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何が何やら…
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「おぉ、大物!!」
バシャッ! と言う音を立てて水上に飛び上がった魚はマスっぽい。30センチ超えの大物だ。これ一匹で二日は食いつなげるとてもありがたいシロモノである。お子ちゃまの小さい胃袋万歳。
短剣という人間の装備(笑)を手に入れた私はすぐさま腹を割いてワタを出す。内臓はさっきミミズ掘った穴に入れて埋めます。有効利用☆
魚を捌くのに一生懸命だった私は、気づかなかった。
背後に…真っ黒く大きな獣が近づいていた事にーーー
「…くっ! コレでもっ…くらえっ!!」
間一髪、初撃をモロに喰らう事は無かったが、それでも左肩に爪を受けてしまった。
何とか短剣で斬りつけて隙を伺うが…住処の方向に立ち塞がられている以上、ヤツの脇を抜けて行かなければ帰れないが…簡単ではなさそうな上、まるで私が行きたい方向が分かっているかのように反対側へと追われる。
このまま下手に離されるよりは特攻した方が良いのか…? と迷いが出た一瞬…
「…がっ! ぎいゃぁあぁあぁぁっ!!!」
左腕に…喰いつかれた。
反射的にそこにある頭に短剣を突き立てる。
痛い! 痛い! 熱い! 痛い!!
もう何が何だかわからない。痛いのか熱いのか寒いのか…。だが、意識は飛びそうで飛ばない。
傷はどうなってる…?! と目をやった先に…
肘から先が…無かった。
荒く吐き出されていた呼吸が…瞬間止まった。
「あぁ…あっ…あぁあぁ…?」
ない。 私の…腕が…うで…無い…
どくどくと溢れる赤。それに伴ってどんどんと失われていく熱。
「……や…だ…やだ…。嫌だ…よ…!!」
死ぬ。死んでしまう。このままでは…
シ ン デ シ マ ウ
「うあぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
視界が…真っ白に染まったーーー
「やっと見つけた…!! 大丈夫ですか!?」
焦りを含んだ男性の声に沈み込んでいた意識が浮上する。
物凄く瞼が重い。何とか持ち上げて視線を向けた先には…若い男性。
かなりな美形だが、疲労の色が濃い。
「…だれ…?」
『私』の知り合いにこんなオトコマエいたっけ…? いや…居ないよね…?
うん…? その前に『私』って…ワタシは…
「…腕っ!!」
ガバっと起き上がって向けた視線の先…
「…ある…」
腕が、ちゃんと、あった。
私の…腕が…
「ある…ちゃんと…あるっ…!!」
右手で左腕を掴んで…号泣したーーー
「この度は…誠にっ…誠に申し訳ない事をっ…!」
イケメンが土下座をしている。
正直未だ左腕ショック(私命名)から立ち直れていない私にとっては、「はぁ…」としか言えない。何とか涙は止まったけど、未だしゃくり上げながらイケメンの土下座を眺めるしか出来ない。
私がぼんやりしていて、このままでは埒があかないと思ったのか、お兄さんが説明を始めた。
まず、私が目覚めた場所は地球から見たら『異世界』である事。コレはまぁ…もうわかってたよ…。しかも何か存在する次元も違う? とか何とか。こっちに関しては良くわからんけど。
それで、あの時…信号待ちしてた時、何が起こったかと言うと…
この世界の最高神たる女神が、あの場所に顕現し、トラックに驚いて避けたところに運悪く私がおり…ぶつかった衝撃で魂の一部だけが削げ落とされたと言う事だ。
で、その削げ落とされた一部の魂と言うのが…『私』
「そもそも、魂が一部だけ切り取られる事自体異例、さらにカケラでありながら自我を保っていると言うイレギュラー…。とにかく同じ質の魂が同世界に2つ存在するとどうなるかわからない…と思った彼女が、己が世界で都合のいい『器』を見つけたからとあなたを勝手に放り込んだ事で見失ってしまい…」
「…はぁ…」
何を喋っているのかわかるようなわからないような…とりあえず『理解する事』を拒否している。私の中の何かが。
