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本編

日常(3)

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 今日は外掃除の当番だったので、落ち葉をはいて集めてを繰り返す。
 集めた落ち葉を焼却場へ持っていくと、そこにはアークさんがいた。

「お疲れ様です」

「おっ、サトゥじゃないか。元気か?」

「はい」

「これから焼き芋でもやるかーって料理長と話してたんだよ。丁度いいな、この落ち葉貰えるか?」

「はい、いいですよ。もっと要りますか?」

「あるなら欲しいな。どれ、俺も一緒に行こう」

 そう言って二人で歩き出す。先ほど集めた落ち葉がまだたくさんあるので、そこに行くことになった。

 アークさんはジョセフの師匠で、この屋敷の筆頭庭師だ。
 多分五十歳くらいの、ナイスミドルなおじさんである。
 庭師というよりも傭兵って言われた方がしっくりくる程身体が大きく強面だ。なのにとても気さくで、たくさんの従業員に慕われている。アークさんは新入りの私にも会う度に話しかけてくれ、態度には表さないけどもちろん私も慕っている。
                                                      
「最近うちのジョセフと仲良いんだって?」

「…っ!……そんなことないです。普通です」

 急に変なことを言われて、内心ちゃぶ台がひっくり返る程動揺しまくっていたけど、何事もなかったかのように無表情を貼り付ける。
 そんな私を見てアークさんはニヤッと笑った気がするけど、私は真っ直ぐ前を見たままだったので、よくわからなかった。

「あいつ、最近やたら楽しそうに仕事してっからよ。いいことあったのかなーって。今まで俺以外となんて話さなかったのに、サトゥにはちゃんと挨拶するし、この前なんて料理長になんか頼み事してたみたいだし」

 今までのジョセフがどんなだったかなんて知らないけど。私以上に人と距離を置いていたのか。思ったより人見知りなのかな?私といる時はそんな感じ全然しないけど。それとも、知らない人とは話したくないとか?でも、同僚に挨拶くらいしなきゃ駄目だと思うけど。社会人として。

「まっ、これからも宜しく頼むよ。あいつのこと。悪いやつじゃないんだ。ちょっとひねくれてるだけで」

 悪いやつ?ひねくれてる?
 私の知ってるジョセフには当てはまらない。ジョセフはいつも優しいし、嘘もつかないし、レディファーストな紳士だし。あの時はちょっといじわるだけど、結局私も気持ちよくもにょもにょ。

「?ジョセフさん、いい人ですけど?」

 そう言うと、アークさんはビックリしたような顔をして私をじっと見つめてきた。

「??え?何か変なこと、言いました?」

「……っはっ。あっははははっ!そっかっ!なら、良かった。苛められてんじゃねーかと心配してたんだ」

 急に爆笑したアークさんの目尻には涙が溜まっている。
 今の発言の一体何がそんなに面白かったというのか。こちらの世界のおじさんの、笑いのツボはよく分からない。ま、日本でも全然わからなかったけど。

「師匠!」

 声がして振り向くと、ジョセフが息を切らせて駆け寄ってきた。

「……っはぁ、はぁ。サトゥ、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「よー、ジョセフ!どうした?」

「………バビオの木、剪定が終わったんで見てほしくって」

「あ、もう終わったのか。随分早いな。後で見るからお前も落ち葉持ってくの手伝え」

「……落ち葉。はい」

 ホッとしたような顔をしてジョセフが頷き、私とアークさんの間に入って歩き出す。
 バビオの木って、実が油になるあれのことだよね。どこにあるのか今度ジョセフに聞いてみよう。
 そう考えていると、トンっと腕が触れた。
 隣をチラリと見上げると、ジョセフは目を細めて、アークさんに分からないように微笑んできた。

「!!」

 そっと手を握られて、ジョセフのコートのポケットに入れられる。顔がかぁっと真っ赤になるのがわかって、直ぐに前をむき何でもない顔をする。

 ……なにそれ。なにそれ!なんなのその顔!!手!手が!
 アークさんは反対側にいるから、バレてないと思うけど。
 隣に聞こえていないか心配なくらい、心臓がバクバク鳴っている。頭の中はパニック状態だ。

「……ジョセフ、イチャイチャするのは二人だけの時にしろよ。サトゥ真っ赤じゃねぇか」

「してません。見ないでください」

「……あんな顔他の男に見せたら寄ってくるぞ。気を付けろよ」

「見せません。寄らせません。充分牽制してますんで」

「へえへえ、そうですか。……あのお前がこんなんになるとはねぇ」

 何やら二人が話しているのは聞こえていたけど、頭の中がわっちゃわちゃでこんがらがっていた私には、隣の会話は一切耳に入ってこなかった。

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