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第三章

56.これじゃあ、いつもと逆ですね

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 自慰は神々にとって途方もないエネルギーを使う行為とウトゥが言ったのは本当だったようだ。
 スエンはあの後、昏々と眠り続け、五日ほど過ぎてから目を覚ました。
 スエンの寝室にずっと控えていた森羅は、ニャーゴらとともに歓喜する。
 もう、ウトゥはキ国に帰ってしまった。彼から介抱の仕方は予め聞いていたので、
「先生、これ、飲んで!冷たい飲み物です」
とまずスエンに水分を勧める。
「これじゃあ、いつもと逆ですね」
 木のコップに手を添えて飲ませてもらったスエンは苦笑。
 随分と意識ははっきりしてきたようだ。
 森羅の手の甲に浮かぶ神紋を撫でながら、「不具合はありませんでしたか?」と聞いてくる。
「はい。火傷も治りましたし、めちゃくちゃ元気……」
 スエンが目覚めた喜びで頭がいっぱいになっていたが、この神紋を得るために物凄い体験をしたことが一気に思い出され、森羅は身体がかーっと熱くなるのを感じた。
(大丈夫。普通でいられる。先生が目覚めるまでたくさんイメトレしたんだから)
と心にブレーキ。
 抱き合ったのは、緊急事態だったから。
 愛し合ってああいう展開になった訳じゃない。
 事実、ウトゥとは最初、顔を合わせたときは気まずかったが、向こうがあっけかんとしていたから、こっちにすぐに普通に接することができた。
「ひ、ひとまず報告を」
 過剰に反応してしまうのは避けたいのに、最初の声は裏返ってしまった。
 医師に仲良くしてもらったことを勘違いして恋心をつのらせて結果傷つくというような繰り返しをしたくない。
(偽神紋を付けてもらうために情は与えて貰ったと思うけれど、それは、愛とは別物だよね)
「オレが神紋を得た直後に調査隊がやってきて、みんなで居間で対応を。先生はオレの胸と手の甲の神紋を見せて、悪魔じゃない証明をした後、今後『神との添い寝』も必要ないと告げられました」
「そうでしたか」
とスエンはほっと一息。
(いやあ。あれもなかなか凄かった)
 先日の一件。
 十数人でやってきた調査隊は、最初森羅の手の甲の神紋だけでは証拠にならない言い始め、それに切れたスエンが森羅の夜着をはだけながら神紋を見せつけつつ、自分の胸に森羅の額を押し当て『無粋な土人形共め。ようやく見つけたこの男と私は早く睦み合いたいのが分からないのか?居座るというならば、この場で見せつけてやるぞ。神の交合を見たら目が潰れるかもしれないがな』とほとんど意識のないまま口上。調査隊を震え上がらせクルヌギアから追い出してしまったのだ。
「怪我をした仔ニャーゴは、ウトゥさんが原種の森に送っていきました。きちんと森の主と合流できたようです」
 報告は完了。
 ここで森羅はふふっと笑う。
「ご機嫌ですね」
「はい。先生に後で見せたいものがあって」
 実は、原種の森から森羅もウトゥも珍しい物を貰ったのだ。
 早くそれをスエンに見せたい。
「ウトゥは?」
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