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イレギュラーはイレギュラーを呼ぶ

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 幼い兄妹の手を引き、歩く。
 少し先では車の横に立ってこちらへ手を振る夫の姿。
 パッと私の手を離し、開いたスライドドアに向かって駆けて行く子どもたち。
 よく見えない車内に吸い込まれるように子どもたちが消え…いつの間にか夫の姿も無い。

 私一人が取り残されたままーーー






「………」

 目が、覚めた。何回目だこのシチュエーションは…。
 とりあえずさっきの白い空間にいるままのようだが…先程までとは違う点がある。

 …何か、周りが燃えてるね…?

金とも白とも言い難い、何とも言えない焔が私を中心に燃え広がっている。特に熱さは感じないけど。その焔の囲いの向こうで、お兄さんが呆然としていた。

「…な…何故…。何で…何て力だ…」

 お兄さんはよくわからない事をブツブツ言いながら…彼の足元へ目を落とした。

 そこには…他の場所より大きな火が上がっていたが特に可燃物は見えない。何か炎と同化してるけど光の球のような物があるような無いような…まぁどうでもいいや。

 キョロキョロと周りを見渡しても特に面白い物も無く。さてどうしようかな、と思っていると、お兄さんが再起動したらしい。

「…あの…ですね…。えぇと…。正直、僕も現状をうまく理解できていないのですが…とりあえず…わかる範囲でご説明させていただき…ます…?」

 何で疑問系なんだよ。



 さて、割としどろもどろなお兄さんの説明をまとめるとこんな感じだ。

 まず、さっき私がぼんやりしていた上、某クソッタレ女神が乱入してきて有耶無耶になったが、『私』はあの駄女神のせいで削り取られた『魂のカケラ』であり、同世界地球に存在させたままにするとあんま良くないかも? と言う、適当かついい加減な予測によりアホ女神が司る世界の『ちょうどいい器』に放り込まれた。
 いきなり消滅させると『地球の本体』に影響があるかもしれない、という不確定要素のための措置、とのたまっていたそうだが、実のところ、この時点で『私』はその『器』に適応出来ず、そのうち『器』ごと消滅するだろうと思われていたようだ。

 おい、本当にソレが『女神』たる者の行動なのか?
 『神』特有の傲慢さとかそう言うレベルじゃないクソッタレ具合ですけど、おたくの世界、こう言う『神』が普通なの?

 いや、違いますね、とそこだけ力強い肯定が返ってきましたよ。お兄さん…同類と思われるのは嫌だったんだね…。
 何気に苦労人なのかな。

「あなたの『本体』からわずかに『糸』が出ているのが見えていましたから、行く先は見えずとも『繋がり』が切れていない以上、あなたがこちらの世界で生きているのはわかっていました。ですが、こちらの世界ではあなたの『器』となっている『ヒト族』は彼女の眷属で…僕の管轄外であるためどうしてもあなたの行方を探す事が出来ず…結局最期の時まで見つけ出せず申し訳ありませんでした…」

 お兄さんは一生懸命探してくれていたらしい。ありがとう。だがめちゃくそ苦労したから感謝はちょっぴりしかしないヨ☆

「…それで…あの…これからのことなんですけど…」

 微妙にもにょもにょしながら切り出されたのは『これから』の話。
 しかし…ものすっごく歯切れが悪い。何せもにょもにょ言ってるだけで内容は伝わらない。と言うか、意味あること言ってるのか? 多分言ってない。
 と言うことは…


「…要は、『今の私』の状態も…とってもイレギュラー…と言うことな訳?」


 気まずそうに目を逸らしたまま頷くお兄さんは、少し間を置いて口を開いた。



 曰く、『本体』が死んだ時点で同一の魂の『カケラ』である私も同時に消えると思っていたらしい。が、消えなかった。だから『家電かよ』と思った時のお兄さんの微妙な態度はそのせいだったようだ。
 後は、この『器』が亡くなるまでこのまま、と言う可能性。

「今私がこうして存在していると言うことは…この身体が死ぬまではこのままって事でファイナルアンサー?」

「えぇっと…その…ファイナルアンサーと言いたいところなんですけど…どうもその…」

 イレギュラーがイレギュラーを呼んだようでして…

 と、やっぱり目を逸らすお兄さん。


 ぱーどぅん?


 相変わらずもにょもにょだが、今度はちゃんと意味がある言葉を小声で発しているお兄さんの話を聞き取るに…

 元々『カケラ』であるにも関わらず意識を残していた事がイレギュラー。
 こちらの世界に飛ばされて『器』に適応したのもイレギュラー。
 『本体』が亡くなったにも関わらず消える事なく存在しているのもイレギュラー。

 常識の範囲外の事は、もう常識では測れないのはわかるけども…二重三重の訳わからんモノが重なりすぎてお兄さんがもにょもにょするのも…まぁしゃーない…のか?

 うぅーーーん…と唸りつつ…今までから現在の自分の状況を鑑み、その上でこれからの事を考えてみる。


 …と言っても…選択肢なんて、このままこの身体が死ぬまで普通に生きるって一択しか無くない?
 今すぐ死ねって言われても嫌だし。何のために泥啜りながらでも生きてきたと思ってんだよ。

 そんなん死にたくないからだわ。

 一択しかない選択など『選択肢』とは言わんわい。

「…選ぶモノも無いし、このままこの身体が死ぬまで頑張っておたくの世界で生きますよ」

 まだ子どもだから…平均寿命がどのくらいかは知らないけど、数十年てとこかな? あの苦境を知った今、異世界転生バンザーイ! とか言えるほど楽しまないと思うけど、イケるでしょ、多分。
 でも出来ればもうちょい何か楽に生きられるようにならんかね? ほら、生活環境とか食料とかお金とか。
 もうサバイバーは嫌なんですよね!

「あ、後、もう少しそちらの世界の情報ください」

 場合によってはクライミング界の寵児になってスポンサーついてくれそうじゃない?(大笑)

「いや…あの…そのですね…。あ、もちろん情報や生活環境に関してはできる限りのことをさせていただく予定ですが…そうではなく…その…」

 どこまでも歯切れの悪いお兄さんである。そろそろイラついてきた私に気づいたのか、覚悟を決めた顔で真っ直ぐ私を見て口を開いた。



「…どうも…あなた自身が…『亜神』という存在になっちゃってるみたいなんですよねー…ははっ…」


 …………は?


 何かとんでもない言葉が聞こえた。

「…何ですと…?」

 もういっぺん言うてみ? ん? 怒らんから(嘘)

「笑顔が怖い!! でも言わざるを得ないですよね!!」

 ほんと、僕のせいじゃないんですから怒らないでくださいよぉぉ!? と叫んだお兄さん。いや、わかってるよ、ちゃんと。
 でも、八つ当たりしないとは言ってないけどね☆



「どうやら…削り取られた際にあの女神の力が僅かに魂にくっついてたみたいなんです。それだけなら、こちらの世界の『器』に適応しやすかったんだな、くらいで済んでいたハズなんですが…」

 チラ…と上目遣い(おかしいな、お兄さんの方がめちゃくそ背が高いハズなんだが)をこちらに送りながら…意味のわからない言葉を吐いた。


「あなた、神力使っちゃってましたよね?」


 ……ぱーどぅん??


 なんか訳わからんこと言い出したぞ、このお兄さん…。
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