「同世界の神がやらかした事とは言え、僕とは別の存在であり、あちらの方が力が強いせいで…『世界』に落ちたあなたを見つける事が出来ず…。今回、『地球のあなた』の命の灯火が潰えようとしているため、かろうじて繋がっていたらしい『糸』が可視化された事でやっとあなたを見つける事が出来たのです」
「はぁ…」
さっきから「はぁ」しか言ってない。むしろ言えない。何が何やらわからないから。
だが、お兄さんが指差す先…細い細い…青白く揺らめく糸のような物が見える。それはどこから繋がっているのか…先端見えないが…終着点は…私の胸元だった。
「今ならまだ繋がりが切れていませんから…わずかな時間のみですが、あちらの世界を映すことができると思います。ご覧になりますか…?」
「…は…はい」
やっと「はぁ」以外の返事が出来た。
そんな私に小さく頷きを返したお兄さんがブツブツと何かを唱えたかと思うと…
目の前に、いきなり映像が映し出された。
恐らく病院だろう。白いシーツがかけられたベッドの上に横たわっている老年の女性。その女性の細った手を握る老人、周囲には壮年の男女。
「…あれは…」
もう、忘れてしまいそうになっていた自分自身の姿。
老い、窶れてしまっているが…間違いなく自分だ。
そして…泣きながら私に話しかけている老人は…髪がずいぶん寂しくなっているが、夫だ。まだあのデザインの眼鏡をしているのか。もっと細いフレームにしろと言ったのに。
「あぁ…あの子たちも…」
夫の背を撫でている女性は…娘だ。まだ幼稚園児だったせいで、面影らしい面影は無いが、泣き顔は変わらない。
厳しい顔をした男性は…小学生だった息子。この子もすっかりオッサンになって…。でも、泣くのを堪えて睨みつけるような顔になるクセ、直らなかったのね。
手を伸ばしてもーーー触れられない。
夫が弾かれたように顔を上げ…
「…あっ…?!」
一瞬にして燃え上がる『糸』。揺めき消え去る映像。
「…きっ…消えないで…! 消えないでっ…!!」
私の中の『何か』が…『糸』と共に消え去るのを感じたーーー
バシャッ! と言う音を立てて水上に飛び上がった魚はマスっぽい。30センチ超えの大物だ。これ一匹で二日は食いつなげるとてもありがたいシロモノである。お子ちゃまの小さい胃袋万歳。
短剣という人間の装備(笑)を手に入れた私はすぐさま腹を割いてワタを出す。内臓はさっきミミズ掘った穴に入れて埋めます。有効利用☆
魚を捌くのに一生懸命だった私は、気づかなかった。
背後に…真っ黒く大きな獣が近づいていた事にーーー
「…くっ! コレでもっ…くらえっ!!」
間一髪、初撃をモロに喰らう事は無かったが、それでも左肩に爪を受けてしまった。
何とか短剣で斬りつけて隙を伺うが…住処の方向に立ち塞がられている以上、ヤツの脇を抜けて行かなければ帰れないが…簡単ではなさそうな上、まるで私が行きたい方向が分かっているかのように反対側へと追われる。
このまま下手に離されるよりは特攻した方が良いのか…? と迷いが出た一瞬…
「…がっ! ぎいゃぁあぁあぁぁっ!!!」
左腕に…喰いつかれた。
反射的にそこにある頭に短剣を突き立てる。
痛い! 痛い! 熱い! 痛い!!
もう何が何だかわからない。痛いのか熱いのか寒いのか…。だが、意識は飛びそうで飛ばない。
傷はどうなってる…?! と目をやった先に…
肘から先が…無かった。
荒く吐き出されていた呼吸が…瞬間止まった。
「あぁ…あっ…あぁあぁ…?」
ない。 私の…腕が…うで…無い…
どくどくと溢れる赤。それに伴ってどんどんと失われていく熱。
「……や…だ…やだ…。嫌だ…よ…!!」
死ぬ。死んでしまう。このままでは…
シ ン デ シ マ ウ
「うあぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
視界が…真っ白に染まったーーー
「やっと見つけた…!! 大丈夫ですか!?」
焦りを含んだ男性の声に沈み込んでいた意識が浮上する。
物凄く瞼が重い。何とか持ち上げて視線を向けた先には…若い男性。
かなりな美形だが、疲労の色が濃い。
「…だれ…?」
『私』の知り合いにこんなオトコマエいたっけ…? いや…居ないよね…?
