働きたくないので断罪ENDを希望します

雨夜りょう

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2:牢屋って快適ですね

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「ここが、貴女に用意された牢屋です」

 そう言って兵士に牢屋へと連れてこられる。広さはあるものの、肌に湿気がまとわりついてくる。ジメジメとして、どこか暗い牢屋だった。王子は『幽閉』などと言ったが、実際は部屋に幽閉ではなく、牢屋に監禁される事になるらしい。鉄格子越しの中は丸見えで、淑女への配慮など皆無だった。どこかカビ臭さのある牢屋に入れられたマリアンヌは、嬉々として、湿り気のあるベッドへと腰を落とした。

「さて、ネットショッピングでもしますか! マリアンヌの記憶が確かなら、あれ、日本語で書かれてたんだよね」

 読めないはずだと、マリアンヌは納得する。日本語表記のスキルを、この世界の人間では使えるはずがないと思いながら、スキルを使用した。空中にウィンドウが表示され、食品や衣料品などとカテゴリー別に分けられている。その中に残高という欄があった為、マリアンヌは開いてみた。
 残高は一千万円。成人してから、真里亜はひたすら始発から終電まで働き続けていた。月に一度か二度ある休みでは、泥のように眠るしかなかったため、お金は使う事も出来ずに貯まり続けていた。スキルの残高は、銀行の残高と同じだったのだ。

「一千万あったって、使わなきゃ意味ないんだよなー。ほんと、牢屋へ投獄されて嬉しい。神様、仏様、ジェレミー様ってやつだねー」

 まずは着慣れないドレスを着替えようと、衣料品からシンプルなワンピースを選択して購入する。ポン、という軽い音と共に、空中から段ボールに包まれた服がマリアンヌのもとへ届けられた。

「即日配達、送料無料とか、超優秀。あ、衝立も買っておこう」

 悪辣な環境にある牢屋で、淑女への羞恥心の配慮などない。トイレまで丸見えなのだ。
 いくらなんでも、こんな所で着替えられない。真里亜は衝立をだしてその裏でドレスから着替えた。

「重たかったー! これ何キロあるのよ。ご令嬢たちの筋肉と根性を称賛するわ。あ、そう言えば、残高欄に換金ってあったよね。このドレス売れるかな?確かめてみよう」

 獄中生活に煌びやかなドレスは必要ない。マリアンヌは、ウィンドウにある換金と書かれた欄を開く。スキャンしてくださいと文字が出た後、カメラへと切り替わった。

「これで撮れってことかな?」

 ドレスやネックレス、イヤリングまで写真に収めると、換金しますかの問いに“はい”を選択する。
 刹那、ドレスたちがぱっと眼前から無くなり、かわりに残高が一億円を超えていた。

「わーお、さっすが貴族! 贅沢しなきゃ、働かないで生きていけそう。でも、私は遊んで暮らすんだー。パーッと派手に! まずは、生活環境を整えなきゃだよね」

 まずはベッドが欲しいと、今まで置いてあったベッドを換金する。数百円しか儲からず、マリアンヌは舌打ちした。いくら重罪人だとしても、あくまで貴族だ。もう少しましな扱いをしてほしいものだ。

「もうちょっと良いベッド使いなさいよね。まあ、いいや。新しいベッドと、プライバシー保護のために天蓋は必要だよね。やだー、お姫様みたい」

 欣喜雀躍きんきじゃくやくとしたマリアンヌは、部屋の隅へ購入したベッドを配置する。お姫様然としたベッドに心躍らされていたが、子供のころ、父にお姫様ベッドが欲しいと強請ったら「蚊帳が欲しいのか?たしか納屋に入れてあったぞ」と言われて非常にがっかりしたことを思い出し、苦虫を噛み潰したような顔になった。

「……気を取り直して、次はトイレ! 汚いし、臭いんだよね。防災用の簡易トイレセットを買ってっと。排泄物は火魔法で焼却処分すればいいよね。マリアンヌでも、火種を作るくらいなら出来るでしょ」

 汚いトイレも換金し、その場所に目隠し用のテントが付いた簡易トイレを設置する。最近の簡易トイレは蓋までついている物が存在するのかと感心しながら、マリアンヌは次の買い物を開始した。

「あと欲しいのは、椅子と机、タンスあたりかな? ソファーももちろん欲しいけど、それはご飯の後でいっか」

 自分しか使わないのだから、パソコンデスクのような物で十分だろうと、敷き出し収納付きのデスクを購入する。椅子は勿論リクライニング機能付きのゲーミングチェアだ。

「んー、良い感じ。あ、やば。錠前を用意しておかないと。誰かが入ってきちゃ意味ないじゃんね」

 そう言うと、マリアンヌは南京錠と鉄の鎖を購入し、牢屋の扉と檻を南京錠で止める。

「うっし、あと二、三個付けたら流石に入れないでしょ」

 ガッチガチに己を拘束したマリアンヌは、ほっと安堵の息をつき、いくつかのタンスと、カセットコンロや鍋やカップ麺を購入し、ひとまずの生活拠点を整えたマリアンヌは、机の上でお湯を沸かし始めた。

「三分待つんだぞ、なんてねー」

 出来上がった麺をずるずると啜ったマリアンヌは、明るい未来に胸を躍らせた。

「ぜーったい、死ぬまで働かないんだから」
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