え、宮廷【結界師】として国を守ってきたのにお払い箱ですか!? 〜結界が破られ国が崩壊しそうだから戻って来いと言われても『今さらもう遅い』~

アトハ

文字の大きさ
18 / 32

18. 旦那さまに並ぼうと思ったら、まずは常識を捨てるところからですね

しおりを挟む
「師匠、何がダメなんですか?」
「まず2属性に絞る必要がない。どうしてもというなら、メインの風属性が弱点とする火属性に強い――水の魔力を生み出すべきだろうな」

 魔力には火・水・風・土という4つの属性が存在し、相性関係が存在する。たとえば火は風に強く、風は土に強い。
 エルフの秘術は火に弱いせいで、火属性の魔力を乗せて意識を集中すると、あっさりと隠蔽の効果を見破られる、という弱点があったのだ。


「理屈としては分かりますが……水の魔力なんて生み出しても、そのまま風の魔力に飲み込まれてしまうのではないですか?」
「その点は心配無用だ。流し込む魔力に気をつければ良いし、いざとなったら水の魔力を保護する術式を組み込んでも良い」

 なるほど、とアリーシャはメモを取りながらしきりにうなずく。魔法使いとしても一流な彼女は、属性相性の大切さも身にしみているのだろう。


「だ、旦那さまがスパルタです。アリーシャの答えも、随分と凄そうだったのに」
「いや、方向性としては普通に正しいぞ? 60点なら十分合格だしな」

 あくまでプラスアルファの話だ。アリーシャが口にした方法でも、十分な効果は得られるだろう。でも俺の感想とは裏腹に、

「でも合格ギリギリですよね」

 アリーシャは浮かない顔をしていた。


「……そんな合格スレスレのところに、いつまでも燻っていてはいけないのに。早く師匠の名に恥じないような、立派な結界師にならないといけないのに」

 アリーシャの表情は険しいものだった。
 故郷では魔法の天才と呼ばれながら、親の反対を押し切ってまで結界師に弟子入りした少女――どこまでも自分に厳しく、きっと理想が高すぎるのだ。


「アリーシャは優秀だと思うぞ? 結界術を学びはじめたばかりとは思えない驚異的なレベルにいる。もっと自信を持って良いと思うぞ?」
「……本当に、そう思いますか?」

 アリーシャは泣きそうな声で、そう言った。本心からの言葉なのだが、アリーシャはそうは思わなかったらしい。


「私、プライドばっかり高くて。こうして外に出て、師匠の凄さをあらためて目の当たりにして。
 私なんて本当は師匠に釣り合わない……ろくでもない弟子なんじゃないかって。師匠の時間を、無駄に奪ってるだけなんじゃないかって思うんです」
「いや、弟子が師匠の時間を奪うのは当然だろう?」

 えっ? と驚いたようにこちらを見るアリーシャ。やれやれ、こんなこと面と向かって言うのも恥ずかしいんだけどな。


「……弟子に取る、というのはそういうことだ。何をしてでも、アリーシャを1人前の結界師にすると――あの日に、そう決断したからな」
「師匠……」

 いつもガムシャラに前に進んでいたアリーシャが、まさかそんな悩みを持っていたとはな。アリーシャは十分頑張っているし、もし成長できていないとしたら、すべては俺の責任だ。
 アリーシャが気に病む必要はまったくない。


「誰がなんと言っても、アリーシャは俺の1番弟子だ。弟子になることを認めた日からな」
「私なんかが本当に、師匠の一番弟子を名乗り続けても良いんですか?」

「当たり前だ、おまえがそれを望む限りな。
 アリーシャが何と言っても、絶対におまえを1人前の結界師にしてやる。覚悟するんだな」
「――はい、師匠! いつの日にか師匠に認めてもらえるような、立派な結界師に、なります!」

(俺はこれまで、アリーシャの強さに甘えてきたのかもしれないな)

 さきほどまでの迷いを振り切ったように、ようやくアリーシャは力強く宣言した。
 弟子を取ることを決断して、早いものでもう数カ月。当然ながら、ただ知識を授ければ良いわけではないわけではないのだ。弟子を育てるというのは難しいものだな。


「旦那さまに並ぼうと思ったら、まずは常識を捨てるところから始めないとですね? アリーシャさん、頑張って下さい!」

 おい、そこのエルフ。それはどう言う意味だ?

「ふふ、そうですね。基準がおかしすぎて――本当に、どうかしてました。私はちゃんと前に進んでますよね」
「当たり前だ。そこはちゃんと保証してやる。そうでなければ――俺の方こそ、師匠失格だからな」

 そう答えると、アリーシャはとんでもないというように首を振った。
 


「では師匠! 100点満点の答え、見せてください!」

 決意を新たにした、弟子からの期待のこもった目。さらにはこの場に集まった少女たちからの、キラキラした視線も集まった。

(やれやれ、これは下手なことは出来ないな)

 俺は気合を入れ直し、結界の制御台に向き直るのだった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...