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第三章
45:好きです
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「やめ、止めてくださいよ、せっかく涙が止まったのに」
「ずっとここに押し込めてたんだ。悲しかった事、辛かったことを。せっかくなんだかんもっと泣いちゃいな」
アスランはルルの心臓のあたりを軽くなぞったのち、胸に抱きしめた。
ルルはとうとう耐えきれなくなったのか、しゃくりあげながら、アスランにすがってくる。
「さっきっ、俺がお礼を知ったら主は笑ったけれどっ、……やっぱり、俺にとってはありがとうなんですよ」
「うん。そうか、分った。もう笑わない」
「慰みの行為と思わなかったのが俺、初めてで。まだ、混乱してて。あと、最中は怖くてたまらなかった。主に、こんな姿を見せてしまって、全部が終わってしまうのかもって」
ヒイイックと盛大なしゃっくりをルルは上げる。
「まだ何も始まってないぞ。泣き虫」
アスランはルルを落ち着かせるために、軽く背中を叩いた。
「け、剣士はっ、泣きませんっ」
「ルゥールゥー」
「今度は、子供扱いですか?!」
「あーよかった、よかった。言い返すぐらいには元気になったみたいだ。それにしても、意地っ張りだ」
「何も持っていないんだから、意地を張るぐらいしか、俺、できない」
「じゃあ、こうしよう。今、泣いているのは月狂いの夜を初めて経験した十二の君。僕は彼を慰めている。偉かったね。十三の夜も十四の夜も、一人でなんとかやり過ごすしたり、魔法使いに嫌な目に合わされたりしてきた。それも耐えてきた。偉い、偉い。十五、十六、十七の夜も辛いのは変わらなかった。でも、もう大丈夫だ」
もう耐えきれなくなったのか、「わあっ」と声を上げてルルが盛大に泣き始めた。
アスランは、彼が泣き止むまで、ずっと背中をさすり続けた。
その最中も、「あ、主」「あるじい」とルルはアスランのローブを掴んですがってくる。
「次の月狂いに夜は十五日後か。ルルが泣かなくてすむようにしないとな」
「だから、剣士は泣かないって言ってるじゃないですか」
強がりを言いながらも、ルルがアスランの腕の中で胸に額をこすりつけ、ローブをしっかりと掴んでくる。そして、深呼吸。
「あれ、主から、またオレンジの香りがする。いつの間に」
「しばらく前からつけていたよ。緊張で鼻がきかなかったんだろう。この香りをつけておけば、ルルは逃げないから便利だ」
「だから、俺は虫ですかって」
アスランが笑いながら再度、背中を擦ると、以前、ずっと抱き寄せていても硬かった身体は、前より少し強張りが抜けていた。
ルルの顎をくいと上げる。
何をし始めたのだ、主はというように、ルルが視線をあわせてきた。
一連の行為を殆ど知らないからなのか、アスランが顔を近づけても不思議そうな顔をしている。薄めの唇に思わず自分のを重ねそうになった。そして、許可も取らずに口腔を蹂躙してしまいそうだ。
だから、ルルの前髪をアスランはかきあげ、そこに唇を落とした。
「それ……」
「そう。今日にお別れする儀式だ。おやすみ」
「好きです」
急に感情を顕にされ、アスランは少し驚いた。
臆病なルルに限ってと思っていると、腕の中の彼は、目を閉じながら続ける。
「幸せな気持ちになれるから」
なんだ、そっちのことか。そうだよな。
とすぐに納得したが、アスランは何故か、今まで生きてきて感じたことのない満足感に包まれた。
そして、思った。
よくない気持ちが目覚めつつあると。
成り行きで拾って側仕えにした青年剣士は、剣闘大会に出て名を上げることを夢見ている。
きっと、ゴート城の暮らしは単調すぎて、すぐに物足りなくなる。
そう遠くない未来に、ルルはこの腕の中を出て行こうとする。
