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9:なんか王子たちが来ました
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「四番牢で異音と異臭?」
マリアンヌが居なくなり、父王からの許可は出なかったものの、大手を振ってリリィとイチャイチャできるようになったジェレミーに、従僕から報告が入る。
「はい。ドドドといった重低音と、油のような匂い、まことしやかにあの牢屋にいる女性が男を堕落させるなんて噂までささやかれている始末です」
「牢屋に入れられてまで、こんな噂をきくなんて……」
怖いわとリリィがジェレミーに抱き着く。
「でも、ドドドって何の音なんでしょうか? 少し気になりますね」
やっとマリアンヌを追い落とし、王子を手に入れたというのに。下克上でも考えられたら困ると、リリィはジェレミーが牢屋へと向かうように誘導した。
「そうだな、一度行ってみるとしよう」
「わたしもついて行きます」
「リリィ、君が行く必要はないよ」
「いいえ、ジェレミー様一人でマリアンヌ様の所に行かせるなんてできません」
「リリィ! なんて優しい子なんだ! そうだな、君が一緒に来てくれるなら百人力だよ」
こうして、とんだ茶番を見せつけた二人はマリアンヌのもとへと歩みを進めた。
マリアンヌが居る重罪貴族用の牢屋からは、報告にあった通り重低音と油のような匂いがしている。
一番人気がなく静かなはずのその牢屋から微かに漏れ出てくる音は、確かに異様でしかなかった。
「……入るぞ」
ギィィと古びた扉が軋む音がして、扉が開く。
「ふーん、ふふぅん」と鼻歌交じりに機嫌良さげなマリアンヌの声が聞こえて来て、ジェレミーはぽかりと口を開いた。
生粋の貴族令嬢がジメジメとした牢屋へ入れられて、ご機嫌でいられるわけがない。今頃泣きわめき、己がリリィを虐めた事を深く後悔し、そしてジェレミーへ出してほしいと懇願してくるだろうと思ったのだ。
想像と現実の乖離に、ジェレミーはリリィを忘れ、マリアンヌのいる牢へと駆けだした。
「な、なんだこれは!!」
「ふふー……ん? はい?」
眼前に広がったのは、牢屋とはとても思えない快適そうな空間。上質な天蓋ベッドに座り、濡れ髪を拭いていたマリアンヌだった。
艶やかな金の髪からは水滴が滴り落ち、いつも鋭い猛禽類のような瞳は驚きでどんぐり眼になり、怒っているように常に眉根を寄せている顔がきょとんと年齢よりも幼く感じさせた。それよりも重要なのは、マリアンヌはいま風呂上りであり、ドレスとは違い体形が顕著に出ている薄い服を着ている。それは、健康な十六歳男児にとっては目に毒でしかない。
リリィを婚約者にすると決めたジェレミーとて、思わず凝視してしまう程だった。
「あら、王子様じゃないですか。こんな所まで来て、どうされました」
「………………はっ! そうじゃない! どうしてこんな事になってるんだ!」
「こんな事とは?」
小首を傾げるマリアンヌがひどく蠱惑的で、ジェレミーはたじろいだ。
「だ、誰がこんな贅沢をして良いと言った!」
牢の扉を開けようと近づいたジェレミーの視界にがっちりと拘束された扉が映る。
「な! お、おま、お前、何をしているんだ」
「さっきから、一体どうしたって言うんです」
「どこの世界に、自分から鍵を何重にもかける奴が居るんだ!」
「ここに? だって働きたくないんですもん。万が一この扉が開いたりしたら、働かなくちゃならないじゃないですか。私は、アイス食べながら映画でも見て、のんびりヒキニートしながら、食っちゃ寝生活したいんです」
「……あ、アイス。映画」
ジェレミーの後方にいたリリィが小さく声を上げる。瞠目し震える声でマリアンヌを見つめていたのに気が付くと、マリアンヌは快活な笑みを浮かべる。
「リリィ様、アイス食べてみたいんですか?」
「え? あ、あの……」
体を震わせたリリィは引き寄せられるように、一歩、また一歩と近づいていく。
「リリィ! あんな奴の言うことなんて聞く必要ない!」
そう言って、ジェレミーはリリィの肩を掴んで近寄るのを止める。それに対して、リリィは誰も気が付かないくらいに小さく眉根を寄せた。
(アイス、久しぶりに食べたかったのに)
リリィは大人しくジェレミーの指示に従い、後ろに下がった。
「こ、この事は父上に報告させてもらうからな!!」
ふんっと鼻を鳴らして、二人は牢屋から出て行った。
