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2.カフェでの日常・非日常
11.彼女の過去と絡む腕
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「次は私の話をしよう。聞かされてばかりでは、釣り合いが取れない。まあ、『オチ』は先に話てしまったがな」
かかっと、自虐めいた風に笑った。
自称元悪魔は、長い腕をゆっくりと浅井に絡めた。
「え、えっ、え?」
動揺の余り、浅井はみっともなく声を出す。
店主としての落ち着きはそこにはなく、
鋼の意思も面影どころか見る影もない。
「何を焦っている。悪魔とは言ったが、別に人を喰う訳でもなし。今の私は、ちょっと特殊な、ただの紅茶好きの女に過ぎん」
「でも、それとこの状況とどう関係がーー」
言いかけた言葉を、セラスの指が止めた。
浅井の唇に、ぴとっと彼女の人差し指が乗っかる。
「過去を変えることはできない。だが、解釈を変えることはできる。解釈の仕方は、現在の本人の精神状態に大きく依存する。今が停滞しているならば、尚更、だ」
彼女は指を離し、ベロりと舌で舐めた。
浅井に触れた、唇に触れたその指を。
蒼い目とは対照的なーー対照的で、映える赤い色だった。
「それに、紅茶の件を抜きにしても、私は君のことを気に入っているのだ。こうしていても、不快にならない。どころか、心地よいと感じる程にはな」
と、絡む腕に力がこもる。
付随して、掌を重ねる。
体温が直に伝わる。
指と指、
肌と肌。
「とりあえず、君は黙って私の話を聞いていればいい。私が君の過去を紅茶を飲みつつ聞いていたように、君は私の過去を私の体を感じながら聞いていればいい」
「いや、それにしてもあまりーー」
「いいから黙れ」
「……はい」
浅井は大人しく指示に従った。
聞き分けの良い子供のように、
従順な犬のように。
だが、彼女の過去には興味があるのも事実。加えて、この状況。
彼自身、セラスのことを気に入っている。
それは彼女の造形美だけの話ではない。
接客の態度、
紅茶への情熱、
時折見せる無垢な笑顔と優しさ。
そう言った複数要素によって、この状況をどこか喜んでいる自分がいると感じている。
ありえない話だ、
出来過ぎた状況だ、とは思う。
だけれど、現実に起きているのだ、否定しても仕方がない。
受け入れるだけだ。
「私はかつて、それなりに格の高い悪魔だった。楽しみながら神や天使に刃向かい、気紛れに同胞を殺し、悦に浸りながら人間を弄んだ」
セラスは握った左手に軽く力を入れる。
それこそ、浅井の感情を弄ぶように。
中指、
薬指、
人差し指、
中指。
音楽でも奏でるように、浅井に触れた。
「悪魔の寿命は長い。それこそ、人の身には余る程な。故に、私は多くの存在と出会い、交流を交わした。もちろん、人間も多かった。普通なやつも、普通じゃないやつも、色々といた」
懐かしむように、瞳を閉じた。
その様子を、浅井は見ていた。
胸の鼓動を抑えながら、見つめていた。
「その中で、君の喫茶店同様、私の人生ーーいや、正しくは存在か。それを変える事象に出会った。彼女は一応自身のことを『人間』と呼称していたが、私含め他から見れば十分過ぎるほど人間を辞めた存在だったよ」
彼女、
存在、
人間を辞めた。
断片的な単語だけが、浅井の頭に残る。
ぼんやりと、かすむ思考。
その中心にいるのは、セラスという存在。
彼女の蠱惑的な口調、声色。
一つ一つが意味ではなく、音色として彼の心をかき乱していく。
「どのくらい前だったかは、正直覚えていない。大事なのはタイミングではなく、会ったという、会ってしまったという事実だけだからな」
セラスは語気を強める。
苦々しそうに、
それでいて、どこが嬉しそうに。
かかっと、自虐めいた風に笑った。
自称元悪魔は、長い腕をゆっくりと浅井に絡めた。
「え、えっ、え?」
動揺の余り、浅井はみっともなく声を出す。
店主としての落ち着きはそこにはなく、
鋼の意思も面影どころか見る影もない。
「何を焦っている。悪魔とは言ったが、別に人を喰う訳でもなし。今の私は、ちょっと特殊な、ただの紅茶好きの女に過ぎん」
「でも、それとこの状況とどう関係がーー」
言いかけた言葉を、セラスの指が止めた。
浅井の唇に、ぴとっと彼女の人差し指が乗っかる。
「過去を変えることはできない。だが、解釈を変えることはできる。解釈の仕方は、現在の本人の精神状態に大きく依存する。今が停滞しているならば、尚更、だ」
彼女は指を離し、ベロりと舌で舐めた。
浅井に触れた、唇に触れたその指を。
蒼い目とは対照的なーー対照的で、映える赤い色だった。
「それに、紅茶の件を抜きにしても、私は君のことを気に入っているのだ。こうしていても、不快にならない。どころか、心地よいと感じる程にはな」
と、絡む腕に力がこもる。
付随して、掌を重ねる。
体温が直に伝わる。
指と指、
肌と肌。
「とりあえず、君は黙って私の話を聞いていればいい。私が君の過去を紅茶を飲みつつ聞いていたように、君は私の過去を私の体を感じながら聞いていればいい」
「いや、それにしてもあまりーー」
「いいから黙れ」
「……はい」
浅井は大人しく指示に従った。
聞き分けの良い子供のように、
従順な犬のように。
だが、彼女の過去には興味があるのも事実。加えて、この状況。
彼自身、セラスのことを気に入っている。
それは彼女の造形美だけの話ではない。
接客の態度、
紅茶への情熱、
時折見せる無垢な笑顔と優しさ。
そう言った複数要素によって、この状況をどこか喜んでいる自分がいると感じている。
ありえない話だ、
出来過ぎた状況だ、とは思う。
だけれど、現実に起きているのだ、否定しても仕方がない。
受け入れるだけだ。
「私はかつて、それなりに格の高い悪魔だった。楽しみながら神や天使に刃向かい、気紛れに同胞を殺し、悦に浸りながら人間を弄んだ」
セラスは握った左手に軽く力を入れる。
それこそ、浅井の感情を弄ぶように。
中指、
薬指、
人差し指、
中指。
音楽でも奏でるように、浅井に触れた。
「悪魔の寿命は長い。それこそ、人の身には余る程な。故に、私は多くの存在と出会い、交流を交わした。もちろん、人間も多かった。普通なやつも、普通じゃないやつも、色々といた」
懐かしむように、瞳を閉じた。
その様子を、浅井は見ていた。
胸の鼓動を抑えながら、見つめていた。
「その中で、君の喫茶店同様、私の人生ーーいや、正しくは存在か。それを変える事象に出会った。彼女は一応自身のことを『人間』と呼称していたが、私含め他から見れば十分過ぎるほど人間を辞めた存在だったよ」
彼女、
存在、
人間を辞めた。
断片的な単語だけが、浅井の頭に残る。
ぼんやりと、かすむ思考。
その中心にいるのは、セラスという存在。
彼女の蠱惑的な口調、声色。
一つ一つが意味ではなく、音色として彼の心をかき乱していく。
「どのくらい前だったかは、正直覚えていない。大事なのはタイミングではなく、会ったという、会ってしまったという事実だけだからな」
セラスは語気を強める。
苦々しそうに、
それでいて、どこが嬉しそうに。
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