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レオさんからのお願い
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はあぁっと溜息が出た。
リュークの全ての態度が意味がわからない。
でも、彼が部屋から出て行ってくれてホッとする。
急いで鍵を締め、ロールキャベツをいただく。
お腹に温かい食べ物が入ると少し元気が出る。
そのあと、お風呂に入った。久しぶりの湯に浸かる感じがたまらない。
極楽……だ。
もう今日は精神的に疲れたので、早めにベットに入る。
すこし暗くした部屋に、テーブルに置かれたパンダの着ぐるみが、照明にぼやっと照らされ、この空間に異彩を放つ。なにか気になって、着ぐるみをバスルームに移動させた。
広いシンクの傍に置いておく。
またベットに戻り、ふかふかの布団の中に潜った。
ああ、女子一人で、野郎達のなかにいる。
ハーレム、「え、モテモテ、困っちゃかも!」とか喜んでる場合ではない。
殺されないうちに帰りたいと切に願っている。
漫画やテレビで見ているよりも、この緊張感は半端ではない。
もう魔術師のアマイくんに折り合いをつけたら、すぐに理由をつけて騎士団をやめる! と心に誓う。
うーん、でもまだ彼にどうやって会えるとかはまだ全く思いつかないが、今は自分ができることをするしかないと考えた。
ベットのかけ布団に包まりながら、レオさんが家を出る時に言ってくれた言葉を思いだす。
『あの俺、門番だから、なにかあったら助けに行きます。でも、すぐには行けません。だから、どうしてもいない時に相談したいときは、市井までくるのは大変だと思うので、これで連絡してください……』
と言ってきた。
その紙切れには本のタイトルが書かれていた。
『王宮の図書館に俺はよく行くんです。もしなにか必要だったら、そこに紙を挟んでください。いいですか? そしたら、騎士団の人に頼めないものとか、欲しいものとかあったら、差し入れとかできますから。ああ、それにそこに記載してある本、もうずっと誰も借りてる人いないですから……大丈夫で』
と言われた。
ふむ、イヌ科と彼にしてはなかなかの案だなと思う。
だけど、その後に、レオさんの言葉にまさか不意打ちのように、胸を打たれるとは思ってもみなかった。
そのタレ目が真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
あまり見たことがないようなレオさんの表情だった。
『……サキさん……。無理はしないでください。貴方がどうしても、王宮に入りたいという願いを叶える為に、この事を思いつきました。何かあったら、俺に頼れない場合は、リューク大将を頼ってください。お願いします。……リューク大将は、肩書きなしでも、とても信頼できる人です』
彼はちょっと項垂れて話す。
『……サキさんは、詳しい話は俺に話してくれませんよね……。なぜ魔術師に会わないといけないとか、どうして記憶喪失とか……。でも、俺は、話せなくてもいいと思ってます……しかも、魔術師に会いたいことは、直接は王宮側には知らせたくないとか……』
『レオさん……それは……』
キッとした目つきでこちらを見てきた。
『でも、リューク大将なら……、きっと助けてくれます。リュークさんは……リューク大将は、落ちこぼれの俺達をみんな平等に扱って、ここまで押しやってくれた人なんです。彼は本当に、凄い人なんです。だから、ただの門番の俺には……ここまでしか出来ないですけど……』
『……レオさん……』
『……きっと、助けてくれます』
咲は複雑な気持ちになった。
なぜなら、自分も彼と同じ気持ちだったからだ。
いや、殺されたかもしれないと思っていても、彼は何かの理由でそうせざる得ない、何かがあったのではともに思ってしまう。
それぐらいに……彼を信用していたのだ。
だけど、今その想いや事実を、リュークにもレオさんにも言う勇気が自分にはなかった。
それは前回、どうしても裏切られたという感が自分から拭えないからだった。
だから、親身にしてくれているレオさんには、こう答えるしかなかった。
『……レオさん、わかった。もう本当にどうしようもなくなって、魔術師も無理だったら、リューク大将を頼るよ……』
『サキさん……!』
ちょっと涙目で感動したようなレオさんを見るのは辛かった。
そんなことが絶対起きないように自分は頑張るっと、心の中で強く願った。
きっとそんなことを思い出してしまったのは、さきほどリュークに思い切り抱きしめられたせいだと思う。
リューク……。
その普段はそんなおしゃべりじゃないのに、“パンティさん”に頑張って本人は話していた。
でもその頑張りも最後の抱擁に繋がらない。
リューク、なぜ、抱きしめたの……。
実は少しだけ、自分の知らなかった間のリュークについて、レオさんが話してくれたのだ。
どうやら、リュークは五年前の聖女がなくなってから荒れ果て、自分を見失ったということだった。
自分のことを多く語らない本人とは裏腹に、リュークの周りの同僚、というより部下たちが、辺境にいきなり頭角を見せ始めた謎の兵士の素性を王宮にいる知人から聞き出したことが始まりだったようだ。
