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3章:その出会いはきっと必然

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 シリウスさんはわざと森の中に連れて来たんだろうか。近くにルードとアデルがいたけど……。いや、待て、そんなに近くもなかったな! あのまま迷子だったらと思うとゾッとする。



「俺が助ける前にルードたちに逢うんだもん。いやぁ、びっくりしたよね」

「オレに? ……ああ、そういうことか……」



 ルードが納得したように呟いた。どこで納得したんだろう。おれが未来のルードの愛し子だってことを、十五歳のルードはどう思っているんだろう。そしておれがアデルカラーなことをシリウスさんは突っ込まない。

 ニコロとシリウスさんは知り合いじゃない……よな? アデルが王都に来た頃には既にルードの屋敷で働いているし。友人になったって言っていたけど、ニコロもカラーが違うんだけど、大丈夫なんだろうか。



「……ん? なんでそんなことをシリウスさんが知っているんですか?」

「内緒」



 ……教えてくれなさそうだ。結界内の森の中で良かった。連れてこられた場所が。



「えーっと、ホシナは迷子だったんじゃ……?」



 ルードの屋敷には迷子として保護されているからね……。シリウスさんがおれを連れて来たのなら、迷子と言うわけじゃなくなる……。いや、帰り道知らないからやっぱり迷子のカテゴリなんだろうか。



「んーと、一方通行迷子的な……?」



 自分で言っていても意味不明。シリウスさんはおれの言葉にぶはっと吹き出した。さらにツボに入ったのか肩を震わせてしまいにはテーブルに突っ伏して笑っている。おい、原因!!

 おれがじとーっとした目で見ていることに気付いたのか、「ごめんごめん」と顔を上げて手をひらりと振った。この人、本当……なに考えてるのか全然わからないや……。いや、誰の考えていることもわからないんだけど!



「まぁ、知り合いがいるなら……」

「いや、知り合いって言っても……なんと言うか、あっちが勝手におれを知ってるだけ、のような……」

「……シリウス?」



 ニコロの声が低くなった。びくりとシリウスの肩が揺れた。……怒られる前の子どもみたいな態度だ。



「ホシナのことを勝手に知っているって言うのは、ホシナに危害を加えたいからか?」



 ……ニコロが圧を出している……!? 今までラフな感じのニコロしか知らなかったからなんだか新鮮。そしてニコロに圧倒されているように縮こまるシリウスはぶんぶんと首を横に振った。



「違う違う! ちょっとした手違い的な感じで、この子に危害を加えるつもりはないよ!」

「絶対に?」

「絶対に!」



 シリウスさんが必死でニコロに説明している。ちょっとした手違いってどういう意味だ……。それにしても、ニコロ相手にこんなに必死になるってことは、シリウスさんは友人を失いたくないってことなのかな。



「――……信じるぞ?」

「信じてよ!」



 うん、必死だ。それにしても、ニコロがこんなに怒るなんて……。シリウスさんの言葉を聞いて、ふっと表情を緩めたニコロに、シリウスさんが安堵したかのように息を吐いた。



「ニコロって怒る時あるんだね……」

「ホシナ、俺はあなたの護衛ですよ……?」



 あ、そう言えばそうだった。え、じゃあさっき怒ったのはおれのためだったのか!

 シリウスさんがおれのことを勝手に知っていたから? ストーカーみたいなもんだと思っていたのかな。



「ルーちゃんの心配性……」

「それは否定できませんね……」



 しみじみとシリウスさんに同意した。ルードの過保護は最初からだった気がする。……そもそも出会って間もないおれを抱こうとしたのはなんでだったんだろ。ちらりと十五歳のルードに視線を向けると、彼は「どうした?」と声を掛けて来た。



「……ルードは、聖騎士団には慣れましたか?」

「……まぁ。色々言われてはいるが……」



 色々? とおれが首を傾げると、ニコロがルードに向かって緩く首を振る。「言わなくていい」って感じで。そのニコロの行動に、ルードが驚いたように目を大きく見開き、それからゆっくりとうなずいた。



