僕と君の反乱日誌〜お前を守るついでに国家転覆〜

卯月小雛

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一章 手紙と始まりと

2話 昔のツテ

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翌日  AM7時30分


「解読は、出来た」

いつものように寝起きの悪い総士の腹を全体重をかけて踏み無理矢理起こして、味噌汁をもう一度温める。
唸りながら起きてきた総士に笑顔で「おはよう」を言って巻き替え用の包帯を投げつける。
ここまでは、いつも通りだった。

「・・・あぁ、あの手紙?」

朝飯中は黙々と飯をかき込む総士が声を出したのだ。

「でも結構面倒な事が書いてあったから、2時間ほど悩んで・・・昔のツテに、当たってみることにした。勿論、俺が生きてるとソイツにはバレるわけだ。」

「総士が良いと思うなら俺はなんでも良いよ」

「いや聞いてくれ。お前に・・・黙ってた事がある」

驚き漬物を取っていた箸から視線を総士に向けると、総士は何時になく顔色を悪くして此方の様子を伺っていた。

「血桜と反乱軍のリーダーが元自衛隊だとは知っているな?」

「よく噂されてるもんね。知ってるけど」

「あれは本当だ。で、そいつらは・・・うちの班の、俺の同僚達。2年前までは、よく隠密に飲みに行ったりしていた・・・」

悪い奴だなぁ・・・と思いながら相槌を打つ。
そーいう、変なとこで真面目なくせにちょっと悪戯心があって悪いヤツって事も分かってたんだけど・・・

「ごめん一言だけ言わせて。・・・何で指名手配犯と警察側の奴が仲良く飲んでるかなぁ~」

「俺も昔は『ドラマやらアニメじゃあるめぇし・・・もうアイツらと飲む事はねぇんだなぁ』って思ってたけどな」

と、総士は可笑しそうに笑い

「あいつら2人が自衛隊を抜けた1週間後、『寂しくなってきたから会わんかねー』と極秘の手紙が届いた」

「もう何もツッコむまい」

仲良しなんだなぁ、と少し胸の奥が空っぽになった気がした。

「で、だ。その内の1人が飲むと身内自慢だらけなんだが・・・その身内ってのが姉なんだよ。そいつの。その姉の名は、確か闇姫だった」

「それが何か?」

「この手紙の宛名は闇姫だ。だから、そいつに聞きに行く事にする」

「・・・なる程。それは反乱軍の方?」

血桜なら・・・と、少し身震いする。
総士はニヤリと意地悪そうに笑って

「安心しろ」

と言ったから、俺はほっと胸をなでおろした・・・が、次の瞬間総士の頭にチョップが落とされる事になる。

「血桜の長だ」

会いに行く昔のツテとは、血桜の長・・・神月山姫の事だったからだ。










「ヤマキさん!手紙が届いてます!」

ヤマキと呼ばれた男は、血の匂いが籠った手術室でゴム手袋を口で外した。

「んな血生臭い部屋までありがとよ。」

ヤマキ・・・神月山姫は口に両のゴム手袋をくわえたまま手術室を出、それを手術準備室の机の上に放り投げて部下の手から手紙を受けとる。
そして、まだ少年と呼ぶにふさわしい年齢の部下の頭を撫でつつ労った。

