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3章 子どもの終わり
第40話 アイツが焦っていた理由はもしかして?
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冒険者ギルドに行き、マミとアイリはクエストの報酬を受け取った。彼女達は俺にも報酬の一部を渡したいらしいけど俺は受け取らなかった。
たしかにステータスアップをさせたのは俺だけど、電鳥を倒したのは彼女達なのだ。
冒険者ギルドの裏にある魔物の解体屋で、マミはアイテムボックスから電鳥を取り出した。魔物を国まで持って来るのは本来、冒険者が何人も必要である。
実際、俺達はアイテムボックスが使えなかった時は解体屋を利用する事はなかった。
弱い魔物は解体しても素材にならないけど、電鳥ともなれば羽も爪も嘴も素材になる。それに鳥なのだ。食べることもできるはず。
マミがアイテムボックスから取り出した電鳥は翼を広げれば5メートルぐらいはありそうだった。羽は黄色。黒色も少しある。
その姿は子どもの時に憧れていた、とあるゲームの伝説の魔物にソックリだった。生きたまま飼い慣らして一緒に冒険したい魔物である。魔物を飼い慣らす事なんて出来ないけど。
魔物の遺伝子に人間を駆逐する、というのが刻み込まれているらしく、魔物達は無差別に人間を襲う。
「これはすげぇー」とハゲの筋肉隆々のエプロン姿の解体屋が呟いた。
「電鳥じゃねぇーか。素材だけでも金貨200枚はくだらねぇーぞ」
「いつまでに解体できる?」とマミが尋ねた。
「明日来てくれたら解体できてると思う」
解体屋から出ると俺達は金貸し屋に向かった。金貸し屋というのは日本でいうところの証券会社である。
昔、とある勇者が魔王を倒して国の指導者になった事があるらしい。
現在では魔王は復活して、その国は勇者の子どもの代に変わっている。
だから今では生きていない勇者である。
勇者というのは、もちろん日本人である。その日本人には金融リテラシーが少しだけあったらしく、金貸し屋に投資信託という商品を作らした。
投資信託は、多くの個人投資家から集められた資金を専門のファンドマネージャーが運用する投資商品である。
どこの国でも株を現金化する事が可能である。それに貯金するより利回りが良かった。
俺は貯金はほどほど。残りは投資に回すようにと弟子に教えていた。その投資先の一つに投資信託があった。
俺が20歳頃に『バビロンの大富豪』という本を読んだ。
その書籍の中に投資することが書かれていて、実際に俺は本の影響で投資していた。
10年ほど投資を続けて、利回りが5%から10%ぐらいで毎年運用できるようになった。
だから異世界の金貸し屋にも抵抗なく、利用できた。
「どうしてお金を渡すの?」
俺達が金貸し屋にお金を渡しているのを見て、ネネちゃんが質問した。
「お金は働き者なんだ。これから、このお金達に働いてもらうんだよ」と俺が言う。
「どうやって?」とネネちゃんが尋ねた。
「このお金達は色んな会社《しょうかい》と冒険に出るんだ。冒険の報酬でお金を稼ぐんだ」
「お金が怪我をしたりしないの?」とネネちゃんが尋ねた。
「怪我をする事もあるよ。だけど回復して、また冒険の続きをしてくれるよ」
「死ぬことは?」
「死ぬこともあるよ」と俺が言う。「みんなが一斉に死なないようにするんだよ」
「死んだらお葬式とかするの?」
「お金のお葬式はしないね」と俺が言う。
「だけどお金が死ぬと、すごく悲しいよ」
「それでもお金を冒険に出すの?」
とネネちゃんが尋ねた。
「そうだよ。冒険に出さなくちゃ成長しないからね。ネネちゃんもずっと家の中にいたら嫌だろう?」
「イヤ」
「お金だって同じなんだよ。冒険をして成長して帰って来る」
「成長したらどうなるの?」とネネちゃんが尋ねた。
「沢山のお金になって帰って来るんだよ」
