が謝るんだ?」
「だって、仕方ないとは言え私と付き合ってるなんて志島くんに嘘つかせちゃうの、申し訳なくって。あ、そういえば志島くんは出てきちゃってよかったの?せっかく飲み会に参加したのに」
「……いい。川村が来るっていうから、無理やり参加しただけだから」
え、私?
隣を見上げると、志島くんが餌を貰い損ねたグレートデンみたいに顔をしかめていた。
なにそれ、可愛いんですけど。
「俺の方が、すまない。無理やり連れだして。どうしても我慢できなくて、あんな暴挙に。今更だが、戻るか?」
「戻んない絶対戻んないよ!ていうか帰ろうとしてたとこだし」
志島くんが歩みを止めたので、自然と私も立ち止まる。
「……藤本と、だろ」
「……は?」
赤い光を交互に発しカンカンと大きな音を立てながら、目の前の踏切が閉じていく。少しして、ガタンガタンとうるさく音をたてながら普通電車が私たちの目の前を通過していった。一瞬の静寂の後踏切が上がり、この場の時間が動き出す。
私と志島くんを除いて。
「川村に文句を言いたい訳じゃないんだ。元々川村が飽きたら終わりだと分かっていたし、俺もそのつもりでいた。俺の後に川村が誰を選ぼうがそれは川村の自由だ。俺はそれに対しどうこう言える立場ではない。そんなこと分かってる。分かってはいるが、どうしても我慢できなかった。……すまない」
背筋はピンと伸ばしたまま、志島くんが深刻そうに項垂れる。
その姿が、お座りって言われたままずっと放置されて困っているお利口なグレートデンにしか見えなくて、無性に頭を撫でてあげたくなった。
「……俺では、だめか?もう少しだけ、俺ではだめだろうか。せめて、川村に捧げる俺の思いの丈を詰め込んだ本が出来上がるまででいいから、もう少しだけ俺で我慢してくれないか?」
「え?」
志島くんの言ってる意味が分からず呆気に取られていると、志島くんの眉間の皺が一層深まった。そして、苦しげに口を開く。
「やはり、藤本がいいのか」
「はあ?」
「藤本の、アシンメトリーに切られた前髪や無駄に長い襟足に生えている白髪を抜きたいのだろう?藤本の、学生時代に勢いで開けまくっただろうピアスの穴を埋めるかのようにはびこっている耳垢を片っ端から除去したいのだろう?藤本の、不自然に盛り上がったスラックスの下にある―」
「ちょっとストップストップストーーーーーップ!!!」
またしても暴走機関車となりかけた志島くんを止めるべく、繋いだ手にぎゅっと力を籠める。もう片方の手も重ねて念を込めると、志島くんがハッと息を呑んだ。
良かった。正気を取り戻してくれたらしい。
「志島くんが何を勘違いしてるのか分かんないけど、とりあえず言わせて。藤本はない」
「……違うのか?」
「絶対ない。あり得ない。天地がひっくり返ってもない。見たくもないし想像したくもないから本当にやめて」
恐ろしすぎる勘違いを全否定すると、安堵したのか志島くんの眉間の皺が少しだけ弛んだ。ように見えた、多分。
「そもそも、誰かの頭に白髪があろうがなかろうが抜きたいなんて思わないし。思ったとしても言わないし、もちろん言ったこともないし……志島くんにしか。それに志島くんにしか言いたくないし」
「そう、なのか?」
最後の方もにょもにょと誤魔化したけど、言いたいことはちゃんと伝わったらしい。
志島くんのおでこにでかでかと『半信半疑』と書かれた白い紙が貼ってある。いや貼ってないけどそう見える。それが可笑しくって、「そうだよ」と笑っていると、志島くんも小さく笑った。今度は間違いなく、絶対に。
「……そうなのか。今日川村にキャンセルされ、しかも川村が彼氏を探すための飲み会が盛大に開催されると聞いたものだから、てっきり俺はもう飽きられて用済みになったのかと―」
「ええ!何それ!それ嘘だよ、大嘘!彼氏なんて探してないし、志島くんに飽きるとか、ないない!!何それ一体誰がそんなデマを―」
とそこまで言って、ニヤけた顔をした後輩と藤本がフッと過ぎった。間違いない。志島くんの暴走した勘違いは絶対こいつらのせいだ。仕事も碌にしないくせに、本当に余計な事しかしないなフジモンザキヤマペア~~!