うん…? その前に『私』って…ワタシは…
「…腕っ!!」
ガバっと起き上がって向けた視線の先…
「…ある…」
腕が、ちゃんと、あった。
私の…腕が…
「ある…ちゃんと…あるっ…!!」
右手で左腕を掴んで…号泣したーーー
「この度は…誠にっ…誠に申し訳ない事をっ…!」
イケメンが土下座をしている。
正直未だ左腕ショック(私命名)から立ち直れていない私にとっては、「はぁ…」としか言えない。何とか涙は止まったけど、未だしゃくり上げながらイケメンの土下座を眺めるしか出来ない。
私がぼんやりしていて、このままでは埒があかないと思ったのか、お兄さんが説明を始めた。
まず、私が目覚めた場所は地球から見たら『異世界』である事。コレはまぁ…もうわかってたよ…。しかも何か存在する次元も違う? とか何とか。こっちに関しては良くわからんけど。
それで、あの時…信号待ちしてた時、何が起こったかと言うと…
この世界の最高神たる女神が、あの場所に顕現し、トラックに驚いて避けたところに運悪く私がおり…ぶつかった衝撃で魂の一部だけが削げ落とされたと言う事だ。
で、その削げ落とされた一部の魂と言うのが…『私』
「そもそも、魂が一部だけ切り取られる事自体異例、さらにカケラでありながら自我を保っていると言うイレギュラー…。とにかく同じ質の魂が同世界に2つ存在するとどうなるかわからない…と思った彼女が、己が世界で都合のいい『器』を見つけたからとあなたを勝手に放り込んだ事で見失ってしまい…」
「…はぁ…」
何を喋っているのかわかるようなわからないような…とりあえず『理解する事』を拒否している。私の中の何かが。
「同世界の神がやらかした事とは言え、僕とは別の存在であり、あちらの方が力が強いせいで…『世界』に落ちたあなたを見つける事が出来ず…。今回、『地球のあなた』の命の灯火が潰えようとしているため、かろうじて繋がっていたらしい『糸』が可視化された事でやっとあなたを見つける事が出来たのです」
「はぁ…」
さっきから「はぁ」しか言ってない。むしろ言えない。何が何やらわからないから。
だが、お兄さんが指差す先…細い細い…青白く揺らめく糸のような物が見える。それはどこから繋がっているのか…先端見えないが…終着点は…私の胸元だった。
「今ならまだ繋がりが切れていませんから…わずかな時間のみですが、あちらの世界を映すことができると思います。ご覧になりますか…?」
「…は…はい」
やっと「はぁ」以外の返事が出来た。
そんな私に小さく頷きを返したお兄さんがブツブツと何かを唱えたかと思うと…
目の前に、いきなり映像が映し出された。
恐らく病院だろう。白いシーツがかけられたベッドの上に横たわっている老年の女性。その女性の細った手を握る老人、周囲には壮年の男女。
「…あれは…」
もう、忘れてしまいそうになっていた自分自身の姿。
老い、窶れてしまっているが…間違いなく自分だ。
そして…泣きながら私に話しかけている老人は…髪がずいぶん寂しくなっているが、夫だ。まだあのデザインの眼鏡をしているのか。もっと細いフレームにしろと言ったのに。
「あぁ…あの子たちも…」
夫の背を撫でている女性は…娘だ。まだ幼稚園児だったせいで、面影らしい面影は無いが、泣き顔は変わらない。
厳しい顔をした男性は…小学生だった息子。この子もすっかりオッサンになって…。でも、泣くのを堪えて睨みつけるような顔になるクセ、直らなかったのね。
手を伸ばしてもーーー触れられない。
夫が弾かれたように顔を上げ…
「…あっ…?!」
一瞬にして燃え上がる『糸』。揺めき消え去る映像。
「…きっ…消えないで…! 消えないでっ…!!」
私の中の『何か』が…『糸』と共に消え去るのを感じたーーー
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