「ホシナは知らなくてもいいことだ。貴族絡みは面倒だし」

「貴族って大変なんですね……?」

「平民も大変ですよー」



 ぽそっと呟くニコロに、みんなで一斉に「はぁ」とため息を吐いた。貴族には貴族の、平民には平民の大変さがあるんだろう。おれはルードの庇護下にいるし、滅多に外には出ないから厄介なことになったことはない。

 ――守られているなぁ、と実感した。



「人間ってそういう争いが怖いよねー」

「シリウスさんも人間でしょうに……」

「あはは」



 笑い事じゃないだろう……。しっかし、シリウスさんとニコロが友人になるとは思わなかったな……。そして、シリウスさんが一切おれの名を呼ばないのにはなにか意味があるんだろうか……。おれを呼ぶときって大体『ルーちゃんの愛し子』や『君』だもんね。



「……前にニコロも色々言われてた的なこと言ってなかった?」

「誰に?」



 今度はシリウスさんがニコロに詰め寄った。おれとルードはなにを見せられているんだか。



「えー。人が多すぎて覚えてない」



 さらっとニコロが怖いことを言った。ちょっと待って、どれだけの人になにを言われていたんだ!?



「サディアスさんはなにもしなかったの?」



 こそっとニコロにだけ聞こえるように尋ねると、ニコロはぽんとおれの頭を撫でた。じっと瞳を見つめて微笑んだ。サディアスさんは知っているのかいないのか、万が一、彼の耳に入ったら……。

 ニコロはずっと我慢してきたのかなぁ……。



「なんて言うか……、人って怖いね……?」

「そうだな」



 相槌を返してくれたのはルードだった。おれが知っていることと知らないこと。きっとおれの知らないところで色々あるんだろうし、あったんだろう。おれは本当に良い人たちに恵まれたんだなってしみじみ思った。



「まぁ、人間に関しては置いといて、折角四人いるんだからカードゲームでもしない?」

「トランプですか?」

「うん。ハーレム内の人たちってこういう遊びって付き合ってくれないんだよね~」



 シャッシャッシャッとトランプを切ってカードを配る。……って言うかなにをするつもりでカードを配っているんだろう。



「ババ抜きかジジ抜き」

「なんだそれ?」



 ルードが聞いてきた。え、知らない? シリウスさんが簡単にルールの説明をして、それからババ抜きを始めた。……あれ、待って。これもしかして……おれが一番不利なのでは……?

 ポーカーフェイスの達人になりたい……。結果? 言わずもがな。



「……もう少しポーカーフェイス出来るようになりましょうね、ホシナ……」



 十戦中十戦負け。ポーカーフェイスってどうすれば身につきますか……?

 って言うかルードが強い! めっちゃ強い! 無表情を崩さな過ぎ! ニコロとシリウスさんはちょこっと表情を崩すことはあるけれど、それも喜怒哀楽のどれかなのかさっぱりだ。



「……じゃ、全敗の君には罰ゲームとしてこれをアデルに渡すこと!」

「これは?」

「アデルに渡せばわかるよ」



 なんだろう、これ……。渡されたものをじっと見つめる。鍵のようだった。



「アデルの部屋は……」

「あ、大丈夫。多分わかるから」

「ホシナ、俺も一緒に……」

「それじゃ罰ゲームにならないでしょ。大丈夫、危害は加えないって約束するから」



 まぁ、多分大丈夫だろう。いざとなったら鈴でニコロを呼ぼう。鍵を握って部屋を出て、生活魔法で灯りを……灯さなくても見えるけど。アデルの居場所を精霊さんに尋ねて灯りが矢印になるのをしっかりと見てから歩いていく。

 この鍵、一体なにに使う鍵なんだろう……。
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