上 下
39 / 51

39

しおりを挟む
 現実問題、そこまで上手く、トントン拍子に事が運ぶのかは疑問だが、それでも状況だけ見れば、我が家にとって、結構メリットが大きいように思う。わたしが最大級の面倒を抱え込まないといけない、という一点を除けば。
 ――でも。

「エストラント様に利益がないのではないですか?」

 こっち側にとっての利点ばかりで、エストラント様にとってなにかいいことがあるように思えない。いくら我が家が結構長く続いている伯爵家、といったって、ほとんど没落が目の前にあって、使用人の給料のために娘がこっそり街に出て働いているレベルで、しかも婚約する相手は行き遅れな年齢である長女。

 ……どう考えても、デメリットの方が大きくない?

 少なくとも、わたしにはメリットが思いつかない。いくら第三王子だからって、政治に一切関わらせてもらえない訳じゃないだろうから、領地経営に手を出してみたい、っていうわけじゃないだろうし。ていうかそもそも、我が家には男児がちゃんといるので、現状を打破するための口は出せても、婿に入って家督を継ぐのは無理だろう。我が家は王族が婿に入れるような家でもないし。
 あの山に欲しい物があるのならば、単純に献上を命じれば我が家はそのために動かないといけないわけだし……。

 わたしが不思議がっていると、「貴女には関係ない」と言われてしまった。
 関係ないってことはないでしょう。わたしが結婚するんだから。

 ……でも、そういう言い方をするってことは、何かしら、彼にとってもメリットはあるのか。なら、うちが一方的にエストラント様に従って媚びないといけない、ということはない、のかなあ……。
 現状をどうにかしてくれるのならば、それは例えエストラント様じゃなくても、我が家は一生頭が上がらなくなると思うのだが。……そう考えると、下手にどこかの家にでかい借りを作ってしまうよりも、元より頭の上がらないエストラント様に借りができたほうがマシ……なのか?

 うーん、でも……。

「とはいえ、わたしの婚約者を決めるのは父ですのでぇ……」

 わたしは考えることを放棄して、全ての責任を父になすりつけることにした。嘘じゃないし。この歳でも、一応『貴族令嬢』ということなので、基本的に結婚相手は父が決めるのだ。
 受けるにしろ、断るにしろ、エストラント様、という大物相手の打診は、父の胃を痛めるだろうけど、頑張れ、としか言えない。父はきっと、今回も婚約者を決められないと思っているだろうから、寝耳に水、かもしれないが。

「成程、それもそうだな。では、後日連絡を入れるとしよう」

 遠回りに断りたかったわたしの思惑に気が付いてくれなかったらしい。
 非常に面倒なことになったまま、わたしの久々の舞踏会は幕を閉じた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イラストから作った俳句の供養

現代文学 / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:1

臆病な犬とハンサムな彼女(男)

BL / 完結 24h.ポイント:491pt お気に入り:4

雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:340pt お気に入り:0

星を旅するある兄弟の話

SF / 連載中 24h.ポイント:702pt お気に入り:1

妹にすべてを奪われましたが、最愛の人を見つけました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:6,122

実は私、転生者です。 ~俺と霖とキネセンと

BL / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:1

ダイニングキッチン『最後に晩餐』

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:1,988pt お気に入り:1

処理中です...