それだけ、彼の存在がレオさんたちがいた辺境国境警備隊で大きくなったという。
次第に、リュークがあの聖所専属の護衛ではないかという噂が広まったという。
みんなそれが信じられなくて、喧嘩になったと言う。
そこに現れたリュークが何事だと聞くと、そのリュークのもう信者のような同期の男が聞いたんだ。
『り、リュークさんは……あの聖女付きの専属護衛だったのですか?』
レオはその時初めて、あのリュークが狼狽える表情を見せたと言った。
じっと見守るみんなを眺めて、彼はただ無言で頷き、それ以上なにも話さなかったと言う。
ほかの警備隊のやつは大騒ぎだったと言う。
ただ呆然としていると、レオさんが声を細めた。
『ただリュークさんは、その前職に対してはほとんど話をしてくれませんでした。その時はそれで終わったんですけど、ある時、誰かが酔った勢いで聞いたんです……その……聖女付きの護衛がどうだったかって、だって騎士ならみな憧れる仕事ですから……』
どきっとしながら、その話を聞いている。
自分が死んだあと、どうだったのかちょっと興味があるのだ。
『だけど、リュークさんはただ眉間に苦しそうなシワを寄せて、ただ、無言なんです』
無言の自分にレオさんが話を続けた。
まさかレオさんは自分があの聖女だったとは知る由もない。
同じなのは、名前だけなのだ。
ただリュークがいかに謙虚で、信頼性のある上司ということを力説したいがために、話がこの流れになってしまったようだが、もう少しだけ話を聞いてみたかった。
それで? っと話の続きを促した。
『みんな、悪い質問しちゃったなと話題を変えようと思ったんですよ。でも、その時、ぽろっとリュークさんが言ったんです。ただ一言だけでした』
『な、なんて言ったの……』
『俺のせいで……聖女は死んだんだ……』
俺らはまさかそんなこと!って言ってましたよ。責任感もあり過ぎですよって。でも、ものすごい真剣で青ざめた顔をしていたからみんなそれ以上何も言えなくなって……。
睡魔が段々と襲ってくるなか、ただすこしの涙が頬をつたわった。
その涙の意味するものが自分でもよくわからない。
なぜなら、その後のレオさんとの会話が心に針があるように刺さっているのだ。
『ねえ、レオさん、聖女ってなんで亡くなったの?』
『え、サキさん、やっぱり知らないんですか? 病気って聞きましたよ……お可哀想でしたよね。そんなにお具合が悪いだなんて、俺たちも知りませんでしたから……』
もっと聖女さまには長生きしてほしかったっとか、しっぽりと言っているレオさんはもう自分の視野から消え失せた。
そう、そうなんだ。
病気って片付けられたんだ。
なにか今までに感じなかった黒い嫌なものが身体中に広がったような気がした。
リュークの全ての態度が意味がわからない。
でも、彼が部屋から出て行ってくれてホッとする。
急いで鍵を締め、ロールキャベツをいただく。
お腹に温かい食べ物が入ると少し元気が出る。
そのあと、お風呂に入った。久しぶりの湯に浸かる感じがたまらない。
極楽……だ。
もう今日は精神的に疲れたので、早めにベットに入る。
すこし暗くした部屋に、テーブルに置かれたパンダの着ぐるみが、照明にぼやっと照らされ、この空間に異彩を放つ。なにか気になって、着ぐるみをバスルームに移動させた。
広いシンクの傍に置いておく。
またベットに戻り、ふかふかの布団の中に潜った。
ああ、女子一人で、野郎達のなかにいる。
ハーレム、「え、モテモテ、困っちゃかも!」とか喜んでる場合ではない。
殺されないうちに帰りたいと切に願っている。
漫画やテレビで見ているよりも、この緊張感は半端ではない。
もう魔術師のアマイくんに折り合いをつけたら、すぐに理由をつけて騎士団をやめる! と心に誓う。
うーん、でもまだ彼にどうやって会えるとかはまだ全く思いつかないが、今は自分ができることをするしかないと考えた。
ベットのかけ布団に包まりながら、レオさんが家を出る時に言ってくれた言葉を思いだす。
『あの俺、門番だから、なにかあったら助けに行きます。でも、すぐには行けません。だから、どうしてもいない時に相談したいときは、市井までくるのは大変だと思うので、これで連絡してください……』
と言ってきた。
その紙切れには本のタイトルが書かれていた。
『王宮の図書館に俺はよく行くんです。もしなにか必要だったら、そこに紙を挟んでください。いいですか? そしたら、騎士団の人に頼めないものとか、欲しいものとかあったら、差し入れとかできますから。ああ、それにそこに記載してある本、もうずっと誰も借りてる人いないですから……大丈夫で』
と言われた。
ふむ、イヌ科と彼にしてはなかなかの案だなと思う。
だけど、その後に、レオさんの言葉にまさか不意打ちのように、胸を打たれるとは思ってもみなかった。
そのタレ目が真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
あまり見たことがないようなレオさんの表情だった。
『……サキさん……。無理はしないでください。貴方がどうしても、王宮に入りたいという願いを叶える為に、この事を思いつきました。何かあったら、俺に頼れない場合は、リューク大将を頼ってください。お願いします。……リューク大将は、肩書きなしでも、とても信頼できる人です』
