32 / 45
32.人は一つの障害をクリアしただけで満足する、それはフェイクかもしれないから気をつけろ!
しおりを挟む僕は走る。
走り続ける。
呼吸も苦しくなってくる、
時々、矢が腕や頬をかすめる。
鋭い痛みを感じる。
しんどいな、こんなことなら、もっと体を鍛えておくべきだったかな。
あるいは、身体強化の魔術とかを勉強するべきだったかもしれない。
いや、後悔しても仕方がないか。
それで過去が変わるわけでもないし、
ましてや今が開けるわけでもない。
僕がすべきことは変わらない。
タクミさんの救出劇を無事完了すること。
その目的の半分は達成できたはずだ。
兵士の数は十分に減らしたし、その注意も僕に向けられている。
僕を討ち取ったら、その結果に満足して、急ぎもせず、自身の仕事を果たせた達成感に酔いしれながら帰るだろう。
もう一人、強敵が塔内で暴れていることも知らずに。
自分語りの思考で、疲労を誤魔化しつつ、僕は走り続ける。
そもそも、僕は生きて帰るつもりなんてない。
最初から、死ぬつもりだった。
生きて帰れれば、それは奇跡的な幸運、ぐらいに考えていた。
けれど、痛みと近づく死を目の前にすると、その決意は簡単にゆらぐ。
所詮、僕程度の人間ができる覚悟なんて、その程度のものなんだろうな。
やっぱりできることなら生きて戻りたい。
また彼らと楽しく過ごしたい。
もっと色んなことを話したい。
「あ、やばっ」
と、僕はつまづいて転ぶ。
やってしまった、と思った。けれど、起きてしまったことは変えようがない。
僕はみっともなく、地面につっ伏せる。
程よくついていたはずの兵士との距離は一気に詰められる。
僕の周りを兵士たちは囲む。
右も左も、
前も後ろも。
空いているのは上だけだ。けれど、僕には翼がない。箒は持っていても、飛べる魔術は持っていない。
万事休す、というやつなのだろう。
この状態でポックルを出しても、逃げ切れる可能性はない。
無駄な足掻きだ。
無価値な犠牲だ。
僕は一度立ち上がったが、ふらついてすぐに倒れる。
背中から、ばたりと倒れる。
土の臭いを感じる。
夜の空を眺める。
綺麗だ、優しい暗さだ。
「後は頑張ってくださいね、タクミさん」
僕は兵士たちに聞こえないくらいの声で、呟く。
タクミさんに、この思いだけでも届けばいいなと。
「それと……ごめんなさい、嘘ついて。最初から合流するつもりなんてなかったんです」
僕は続ける。
無論、まだ意識はあるからパナップを通じて伝えることもできる。
けど、ちゃんと言葉で伝えたら、きっと彼は心配するだろう。
もしかしたら、危険を冒して僕を助けにくるかもしれない。
間に合わないとわかっても。
恩人だから、と。
友達だから、と。
そういう人達だ。
優しい人達だ、彼らは。
「あと、僕という友達を……ライナスという存在を、できたら忘れないでくださいね」
だからそれはできない。
僕を助けに来て、また捕まったら何のための計画か分からない。
何のために頑張ったか分からない。
「それから、もう誰かに捕まっちゃ駄目、ですよ。……もう僕は協力して、あげられませんからね」
夜の空に銀色の鎧が混じる。
視界が、兵士の姿が混じる。
あぁ、これが僕の最期の景色か。
それは少し、嫌だな。
「こんなことなら、彼女が教えてくれた最期の魔法、もっと練習しておけば良かった、かな。……ちゃんと、使えるように」
ざくりざくりと、体中に槍や剣が突き刺さる。
痛い、
熱い、
いたい。
けど、どこか安心する。
これで、僕はもう頑張らなくていい。
アルベイスの所へ行ける。
パナップの声はまだ、僕には届かない。
タクミさんが成功したという連絡は来ない。
せめて、僕の意識がなくなる前に、そこだけは確認したかったな。
満足して、成功して最後を迎えたかったな。
その方が、僕という物語の終わり方としては綺麗だし。
何一つの未練も残さずにいける。
だけれど、それは贅沢というものか。
友達と恩人のための最後。
それだけ格好つけられたら、十分か、な。
「アルベイス……今……いくよ」
僕の意識は、そこで途絶えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる