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事情

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 彼はじーっと不躾な視線を寄越して、オリヴィエの頭の天辺からつま先までなぞるように見つめた。

「へー」

 彼は感心したように頷いて、突然ぐいと、オリヴィエの手を取った。

「……っ!?」

「こんな細腕で、よく試験に受かったな」

 そう言って、彼はオリヴィエの手と見比べるように視線を落とす。

 確かに2人の腕の太さは対極だった。まるで大人と子供のようだ。

 しかし、今度はオリヴィエも黙っていない。

「そうですか? 力の入れ方にはコツがあるのですよ」

 オリヴィエはにこりと笑って、一歩分腕を前に突き出す。素早く手首を捻ると男の手はするっと外れた。

「っ! 何だ?」

 男は何が起きたか分からないように手首を摩る。

「あら、ごめんなさい」

(まさか、こんなにあっさり外れるとは思わなかったわ……)

 オリヴィエも自分の所業に内心で驚いていたのだが、努めて平静を装う。

「……見かけによらず、やるな?」

 男はニヤリと笑みを浮かべた。口端が吊り上がっていて少し不気味ではある。

 しかしそこには悪意は感じられなかった。

「俺は、エリック・リデル。よろしくな」

「私はオリヴィエです。よろしくお願いします」

 互いに名前を名乗ったところで、食堂中の全員が腰を上げた。

 オリヴィエに向かって、一斉に殺到する。

「オリヴィエ、隣、いいかな? 一緒に食事させてもらえない?」

「こっちも、空いてるよ。そこより広い席」

「やば、とっても俺の好みなんだけど……こんな子が仲間になるなんて、ラッキー」

 口々に声を掛けてくるのでオリヴィエは面食らった。

(こ、これは……何?)

 社交界デビューもせず剣の稽古に明け暮れていたオリヴィエは、これほど数の男性に囲まれた経験がない。

 あまり多くはないが、オリヴィエにも友人はいる。

 お花やお菓子の話題で盛り上がって身を寄せあうこともあったが、この団員たちは雰囲気が違う。

 何というか……圧がある。

 オリヴィエが呆気に取られている間にも、彼等は自己紹介をしつつ席を詰めてくる。

「おい、ちょっと詰めろ!」

「うわ、こっち来んなよ」

「痛えな、押すんじゃねえ」

(だ、誰なの?)

 オリヴィエはエリックに助けを求める視線を送った。

 彼は苦笑しつつも、助け船を出してくれる。

「あーお前ら、こいつ困ってるじゃん。とりあえず席空けろって」

 途端に食堂は静まり返り、まるで示し合わせたように、全員がエリックに注目する。

「あの、皆さんはここで何を?」

 オリヴィエが尋ねると、団員たちは再び、一斉に話し始めた。

「食事だよ」

「食堂に来たんだから当たり前じゃん」

「俺たちだってここの団員なの。 食べなきゃやってらんねえよな?」

「ね、オリヴィエ。何か食べたいのある? 俺取ってあげようか?」

「おいやめろよお前、それは俺が言おうとした台詞だ」

「あっ、点数稼ぎは止めろよ! じゃあ、俺は飲み物でも……」

(こ、これは……、いったいどうしたらいいの!?)

 オリヴィエは混乱して、視線を彷徨わせる。

 すると、それに気付いたエリックが両手を開いた。
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