紅茶と悪魔を【R18】

くわっと

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2.カフェでの日常・非日常

7.鋼の意思と藁の体

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だが、浅井は負けない。
浅井は紅茶以外に大した『取り柄』というものを持っていない。
それは自他共に認めるところである。
だが、だからこそ、それを補う『特質』がある。

「いや、何も。大丈夫だ。続けて、くれっ」

それは、鋼の意思。
自身で決断したことは必ずやり抜くという、強靭な意思。
これだけは、美女であろうと崩せない。
ぎりぎりであろうと、その城壁が瓦解することはない。

「では、そのように。ご注文は?」

「ーースマイルを」

「……はい?」

浅井の問いに、セラスは小首をかしげた。
その絶妙な角度、油断した表情がさらに彼の心をかき乱した。
だが、浅井はめげない挫けない。
引かない、媚びない、省みない。
自身が行うべきと判断した行動を、最後まで完遂する。

「聞こえなかったか?スマイルを、と言っているんだ」

再度、浅井は口にする。
恥ずかしげもなく。
しかし、これも必要な行為だ。
彼女のほどの美貌の持ち主だ、口説きにかかる輩は大勢いることだろう。
それを目的にしてくる連中もくるだろう。
だからこそのシュミレーション。
たとえ、紅茶ではなく美女の鑑賞を楽しむという不埒な輩でも、お客様はお客様だ。無碍に追い払うことはできない。

「はい、どうぞ!」

きゃるーん、という謎の効果音が背景に見えた。
爽やかかつ、可愛い。
綺麗というよりも、暴力的な可愛さ。
造形美のポイントを可愛い方向に全振りするとこうなるのか。
一瞬、意識が飛びかけた。

「ご、合格だ」

浅井は諦めたように、言葉を発した。
これ以上は自身の体がもたない。
それに、今のやり取りで大方理解できた。
一般的な店員のそれを遥かに凌駕している接客力の持ち主だと。
後はやるだけ時間と体力の無駄。
効率的ではない、と。

「そうか、偽りの自分を演じる、というのもなかなか面白い趣向だったがな」

さっきまでの可愛さとあざとさが焼失。元の強気の美人が帰ってきた。

「まあ、信用してもらえたようで何よりだ。契約は、信用第一。お互いが納得した上で結ばないとな」

けらけらと笑い、浅井の肩を叩いた。
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