紅茶と悪魔を【R18】

くわっと

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1.雨が呼んだモノ

4.本能と理性

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「中々良き返事が貰えないようだ」

セラスはため息混じり言う。
浅井の心の中では、欲望(主に性欲)と自身の将来計画が熾烈な戦い継続している。
戦況は互角と言っていいだろう。
一つ、
ほんの少しのきっかけで、拮抗状態は崩れる。

「仕方がない。本人の自由意思を捻じ曲げることになるから、あまり使いたくはないのだが……」

セラスはちょっぽり申し訳ない、といった表情で顔を曇らせる。
そして、何かを決意したように浅井を見つめた。

「やめてください。そんなまじまじと見つめないでくださいっ」

目を背けようとする浅井を、セラスは両手でぐっと固定する。
その細腕からは想像し難い固定力。
肩に小さい重機でも乗っているのか、と疑いたくなるような腕力。
しかし、問題はそこではなかった。

「あっ」

気の抜けた声を、思わず漏らした。
セラスと目があった。
美しい瞳が、自身を捉えている。
蒼い、綺麗に輝く両眼。

「ほら、そのまま。そのままだ。じっと私の目を見るんだ」

「それはどういう……」

言いかけた言葉が、途端に曇る。
思考に霞がかかったような、不思議な感覚。
別段、不快ではない。
辛くもない。
どころか、心地いい。
全身の感覚が鈍くなっていく。
浮遊感、というやつなのだろうか。
まさか、一定以上の美人は相手の目を見つめるだけで、非合法な薬と類似の効果を与えることができるのか。
成る程、美人は人生がイージーモードとよく言うが、確かに。
これ程の術が使えるのならば、生きていくのは簡単だろう。
魅惑の魔法、か。

「存外、うまくかからんな。やはり、定期的に使わないとだめか。私もまだまだ未熟、か」

セラスは独り言のように呟くと、その綺麗な両眼を閉じた。
同時に、両手による拘束も解除。

「ーーあれ?今の感覚は一体?」

浮遊感がぱっと消えた。

「客を前に、意識を飛ばすとは。プロ失格なのではないか?」

「すみません」

「だが、疲れも溜まっているのだろう。接客に商品の陳列、店内の掃除に在庫管理。そして、自己の研鑽。小さい店とはいえ、男手一つでやるのには無理があるのではないか?」

セラスはゆっくりと立ち上がり、浅井の隣へ立つ。
頭部を固定していた両手がするりと彼の右手へ動く。
柔らかでしっとりとした感触に、包まれる。

「では、こうしよう。私をここで雇え。それで賄い代わりに紅茶のいろはを教えろ。口調は悪いが、私はよく働くぞ。人手はあって困るものではないだろう」

「それは……」

反論はなかった。
確かに、彼女の言葉は現場を捉えていた。
人手が足りないのは間違いない。
睡眠時間や趣味の時間を削って紅茶の勉強に当てていた。
ワークライフバランスは崩れていたが、ワークアズライフと捉えていたので、浅井にとっては、それ程に苦ではなかった。

だが、
だがっ、
だがーー

その一つの論理は、彼の精神世界における拮抗状態を崩すに十分の力であった。
所詮、理性は理性。
理があれば、それを受け入れるのが必定。
例え、それが本能が求める結果であったとしても。

「ギブアンドテイク。人の世というのは、助け合いだろう?どちらも得する、まるで問題のない契約。世界の幸福の絶対量が増えるのだ。これは圧倒的で明確な善行だ」

そう言って、セラスは笑いかけた。
押し切られた感覚は強い。
だが、それも悪くはないのかもしれない。

こうして、浅井の店に新人店員が増えた。
物語は、ここから始まる。


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