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第四章

46:まあ、これからは、ルルがいるから二人きりか

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第四章

「一人?御冗談でしょう?」
「冗談言って面白い類か?この話題が」
「いや、でも」
 アスランの師匠セントロサの家から五日かけて、ルルとアスランはゴート城入りした。
 小高い丘に建つ円形のゴート城は、周りを城壁で囲まれている。
 村育ちのルルにとって、生まれてこの方、こんな大きな建物を見たことがなかった。 
 ゴート城に続く道をひたすら上がっていくと大きな鉄の門が二人を迎えてくれた。
 人を阻む難攻不落な城という感じだ。
 アスランが人差し指を向けて、それを軽々と動かす。
 今更ながら、この人の魔力はすごい。
 詠唱無しの魔法だって難なく使えるし、そんじょそこらの魔法使いが束になってかかっても敵わない。
 辺境の地ゴートの領主に収まっているのは、絶対に勿体ない。
「あれ?」
とルルは思った。
 調査の旅で長く城を開けていた城主が帰ってきたのだから、側仕えたちがわらわらと迎えに出てくる。
 そう予想していたのだが。
 それに、よく考えたら、城の門は門番が守っていいるはず。その姿も見えない。
 だから、聞いたのだ。
「どうして、お城の方の姿は一人も見えないんですか?」
と。
 すると、アスランからは「一人も見えないも何も、僕しかこの城にはいない」と答えが返ってきたのだった。
「まあ、これからは、ルルがいるから二人きりか」
 ぽそっと言われて、「え、ええっ?あ、はい。そうですね」とルルは少し慌てた。
 きっと、今のアスランの言葉に深い意味などない。
 あるとしたら、側仕えに対する雇用主として。
 満月の月狂いの夜が終わって五日がすぎていたが、気を抜くと、ふと思い出してしまう。
 あの日は、こっぴどく怒られて、その後、めちゃくちゃ優しくされた。
 怒られたことは反省している。
 あの苦しみを逃れる術は、痛みで気を散らす以外の方法もあることを、そして、月夜狂いの夜が一ヶ月に二回あることも内緒にしていた。
 というより、打ち明けられなかったのだ。
 どうして隠すんだと。
 なぜ、信頼しない?と語気を強くされたが、どうしても無理だった。
 言いたくない人を一人だけ選んでいいと神様に言われたら、絶対にアスランを選ぶ。
 みっともない自分を見られたくなかったし、蔑まされたくなかった。
 よりにもよって、月狂いの夜にそれがバレてしまって、もう全てが終わりだと覚悟したが、事後に追い払われることも、契約を解除されることもなかった。
 それどころか、自分は一生避けて通ると思っていた、肌を合わす行為の、最初と最後の部分を兄が弟に教えるように、もしくは教師が生徒に教えるように、アスランはルルに淡々と、そして自然に教えてくれた。
 でも、それだけだった。
 朝になった途端、アスランは普段の主に戻り、また数日、師匠セントロサの書庫に籠もってしまった。食事にだって戻ってこない始末。
 やっぱり嫌われてしまったのかと、恐る恐る食事を書庫に運んでいったら、ものすごい勢いで魔法書を読んでいて、ルルは圧倒されてしまった。
 声をかけていいものか迷って、一時間近く待っていたのだが、アスランはルルに気付く様子がない。きっと空腹にだって気づいていないかもしれない。
 倒れられては困る。
「あの……主」
「邪魔をしないでくれないか」
 間髪入れずに、アスランが返答してきた。
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