彼はちょっと項垂れて話す。
『……サキさんは、詳しい話は俺に話してくれませんよね……。なぜ魔術師に会わないといけないとか、どうして記憶喪失とか……。でも、俺は、話せなくてもいいと思ってます……しかも、魔術師に会いたいことは、直接は王宮側には知らせたくないとか……』
『レオさん……それは……』
キッとした目つきでこちらを見てきた。
『でも、リューク大将なら……、きっと助けてくれます。リュークさんは……リューク大将は、落ちこぼれの俺達をみんな平等に扱って、ここまで押しやってくれた人なんです。彼は本当に、凄い人なんです。だから、ただの門番の俺には……ここまでしか出来ないですけど……』
『……レオさん……』
『……きっと、助けてくれます』
咲は複雑な気持ちになった。
なぜなら、自分も彼と同じ気持ちだったからだ。
いや、殺されたかもしれないと思っていても、彼は何かの理由でそうせざる得ない、何かがあったのではともに思ってしまう。
それぐらいに……彼を信用していたのだ。
だけど、今その想いや事実を、リュークにもレオさんにも言う勇気が自分にはなかった。
それは前回、どうしても裏切られたという感が自分から拭えないからだった。
だから、親身にしてくれているレオさんには、こう答えるしかなかった。
『……レオさん、わかった。もう本当にどうしようもなくなって、魔術師も無理だったら、リューク大将を頼るよ……』
『サキさん……!』
ちょっと涙目で感動したようなレオさんを見るのは辛かった。
そんなことが絶対起きないように自分は頑張るっと、心の中で強く願った。
きっとそんなことを思い出してしまったのは、さきほどリュークに思い切り抱きしめられたせいだと思う。
リューク……。
その普段はそんなおしゃべりじゃないのに、“パンティさん”に頑張って本人は話していた。
でもその頑張りも最後の抱擁に繋がらない。
リューク、なぜ、抱きしめたの……。
実は少しだけ、自分の知らなかった間のリュークについて、レオさんが話してくれたのだ。
どうやら、リュークは五年前の聖女がなくなってから荒れ果て、自分を見失ったということだった。
自分のことを多く語らない本人とは裏腹に、リュークの周りの同僚、というより部下たちが、辺境にいきなり頭角を見せ始めた謎の兵士の素性を王宮にいる知人から聞き出したことが始まりだったようだ。
それだけ、彼の存在がレオさんたちがいた辺境国境警備隊で大きくなったという。
次第に、リュークがあの聖所専属の護衛ではないかという噂が広まったという。
みんなそれが信じられなくて、喧嘩になったと言う。
そこに現れたリュークが何事だと聞くと、そのリュークのもう信者のような同期の男が聞いたんだ。
『り、リュークさんは……あの聖女付きの専属護衛だったのですか?』
レオはその時初めて、あのリュークが狼狽える表情を見せたと言った。
じっと見守るみんなを眺めて、彼はただ無言で頷き、それ以上なにも話さなかったと言う。
ほかの警備隊のやつは大騒ぎだったと言う。
ただ呆然としていると、レオさんが声を細めた。
『ただリュークさんは、その前職に対してはほとんど話をしてくれませんでした。その時はそれで終わったんですけど、ある時、誰かが酔った勢いで聞いたんです……その……聖女付きの護衛がどうだったかって、だって騎士ならみな憧れる仕事ですから……』
どきっとしながら、その話を聞いている。
自分が死んだあと、どうだったのかちょっと興味があるのだ。
『だけど、リュークさんはただ眉間に苦しそうなシワを寄せて、ただ、無言なんです』
無言の自分にレオさんが話を続けた。
まさかレオさんは自分があの聖女だったとは知る由もない。
同じなのは、名前だけなのだ。
ただリュークがいかに謙虚で、信頼性のある上司ということを力説したいがために、話がこの流れになってしまったようだが、もう少しだけ話を聞いてみたかった。
それで? っと話の続きを促した。
『みんな、悪い質問しちゃったなと話題を変えようと思ったんですよ。でも、その時、ぽろっとリュークさんが言ったんです。ただ一言だけでした』
『な、なんて言ったの……』
『俺のせいで……聖女は死んだんだ……』
俺らはまさかそんなこと!って言ってましたよ。責任感もあり過ぎですよって。でも、ものすごい真剣で青ざめた顔をしていたからみんなそれ以上何も言えなくなって……。
睡魔が段々と襲ってくるなか、ただすこしの涙が頬をつたわった。
その涙の意味するものが自分でもよくわからない。
なぜなら、その後のレオさんとの会話が心に針があるように刺さっているのだ。
『ねえ、レオさん、聖女ってなんで亡くなったの?』
『え、サキさん、やっぱり知らないんですか? 病気って聞きましたよ……お可哀想でしたよね。そんなにお具合が悪いだなんて、俺たちも知りませんでしたから……』
もっと聖女さまには長生きしてほしかったっとか、しっぽりと言っているレオさんはもう自分の視野から消え失せた。
そう、そうなんだ。
病気って片付けられたんだ。
なにか今までに感じなかった黒い嫌なものが身体中に広がったような気がした。
応援ありがとうございます!
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