「何しに来たんですかね? あの人」
残されたマリアンヌは首を傾げるのだった。
マリアンヌが居なくなり、父王からの許可は出なかったものの、大手を振ってリリィとイチャイチャできるようになったジェレミーに、従僕から報告が入る。
「はい。ドドドといった重低音と、油のような匂い、まことしやかにあの牢屋にいる女性が男を堕落させるなんて噂までささやかれている始末です」
「牢屋に入れられてまで、こんな噂をきくなんて……」
怖いわとリリィがジェレミーに抱き着く。
「でも、ドドドって何の音なんでしょうか? 少し気になりますね」
やっとマリアンヌを追い落とし、王子を手に入れたというのに。下克上でも考えられたら困ると、リリィはジェレミーが牢屋へと向かうように誘導した。
「そうだな、一度行ってみるとしよう」
「わたしもついて行きます」
「リリィ、君が行く必要はないよ」
「いいえ、ジェレミー様一人でマリアンヌ様の所に行かせるなんてできません」
「リリィ! なんて優しい子なんだ! そうだな、君が一緒に来てくれるなら百人力だよ」
こうして、とんだ茶番を見せつけた二人はマリアンヌのもとへと歩みを進めた。
マリアンヌが居る重罪貴族用の牢屋からは、報告にあった通り重低音と油のような匂いがしている。
一番人気がなく静かなはずのその牢屋から微かに漏れ出てくる音は、確かに異様でしかなかった。
「……入るぞ」
ギィィと古びた扉が軋む音がして、扉が開く。
「ふーん、ふふぅん」と鼻歌交じりに機嫌良さげなマリアンヌの声が聞こえて来て、ジェレミーはぽかりと口を開いた。
生粋の貴族令嬢がジメジメとした牢屋へ入れられて、ご機嫌でいられるわけがない。今頃泣きわめき、己がリリィを虐めた事を深く後悔し、そしてジェレミーへ出してほしいと懇願してくるだろうと思ったのだ。
想像と現実の乖離に、ジェレミーはリリィを忘れ、マリアンヌのいる牢へと駆けだした。
「な、なんだこれは!!」
「ふふー……ん? はい?」
眼前に広がったのは、牢屋とはとても思えない快適そうな空間。上質な天蓋ベッドに座り、濡れ髪を拭いていたマリアンヌだった。
艶やかな金の髪からは水滴が滴り落ち、いつも鋭い猛禽類のような瞳は驚きでどんぐり眼になり、怒っているように常に眉根を寄せている顔がきょとんと年齢よりも幼く感じさせた。それよりも重要なのは、マリアンヌはいま風呂上りであり、ドレスとは違い体形が顕著に出ている薄い服を着ている。それは、健康な十六歳男児にとっては目に毒でしかない。
リリィを婚約者にすると決めたジェレミーとて、思わず凝視してしまう程だった。
「あら、王子様じゃないですか。こんな所まで来て、どうされました」
「………………はっ! そうじゃない! どうしてこんな事になってるんだ!」
「こんな事とは?」
小首を傾げるマリアンヌがひどく蠱惑的で、ジェレミーはたじろいだ。
「だ、誰がこんな贅沢をして良いと言った!」
牢の扉を開けようと近づいたジェレミーの視界にがっちりと拘束された扉が映る。
「な! お、おま、お前、何をしているんだ」
「さっきから、一体どうしたって言うんです」
「どこの世界に、自分から鍵を何重にもかける奴が居るんだ!」
「ここに? だって働きたくないんですもん。万が一この扉が開いたりしたら、働かなくちゃならないじゃないですか。私は、アイス食べながら映画でも見て、のんびりヒキニートしながら、食っちゃ寝生活したいんです」
「……あ、アイス。映画」
ジェレミーの後方にいたリリィが小さく声を上げる。瞠目し震える声でマリアンヌを見つめていたのに気が付くと、マリアンヌは快活な笑みを浮かべる。
「リリィ様、アイス食べてみたいんですか?」
「え? あ、あの……」
体を震わせたリリィは引き寄せられるように、一歩、また一歩と近づいていく。
「リリィ! あんな奴の言うことなんて聞く必要ない!」
そう言って、ジェレミーはリリィの肩を掴んで近寄るのを止める。それに対して、リリィは誰も気が付かないくらいに小さく眉根を寄せた。
(アイス、久しぶりに食べたかったのに)
リリィは大人しくジェレミーの指示に従い、後ろに下がった。
「こ、この事は父上に報告させてもらうからな!!」
ふんっと鼻を鳴らして、二人は牢屋から出て行った。
「何しに来たんですかね? あの人」
残されたマリアンヌは首を傾げるのだった。
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