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マジで碌な事せんな、あの女神

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 余りの事に咽び泣いた私だが、今後は『オレTUEEE!』も夢じゃ無いと気付いて復活した。
 …いや、しかし、人間目立つと碌な事はない。出る杭は打たれてしまう。

 オーケー ワタシ フツウノコ

「魔法はほどほど、命大事に、で生きて行こう!」
「何をどうしてそうなったかは分かりませんが、いい判断かと」

 にこにこ笑うお兄さんになでなでされた。うん、まぁ私今小さいもんな。お子ちゃまやもんな。でもな、中身アラサーやねん。

 …ま、いっか。



「それにしても、この身体…まともに見た事ないんだけど…どんな顔してるの?」

 何しろ鏡なんてたいそうなモノは無かったからね!

 そう言う私に、お兄さんはそう言えばそうでしたね、と言い、また軽く手を振った。すると目の前に幼い子どもの姿が現れた。

「これが、私かぁ…」

 目の前に映る子どもは、元の世界にいた時の息子と同じくらいに見える。と言う事は恐らく7、8歳だろう。ちょっと釣り気味のぱっちり二重の目は黒。肩より短い黒髪はガタガタだったハズだが綺麗に整えられている。元は長かったのを邪魔だから自分で切ったからね。

「…何だろ…色合いは見慣れてて落ち着くんだけど…この瞳…」

 黒…と言っても青というか紫と言うか…そう言った色が濃くなって黒っぽく見える虹彩。そして…そこは砂金を散らしたかのような輝きと、日輪のように囲む金。

 …目が派手。
 アースアイみたいなもん…なのか?

 あんまり珍しいモノじゃないといいなー。
 ま、それはそれ。問題起きた時に考える。手遅れ感すごいけど。

「それよりも! 何よりも!」

 ビバ! サラツヤストレート!!

「ふははは! サバイバル生活中でも! 乾かして寝なくても! 押さえて寝なくても! 前髪も襟足もクルクルしないとかサイコーかよ!!」

 それだけで勝った気がするわあぁぁ!! と小躍りしてる私を遠巻きにしてるお兄さん。キサマ、自分の髪がまとまっててツヤツヤだから天パの苦労を知らんな? 大変な事になるんやぞ?

 高笑いする私からどんどん離れて行くお兄さんを横目に、喜びを噛み締めていた。






「うーん、とりあえず、海沿いのサウスディア王国にしようかなー」

 『地図』を見ながら考える。
 何せ、森と山しか見えない絶望感に晒された日々だったので、見晴らしいいところへ行きたい。いや、ある意味見晴らし良かったけどな? 全部緑だったけどな?
 後、沿岸沿いに住んでいたから、海が恋しいのもある。

「今、僕の最初の眷族の…何番目の子どもか忘れましたが、暗黒竜くんが魔の森の奥の奥、山脈の上の方に居ますから、あなたのお供につけますよ。あの子は直系で僕の加護がまだ濃いですから、多分そのままで神託降ろせると思うんで、伝えておきますね」

 一人で生きるの、寂しいでしょう?

 ぐ…、と息が詰まった。

 一人暮らしはした事が無かった。憧れた事はあったけど、常に『家族』が一緒だった。

 だから…余計に孤独感があった。

 おかげで独り言がすごい増えたもんね。

「お…お兄さん…も…一人になるじゃん…。大丈夫なん…?」

 一瞬目を見開いた後、柔らかな笑みを浮かべたお兄さんがまた私の頭をなでる。

 穏やかな時間が過ぎた。






「とりあえず、名前何にしよっかな」

 この『器』の記憶とか一切ないからね。名前とか知らんよ。

「…元の…名前にしないんですか?」

 お兄さんが少し遠慮気味に聞いてくる。

「うーん…正直、最初は誰かに会ったら元の名前名乗るつもりだったんだ。もしかしたら帰れるかも、っていう希望をこめて。まぁ結局名乗る相手すら現れなかったけどね」

 その望みが潰えた今…全くの別人になっているにもかかわらず、前の名前を名乗る気にはなれなかった。


「そうだ、今更感すごいけど、お兄さんの名前って何て言うの?」
「僕ですか? …あ、あなたもう『亜神』になってるのか。なら大丈夫かな。僕は『リュドミラード』と言います」
「…お兄さん…リュドミラードさんの名前から貰おうかと思ったけど…舌噛みそうだわ」

 そう言ったら笑われた。アラサー主婦の横文字への苦手意識をなめるなよ?(偏見)


「…じゃぁ、『アス』と言うのはどうですか?」


 おぉ、短くて言いやすくて良いな!

「アス! 今から私はアスになりました! はい拍手!」

 ぱちぱちぱちー!


 名前が決まったところで、本格的に今後のことを相談だ。
 最初の辺りで説明されたように、魔法有りの中世ヨーロッパ風味な世界だ。身分制度がある。
 王国と帝国で多少の違いはあれど、『貴族と平民』と言う括りは変わらないらしい。…世界史なんて夢の中だった私の知識だけで何とかイケるか…? 無理な気がしてきたけど、とりあえず『エライ人』に関わらんように生きていけばえぇやろ。

 次に、身分証だ。大きな街などに入るには必要らしい。
 戸籍があるわけじゃ無いし、子どもが生まれたからって言っても申請義務はないため、小さな村とかで一生を終える場合は特に必要じゃないそうだ。
 が、私の場合一応あった方がいいだろう、との事だ。何故かと言うと…

 多分、成長の仕方が普通の『ヒト族』と違うから。

 そのうち、年齢を自由に変えられるようになる可能性はあるようだが、それまでは…普通の『ヒト族』より遥かに遅いだろうとの事。

 一つ所に留まれないヤツやな…。

 特にこのくらいの年齢の子どもは、1年経つだけで随分変わる。その変化が無いとなると…推して知るべし、である。
 身分証を持って、大きな街を転々とした方がバレにくい。

 …人の中に入っても、あんまり深い付き合い出来ないなぁ…。

 元々、自分が『イレギュラーな存在』と知った後から、『普通』の生き方が出来るとは思っていなかった。だから想定内だ。
 お兄さんが気を遣ってくれたから、そのうち暗黒竜くんが来てくれるらしいし。

 …いやちょっと待て、暗黒竜て…。竜やぞ? ドラゴンやろ? そんなん出てきたら…ヤバない??

「…ちょ、お兄さん。暗黒竜ってもしかして…」


 そう言いかけた私の足元に…白い光が走った。


「なっ…?! 何だこれ?!」

 私を中心に増えていく白い線は紋様のようなモノを描き始める。

「…動けない?!」

 こんな変なモノのど真ん中に居たくない、と駆け出そうとしたハズの私の足は、まるで床に張り付いたかのように剥がれない。

「ちょっ、お兄さん!! リュドミラードさん! 何これ何とかして!!」

 足元から上げた視線の先に、呆然としたお兄さんが立ち竦んでいる。僅かに震えるその唇が紡いだのは…

「…召喚陣…」
「…え゛」

 それは…もしかしなくても…例の『誘拐魔法』では…?

「…あなたがこんな目に遭う原因となった時…恐らくヤツは次の『被召喚者』を選んでマーキングするつもりだったんだと思います」

 白い光の線がどんどん複雑な線を増やしていく。

「マーキングとは…その者がこちらの世界で『召喚陣』を発動した時に呼応するよう、あの女神の『神力』をごく僅かに譲渡する事…」

 光の線が、そのカタチを描き終わったようだ。

「今…あの女神の『力』を持つのは…あなただけ…。そして、『狭間ここ』は…異世界とは違うけれど…『地上』とも『天上』とも違う場所…」
「…つまり…?」

 光が、増す。

「どうやら…アスさん…召喚されちゃうみたいですねぇ」
「「されちゃうみたいですね」、じゃねえぇぇぇぇ!!」

 思ったタイミングじゃ無いですが、『地上』に降りられそうですね☆じゃねぇんだわ!!


 ほんっと! 碌なことせんな、あの女神!!



 お気をつけてー、と手を振るお兄さんの姿が光の中に消えていく。



 『神』なんて碌なモンじゃねぇなあぁぁぁぁぁっ!!






 光がおさまった空間で、リュドミラードは先程までそこに居た少女に思いを馳せる。

「…きっと、そう遠く無いでしょう」

 あなたにもう一度逢えるまで。

「…次に会った時…出会い頭に燃やされないように、僕も頑張らなくちゃね」

 いやはや、怖いなぁ~、と言いつつ、ゆるく笑った彼の姿も、次の瞬間にはその場から消えていたーーー
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