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2.カフェでの日常・非日常
5.制服
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浅井の店『ティーハウス シャロウ』は自身の自宅も兼ねている。
本来は浅井単独で切り盛りしていたため、スタッフルームという概念は存在しなかった。だがこの度、セラスという女性従業員の参画により、その概念の検討を余儀なくされた。
「別に私のことは気にするな。明日から働かせてもらう。どうせ準備もすぐには終わらんだろう。ならば、無駄な経費は使わないことだ」
彼女は飄々と告げ、雨の中去っていったのだ。
もちろん、その言葉を真に受けたわけではない。
だが、準備が間に合わないというのも事実ではある。
ーーというか、明日から働くとは、どういうことだ?
接客の経験はあるのか?
紅茶の知識はあるのか?
各種労働契約の締結は?
賃金の振り込み先は?
様々な決めるべきことをすっ飛ばしていた。
だが、浅井はため息一つで諦めた。
彼女と過ごした時間はとても短い。
しかし、『美味しい紅茶を』なんて初手で注文する女性だ。
変わり者であることに間違いはないだろう。
この際、場当たり主義の出たとこ勝負でいこう。
どうせ、この店に来る客もセラスに劣らず変わり者だ。
新人店員のレベルが高かろうと低かろうと気にするタイプの人間ではない。
むしろ、彼女の美貌の分、ポジティブに働くことだろう。
「おはよう」
扉が開き、朝の挨拶が告げられた。
そこには、今浅井の脳内会議で話題になっていたセラスがいた。
「おはようーーって、その格好は?」
「ん、これか?どうせ専用の制服もないだろうと思い、適当に自前の服でこしらえた」
事もなげに、セラスは言う。
白と黒をメインに使った、ロングのエプロンドレス。
分かりやすく言えば、メイド服。それも、クラシカルな。
所々にフリルがあしらわれており、上品さと可愛らしさの調和をとっている。
「なんだ、その目は。……もしかして、駄目か?」
「駄目ではないですけど」
駄目ではない。
確かに、昨日のオフショルダーの方が性的で魅力的ではあった。
目に優しく、男の情動を掻き立て、奮い立たせるものではあった。
あれは間違いなくカフェ店員の制服としては不適格だ。
とは言っても、これはどうなのだろう。
今でこそ、メイド服はコスプレの定番扱いされているが、本来は従者の制服である。
作業性、清潔感、その機能は目的が変わったところで失われてはいない。
であるならば、これ程カフェ店員に相応しい格好はないだろう。
「その、あざとすぎるようなーー」
でも、それは着るものを選ぶ。
そして、場所も。
ただでさえ、少し高めの値段設定をしている。
その状態で初見さんがこの店にくれば『成る程、ここは超絶美人メイド一人で成立させている、ストロンんぐスタイルメイドカフェか』という認識を持たれる確率が高い。
彼女のせいで、自身の紅茶へのこだわりも技術もかき消されてしまうに違いない。
客の目的が変わってしまう。
それは、どうなのだろうか。
浅井が求めている、理想とする店から、乖離してしまうのではないだろうか。
「ではどうする?今から別の服を用意するか?結果は同じだと思うが」
言われて、浅井は他の格好のセラスの姿をイメージする。
他の喫茶店の格好を脳内着せ替えしてみる。
してみたが、現在のあざとさは変わらない。
何にでも合う、胡麻ドレッシングみたいな存在。
素材が良すぎるのだ。
美人は何を着せても美人。
シックだろうと、エレガントだろうと、パンクだろうと着こなしてしまう。
劣化させることなどできないのだ。
「確かに、そうですね。結果は同じでした」
「だろうに」
ふんっと、満足そうな笑みを浮かべると、セラスは昨日座っていたカウンター席に腰を下ろした。
「では、仕事のやり方を教えてもらおうか」
不遜な態度、ここに極まる。
間違いなく、人に教えを乞う態度ではなかった。
本来は浅井単独で切り盛りしていたため、スタッフルームという概念は存在しなかった。だがこの度、セラスという女性従業員の参画により、その概念の検討を余儀なくされた。
「別に私のことは気にするな。明日から働かせてもらう。どうせ準備もすぐには終わらんだろう。ならば、無駄な経費は使わないことだ」
彼女は飄々と告げ、雨の中去っていったのだ。
もちろん、その言葉を真に受けたわけではない。
だが、準備が間に合わないというのも事実ではある。
ーーというか、明日から働くとは、どういうことだ?
接客の経験はあるのか?
紅茶の知識はあるのか?
各種労働契約の締結は?
賃金の振り込み先は?
様々な決めるべきことをすっ飛ばしていた。
だが、浅井はため息一つで諦めた。
彼女と過ごした時間はとても短い。
しかし、『美味しい紅茶を』なんて初手で注文する女性だ。
変わり者であることに間違いはないだろう。
この際、場当たり主義の出たとこ勝負でいこう。
どうせ、この店に来る客もセラスに劣らず変わり者だ。
新人店員のレベルが高かろうと低かろうと気にするタイプの人間ではない。
むしろ、彼女の美貌の分、ポジティブに働くことだろう。
「おはよう」
扉が開き、朝の挨拶が告げられた。
そこには、今浅井の脳内会議で話題になっていたセラスがいた。
「おはようーーって、その格好は?」
「ん、これか?どうせ専用の制服もないだろうと思い、適当に自前の服でこしらえた」
事もなげに、セラスは言う。
白と黒をメインに使った、ロングのエプロンドレス。
分かりやすく言えば、メイド服。それも、クラシカルな。
所々にフリルがあしらわれており、上品さと可愛らしさの調和をとっている。
「なんだ、その目は。……もしかして、駄目か?」
「駄目ではないですけど」
駄目ではない。
確かに、昨日のオフショルダーの方が性的で魅力的ではあった。
目に優しく、男の情動を掻き立て、奮い立たせるものではあった。
あれは間違いなくカフェ店員の制服としては不適格だ。
とは言っても、これはどうなのだろう。
今でこそ、メイド服はコスプレの定番扱いされているが、本来は従者の制服である。
作業性、清潔感、その機能は目的が変わったところで失われてはいない。
であるならば、これ程カフェ店員に相応しい格好はないだろう。
「その、あざとすぎるようなーー」
でも、それは着るものを選ぶ。
そして、場所も。
ただでさえ、少し高めの値段設定をしている。
その状態で初見さんがこの店にくれば『成る程、ここは超絶美人メイド一人で成立させている、ストロンんぐスタイルメイドカフェか』という認識を持たれる確率が高い。
彼女のせいで、自身の紅茶へのこだわりも技術もかき消されてしまうに違いない。
客の目的が変わってしまう。
それは、どうなのだろうか。
浅井が求めている、理想とする店から、乖離してしまうのではないだろうか。
「ではどうする?今から別の服を用意するか?結果は同じだと思うが」
言われて、浅井は他の格好のセラスの姿をイメージする。
他の喫茶店の格好を脳内着せ替えしてみる。
してみたが、現在のあざとさは変わらない。
何にでも合う、胡麻ドレッシングみたいな存在。
素材が良すぎるのだ。
美人は何を着せても美人。
シックだろうと、エレガントだろうと、パンクだろうと着こなしてしまう。
劣化させることなどできないのだ。
「確かに、そうですね。結果は同じでした」
「だろうに」
ふんっと、満足そうな笑みを浮かべると、セラスは昨日座っていたカウンター席に腰を下ろした。
「では、仕事のやり方を教えてもらおうか」
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