こんな時どうする? 異世界兄妹物語

くわっと

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32.人は一つの障害をクリアしただけで満足する、それはフェイクかもしれないから気をつけろ!

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 僕は走る。
 走り続ける。
 呼吸も苦しくなってくる、
 時々、矢が腕や頬をかすめる。
 鋭い痛みを感じる。
 しんどいな、こんなことなら、もっと体を鍛えておくべきだったかな。
 あるいは、身体強化の魔術とかを勉強するべきだったかもしれない。
 いや、後悔しても仕方がないか。
 それで過去が変わるわけでもないし、
 ましてや今が開けるわけでもない。
 
 僕がすべきことは変わらない。
 タクミさんの救出劇を無事完了すること。
 その目的の半分は達成できたはずだ。
 兵士の数は十分に減らしたし、その注意も僕に向けられている。
 僕を討ち取ったら、その結果に満足して、急ぎもせず、自身の仕事を果たせた達成感に酔いしれながら帰るだろう。
 もう一人、強敵が塔内で暴れていることも知らずに。
 

 自分語りの思考で、疲労を誤魔化しつつ、僕は走り続ける。
 そもそも、僕は生きて帰るつもりなんてない。
 最初から、死ぬつもりだった。
 生きて帰れれば、それは奇跡的な幸運、ぐらいに考えていた。
 けれど、痛みと近づく死を目の前にすると、その決意は簡単にゆらぐ。
 所詮、僕程度の人間ができる覚悟なんて、その程度のものなんだろうな。 
 やっぱりできることなら生きて戻りたい。
 また彼らと楽しく過ごしたい。
 もっと色んなことを話したい。 

「あ、やばっ」

 と、僕はつまづいて転ぶ。
 やってしまった、と思った。けれど、起きてしまったことは変えようがない。
 僕はみっともなく、地面につっ伏せる。
 程よくついていたはずの兵士との距離は一気に詰められる。

 僕の周りを兵士たちは囲む。
 右も左も、
 前も後ろも。
 空いているのは上だけだ。けれど、僕には翼がない。箒は持っていても、飛べる魔術は持っていない。
 万事休す、というやつなのだろう。

 この状態でポックルを出しても、逃げ切れる可能性はない。
 無駄な足掻きだ。
 無価値な犠牲だ。
 僕は一度立ち上がったが、ふらついてすぐに倒れる。 
 背中から、ばたりと倒れる。
 土の臭いを感じる。
 夜の空を眺める。
 綺麗だ、優しい暗さだ。

「後は頑張ってくださいね、タクミさん」

 僕は兵士たちに聞こえないくらいの声で、呟く。
 タクミさんに、この思いだけでも届けばいいなと。

「それと……ごめんなさい、嘘ついて。最初から合流するつもりなんてなかったんです」

 僕は続ける。
 無論、まだ意識はあるからパナップを通じて伝えることもできる。
 けど、ちゃんと言葉で伝えたら、きっと彼は心配するだろう。
 もしかしたら、危険を冒して僕を助けにくるかもしれない。
 間に合わないとわかっても。
 恩人だから、と。
 友達だから、と。
 そういう人達だ。
 優しい人達だ、彼らは。

「あと、僕という友達を……ライナスという存在を、できたら忘れないでくださいね」

 だからそれはできない。
 僕を助けに来て、また捕まったら何のための計画か分からない。
 何のために頑張ったか分からない。

「それから、もう誰かに捕まっちゃ駄目、ですよ。……もう僕は協力して、あげられませんからね」

 夜の空に銀色の鎧が混じる。
 視界が、兵士の姿が混じる。
 あぁ、これが僕の最期の景色か。
 それは少し、嫌だな。

「こんなことなら、彼女が教えてくれた最期の魔法、もっと練習しておけば良かった、かな。……ちゃんと、使えるように」

 ざくりざくりと、体中に槍や剣が突き刺さる。
 痛い、
 熱い、
 いたい。

 けど、どこか安心する。
 これで、僕はもう頑張らなくていい。
 アルベイスの所へ行ける。
 
 パナップの声はまだ、僕には届かない。
 タクミさんが成功したという連絡は来ない。
 せめて、僕の意識がなくなる前に、そこだけは確認したかったな。
 満足して、成功して最後を迎えたかったな。
 その方が、僕という物語の終わり方としては綺麗だし。
 何一つの未練も残さずにいける。
 だけれど、それは贅沢というものか。

 友達と恩人のための最後。
 それだけ格好つけられたら、十分か、な。

「アルベイス……今……いくよ」

 僕の意識は、そこで途絶えた。


 

 
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