彼をすんなりと離せるだろうか。
ルルを抱き寄せる腕を緩めようと思ったのに、逆に力が入った。
「ずっとここに押し込めてたんだ。悲しかった事、辛かったことを。せっかくなんだかんもっと泣いちゃいな」
アスランはルルの心臓のあたりを軽くなぞったのち、胸に抱きしめた。
ルルはとうとう耐えきれなくなったのか、しゃくりあげながら、アスランにすがってくる。
「さっきっ、俺がお礼を知ったら主は笑ったけれどっ、……やっぱり、俺にとってはありがとうなんですよ」
「うん。そうか、分った。もう笑わない」
「慰みの行為と思わなかったのが俺、初めてで。まだ、混乱してて。あと、最中は怖くてたまらなかった。主に、こんな姿を見せてしまって、全部が終わってしまうのかもって」
ヒイイックと盛大なしゃっくりをルルは上げる。
「まだ何も始まってないぞ。泣き虫」
アスランはルルを落ち着かせるために、軽く背中を叩いた。
「け、剣士はっ、泣きませんっ」
「ルゥールゥー」
「今度は、子供扱いですか?!」
「あーよかった、よかった。言い返すぐらいには元気になったみたいだ。それにしても、意地っ張りだ」
「何も持っていないんだから、意地を張るぐらいしか、俺、できない」
「じゃあ、こうしよう。今、泣いているのは月狂いの夜を初めて経験した十二の君。僕は彼を慰めている。偉かったね。十三の夜も十四の夜も、一人でなんとかやり過ごすしたり、魔法使いに嫌な目に合わされたりしてきた。それも耐えてきた。偉い、偉い。十五、十六、十七の夜も辛いのは変わらなかった。でも、もう大丈夫だ」
もう耐えきれなくなったのか、「わあっ」と声を上げてルルが盛大に泣き始めた。
アスランは、彼が泣き止むまで、ずっと背中をさすり続けた。
その最中も、「あ、主」「あるじい」とルルはアスランのローブを掴んですがってくる。
「次の月狂いに夜は十五日後か。ルルが泣かなくてすむようにしないとな」
「だから、剣士は泣かないって言ってるじゃないですか」
強がりを言いながらも、ルルがアスランの腕の中で胸に額をこすりつけ、ローブをしっかりと掴んでくる。そして、深呼吸。
「あれ、主から、またオレンジの香りがする。いつの間に」
「しばらく前からつけていたよ。緊張で鼻がきかなかったんだろう。この香りをつけておけば、ルルは逃げないから便利だ」
「だから、俺は虫ですかって」
アスランが笑いながら再度、背中を擦ると、以前、ずっと抱き寄せていても硬かった身体は、前より少し強張りが抜けていた。
ルルの顎をくいと上げる。
何をし始めたのだ、主はというように、ルルが視線をあわせてきた。
一連の行為を殆ど知らないからなのか、アスランが顔を近づけても不思議そうな顔をしている。薄めの唇に思わず自分のを重ねそうになった。そして、許可も取らずに口腔を蹂躙してしまいそうだ。
だから、ルルの前髪をアスランはかきあげ、そこに唇を落とした。
「それ……」
「そう。今日にお別れする儀式だ。おやすみ」
「好きです」
急に感情を顕にされ、アスランは少し驚いた。
臆病なルルに限ってと思っていると、腕の中の彼は、目を閉じながら続ける。
「幸せな気持ちになれるから」
なんだ、そっちのことか。そうだよな。
とすぐに納得したが、アスランは何故か、今まで生きてきて感じたことのない満足感に包まれた。
そして、思った。
よくない気持ちが目覚めつつあると。
成り行きで拾って側仕えにした青年剣士は、剣闘大会に出て名を上げることを夢見ている。
きっと、ゴート城の暮らしは単調すぎて、すぐに物足りなくなる。
そう遠くない未来に、ルルはこの腕の中を出て行こうとする。
彼をすんなりと離せるだろうか。
ルルを抱き寄せる腕を緩めようと思ったのに、逆に力が入った。
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