「いえ!では失礼します!」

部下は嬉しさを満面に出して敬礼、戻って行く。

「可愛い奴らだ。・・・さて、こんなド変態に手紙を出す奴はどんなド変態なんだろうなぁっ、と・・・へぇ」

手紙にはたった一行『今日行くから  七瀬総士』

「2年前に死んだハズの総士から手紙なァ。悪戯にしても度が過ぎてるぜ・・・もし、万が一これが本人なら良し。悪戯なら・・・」

山姫の手の中でメスが音を立てた。

「殺すまでだ」

そう呟きククク・・・と笑い、また新しい死体が解剖できる・・・!と呟いた山姫の頬は紅潮していた。
が、ふと顔色が元に戻り悲しげな瞳をする。

「・・・あぁ、そうさ。総士の馬鹿が生きてる筈がねぇ。アイツから聞いたんだ、『総士は連れて行った反乱分子と共に死んだ』・・・ってな。」

だから、だから、だから、と山姫はぐしゃ、と髪を握りしめる。

「あん時、涙なんぞ・・・枯れ果てた」

総士、せめてお前の名を騙る偽物の首をお前への手向けとしよう。







「良いか、妖斗。山姫は俺達同僚5人の中でも最も危険だ。」

「ん?同僚て3人じゃなくて5人なの?」

「残り2人の内、1人は今も自衛隊で働いてら。あと1人は地下で兵器の開発してひゃっひゃっ笑ってやがる。」

「変人揃いだね・・・」

妖斗と総士は、寺子屋の入口に『先生2人出張のためお休みです』と達筆な文字で書かれた紙を張り、血桜の本拠地付近に来ていた。

「山姫は1番変人だ。いや、ド変態だ。アイツの性癖糞だぞ。」

「酷い言われようだなぁ。で、どんな人?」

「死体を見て興奮してたり『生首が至る所で見られる・・・ここは聖地かっ!』て言いながら戦場で踊り狂ったり、メスと解剖ハサミで戦ったり、挙句の果てには人の死体解剖して頬赤くして吐息荒くするド変態。」

「うわぁ・・・」

すみません山姫さん、庇おうとしましたがコレは庇いきれません。
神月山姫は完全なるド変態です。俺公認です。

「だけど」

と、総士が懐かしそうに微笑んだ。

「何だかんだ、ド変態の癖して色んなやつに背中預けられる奴なんだよなぁ。部下からの信用も厚かったし」

「へ、へぇ・・・」

よく理解できないと思いつつ、また心の奥を何かがひゅっと冷やしたのが分かった。

「お、着いたぜ。」

路地裏の奥。何も無い。

「なぁ、何も無いよ・・・?」

「そう見えるよな。足元には何がある?」

足元にあるのは雑草とひび割れたコンクリート、そして井戸には到底見えぬ古井戸。

「この井戸の下から続いてんだよ、血桜のアジトにはな」

「はぁっ!!!?」

混乱する俺の後ろに回り込むと、総士は「よいしょっと!」と・・・俺をお姫様抱っこで抱き上げた。
勿論、恋人である俺は顔をあからめる訳で。

「ちょっ、総士っ!」

「黙ってろよ、舌噛むぜ!」

「やめっ、ひゃああああああああああっ!!」

気付けば、古井戸に飛び込み落下していた。
物凄い浮遊感だが、ぎゅっと総士が腕に力を入れて抱き締めてくれる。
冷たいのに、暖かい気持ちになる。
それだけで、恐怖心は薄れていくのだった。

「おっ、と。これで終わりか」

不意に浮遊感が途切れ、地面に足が着いた。
ぴちゃ、と水音がするも足首程までしかない。

「もっと水あると思ってた・・・思ったより、深い井戸だったな」

「だろ?こんな井戸、俺達同僚組以外が飛び込めば即死だからな。で、山姫の死体解剖の餌食になる」

「今背中がどんな怪談聞いた時よりゾクッとしたんだけど・・・」







「はい、七瀬総士さんですね。ボスから通すよう言われています」

下っ端らしき男に一際豪華な部屋に通された。
男は微笑むと「ごゆっくり」と出て行く。
と、向かい側の扉が開いた。

「・・・総士の名を騙るとは、良い度胸してんな・・・どへんた、い、さん・・・?」

油断なくメスを手で弄びながら出てきたのは、2年前と何も変わらぬ山姫だ。

「・・・嘘だろ、総、士・・・?」

「・・・悪ぃ。おれ、生きてるわw」

あの笑い方、声、香り、全てが目の前にいる総士は本人だと語っている。

(ああ、涙は枯れたはずなのに)

ポロポロと、大粒の涙が山姫の頬を滑り落ちた。
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