と俺が言う。
「沢山のお金で何をするの?」
とネネちゃんが尋ねた。
「沢山のお金で好きなことをするんだよ。やりたければお店を作ってもいい。冒険者を辞めてのんびり暮らしてもいい」
と俺は言った。
「好きな事をして幸せになったらいいんだ」
俺の考えはクロスには合わなかったんだと思う。強くなって強くなって自分のためじゃなく、人のために命を捧げろ、と彼は言われたかったんだろう。そんな生き方に憧れていた事に俺は気づいていた。だけど俺は人のために死ね、とクロスに言わなかった。
親を失い、仲間を失い、それでも3人は生きて来た。
幸せになれ、って俺だけは言い続けていたかった。
「冒険者をやめるの?」とネネちゃんが尋ねた。
「命をかけた肉体労働は長くは出来ないんだ。死ななければ、いつかはみんな冒険者をやめる」と俺は言う。
ネネちゃんはなんとも言えない顔をしていた。
「パパがヨボヨボのおじいちゃんになっても、いつ死ぬかわからない冒険者をやっていた方がいい?」
「イヤ」とネネちゃんが言った。
「仕事を辞めた時のためにお金にも働いてもらってるんだ。お金は働き者でお金を稼いで来る」と俺は言う。
「わかった」
と本当にわかっているのか、彼女が頷いた。
「噂話でも先生には一応話した方がいいんじゃない?」とマミの小さい声が聞こえた。
俺がネネちゃんと喋っている最中、2人は何かを話していた。
「先生」とアイリが俺に声をかけてきた。
「少しいいですか?」
「どうしたの?」と俺は尋ねた。
「ただの噂話なんですが、サリバンの軍が進行しているみたいなんです」
サリバンというのは強い悪魔である。魔王軍の四天王の1人である。
「どこに進行しているの?」
「勇者が死んだ国」
自分達の天敵がいない国を滅ぼすつもりなんだろう。
この国の勇者が死んだという噂は聞いていない。
「どこの国かわかるか?」
と俺は尋ねた。
アイリが首を横に振った。
「教えてくれて、ありがとう」と俺は言った。
クロスは言ったのだ。
先生は何もわかっていない。
アイツが焦っていた理由はもしかして?
そう思うと胸がモヤモヤした。
たしかにステータスアップをさせたのは俺だけど、電鳥を倒したのは彼女達なのだ。
冒険者ギルドの裏にある魔物の解体屋で、マミはアイテムボックスから電鳥を取り出した。魔物を国まで持って来るのは本来、冒険者が何人も必要である。
実際、俺達はアイテムボックスが使えなかった時は解体屋を利用する事はなかった。
弱い魔物は解体しても素材にならないけど、電鳥ともなれば羽も爪も嘴も素材になる。それに鳥なのだ。食べることもできるはず。
マミがアイテムボックスから取り出した電鳥は翼を広げれば5メートルぐらいはありそうだった。羽は黄色。黒色も少しある。
その姿は子どもの時に憧れていた、とあるゲームの伝説の魔物にソックリだった。生きたまま飼い慣らして一緒に冒険したい魔物である。魔物を飼い慣らす事なんて出来ないけど。
魔物の遺伝子に人間を駆逐する、というのが刻み込まれているらしく、魔物達は無差別に人間を襲う。
「これはすげぇー」とハゲの筋肉隆々のエプロン姿の解体屋が呟いた。
「電鳥じゃねぇーか。素材だけでも金貨200枚はくだらねぇーぞ」
「いつまでに解体できる?」とマミが尋ねた。
「明日来てくれたら解体できてると思う」
解体屋から出ると俺達は金貸し屋に向かった。金貸し屋というのは日本でいうところの証券会社である。
昔、とある勇者が魔王を倒して国の指導者になった事があるらしい。
現在では魔王は復活して、その国は勇者の子どもの代に変わっている。
だから今では生きていない勇者である。
勇者というのは、もちろん日本人である。その日本人には金融リテラシーが少しだけあったらしく、金貸し屋に投資信託という商品を作らした。
投資信託は、多くの個人投資家から集められた資金を専門のファンドマネージャーが運用する投資商品である。