「そうか。じゃあ本当に今日は予定があっただけだったんだな」
「……う、うう。それは、ごめん。本当は予定なんてなかったんだけど、ちょっと志島くんに会い辛くて」
志島くんに嘘をついた罪悪感と会いたくなかった本当の理由を思い出して、胸が苦しくなる。
「そうなのか?つまり、彼氏は探していないが俺には飽きたということか―」
「違う!違うよ!」
「なら、なんで」
志島くんに心底不思議そうな顔をされ、うぐっと口ごもる。
「だって…志島くん、彼女いるよね?」
それでも、気まずすぎる沈黙と志島くんの真っすぐすぎる視線に耐えきれなくなり、認めたくなくて聞きたくなくて喉にずっと詰まっていたそれを、苦渋の想いで吐き出した。
志島くんが、は?って顔で私を見る。
そして、は?って顔のまま「いない」ときっぱり言い切った。
何だかその一連の言動が、シラを切られているみたいでムッとなる。
「じゃあ、彼女じゃなくて好きな人。ほら、いるでしょ」
証拠は上がってんだぞ白状しろとばかりにきつめに言うと、志島くんは目をそっと伏せて「それは、いる」と肯定した。
肯定されたらされたで、チッてなる。
「やっぱり」
「それが、何か関係あるのか?」
「あるよ!大ありだよ!関係ないって思ってたら大ごとだよ!最低だよこのバカチン!」
何にも悪びれた様子もない志島くんの言葉にカッとなる。
それに志島くんの好きな人を想像したら、瞬間的に怒りが増幅してあっという間に爆発してしまった。
チッ、カッ、ドカン、だ。
「……ごめん、今のはただの八つ当たりだから気にしないで」
そして、スーッと熱が引いていく。
私のこういう子供っぽくて感情の起伏が激しくて短絡的な所が、だめなんだよ。志島くんに好きになってもらえないのも、当たり前だ。
なんか物凄く惨めな気持ちになって、無性にお母さんの芋煮が恋しくなった。ああ、実家に帰りたい。
「とにかく、志島くんに好きな人がいるのに、今まで私の変なお願いにつき合わせちゃって本当、ごめんね。志島くん優しいから、断れなかったんだよね。でも、もういいから。もう十分付き合ってくれたよ、ありがとう。……私、応援してるから。志島くんの片思いが実るの。ううん、片思いじゃないよ絶対。両片思いだよ。だって彼女志島くんのこと全然怖がってなかったし、むしろ全面的に信頼してるって感じだったし。見るからに志島くんのこと大好きって顔してたし。だから志島くんはあの可愛い彼女と、どうかお幸せに―」
「ちょっと待て」
綺麗に最後まとめようとしていると、志島くんの低い声で遮られた。
「一体何の話を、誰の話をしてるんだ?」
は?を通り越してきょとんとした顔でそう言われ、私もきょとんし返す。
「そんなの志島くんの話に決まってるじゃん。え?藤本の話まだ続いてると思ってた?」
「違くて。俺の好きな人が、誰だって?可愛い彼女って、一体誰のことを言ってるんだ?」
それ、わざわざ掘り返して聞く?
二度と立ち上がれなくなるまで徹底的に叩き潰すのが志島流なのか、それが志島くんの優しさ故なのか。あえてそれを私の口から言わせようとするなんて、本当に酷いよ志島くん。
「……私、見たんだよ。土曜日に、志島くんが可愛い女の子といるの」
ヤケクソ気味にそう言い放つと、志島くんがハッと顔を上げた。
――ほらね、やっぱり。
待てって言われて良い子に待つフリしながらご主人のいない所でこっそりつまみ食いしていたのがバレた時のグレートデンみたいな顔しちゃってさ。
自然と口元に自嘲が浮かぶ。
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