どこの国でも株を現金化する事が可能である。それに貯金するより利回りが良かった。
俺は貯金はほどほど。残りは投資に回すようにと弟子に教えていた。その投資先の一つに投資信託があった。
俺が20歳頃に『バビロンの大富豪』という本を読んだ。
その書籍の中に投資することが書かれていて、実際に俺は本の影響で投資していた。
10年ほど投資を続けて、利回りが5%から10%ぐらいで毎年運用できるようになった。
だから異世界の金貸し屋にも抵抗なく、利用できた。
「どうしてお金を渡すの?」
俺達が金貸し屋にお金を渡しているのを見て、ネネちゃんが質問した。
「お金は働き者なんだ。これから、このお金達に働いてもらうんだよ」と俺が言う。
「どうやって?」とネネちゃんが尋ねた。
「このお金達は色んな会社《しょうかい》と冒険に出るんだ。冒険の報酬でお金を稼ぐんだ」
「お金が怪我をしたりしないの?」とネネちゃんが尋ねた。
「怪我をする事もあるよ。だけど回復して、また冒険の続きをしてくれるよ」
「死ぬことは?」
「死ぬこともあるよ」と俺が言う。「みんなが一斉に死なないようにするんだよ」
「死んだらお葬式とかするの?」
「お金のお葬式はしないね」と俺が言う。
「だけどお金が死ぬと、すごく悲しいよ」
「それでもお金を冒険に出すの?」
とネネちゃんが尋ねた。
「そうだよ。冒険に出さなくちゃ成長しないからね。ネネちゃんもずっと家の中にいたら嫌だろう?」
「イヤ」
「お金だって同じなんだよ。冒険をして成長して帰って来る」
「成長したらどうなるの?」とネネちゃんが尋ねた。
「沢山のお金になって帰って来るんだよ」
と俺が言う。
「沢山のお金で何をするの?」
とネネちゃんが尋ねた。
「沢山のお金で好きなことをするんだよ。やりたければお店を作ってもいい。冒険者を辞めてのんびり暮らしてもいい」
と俺は言った。
「好きな事をして幸せになったらいいんだ」
俺の考えはクロスには合わなかったんだと思う。強くなって強くなって自分のためじゃなく、人のために命を捧げろ、と彼は言われたかったんだろう。そんな生き方に憧れていた事に俺は気づいていた。だけど俺は人のために死ね、とクロスに言わなかった。
親を失い、仲間を失い、それでも3人は生きて来た。
幸せになれ、って俺だけは言い続けていたかった。
「冒険者をやめるの?」とネネちゃんが尋ねた。
「命をかけた肉体労働は長くは出来ないんだ。死ななければ、いつかはみんな冒険者をやめる」と俺は言う。
ネネちゃんはなんとも言えない顔をしていた。
「パパがヨボヨボのおじいちゃんになっても、いつ死ぬかわからない冒険者をやっていた方がいい?」
「イヤ」とネネちゃんが言った。
「仕事を辞めた時のためにお金にも働いてもらってるんだ。お金は働き者でお金を稼いで来る」と俺は言う。
「わかった」
と本当にわかっているのか、彼女が頷いた。
「噂話でも先生には一応話した方がいいんじゃない?」とマミの小さい声が聞こえた。
俺がネネちゃんと喋っている最中、2人は何かを話していた。
「先生」とアイリが俺に声をかけてきた。
「少しいいですか?」
「どうしたの?」と俺は尋ねた。
「ただの噂話なんですが、サリバンの軍が進行しているみたいなんです」
サリバンというのは強い悪魔である。魔王軍の四天王の1人である。
「どこに進行しているの?」
「勇者が死んだ国」
自分達の天敵がいない国を滅ぼすつもりなんだろう。
この国の勇者が死んだという噂は聞いていない。
「どこの国かわかるか?」
と俺は尋ねた。
アイリが首を横に振った。
「教えてくれて、ありがとう」と俺は言った。
クロスは言ったのだ。
先生は何もわかっていない。
アイツが焦っていた理由はもしかして?
そう思うと胸がモヤモヤした。
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