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11:働かないために
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「あの、また来ちゃった」
リリィがマリアンヌの牢屋でアイスを食べて大泣きしてから数日、リリィはまたマリアンヌの牢屋を訪れていた。
もじもじと落ち着かない様子のリリィを横目に、マリアンヌはスキルでポップコーンを購入していた。
「あら、リリィ様。何しに来たんです?」
ポンポンと軽快な音をさせてトウモロコシの種を弾かせながら、マリアンヌはリリィを見つめる。この子、本当に何しに来たんだろうか。
「あ、あの。あのね……わたし、王妃になるの止めたいの。マリアンヌ様が言うように、日本に帰れない可能性の方が高いのに、わたしに王妃なんて、なれるわけないって。そんな難しいことを乗り越えられる根性も頭脳もないし」
「……はあ。なるほど? 賢明な判断だと思います。」
パリポリと音をさせてポップコーンを食べながら、池袋で非日常を求める人々の倒錯ドラマを描いたDVDを見始める。
「でも……わたし、日本に帰りたくて。あそこには、お父さんもお母さんもいるし、もっと友達といろんな場所に遊びに行きたかった。夏祭りで浴衣を着て花火を見たり、コンビニでアイスを買い食いしたりとか。もっと、つまんない日常を、大好きな人がいる場所でしたかったの。物語通りの結末を迎えたら、最後には目を覚まして、元の世界に戻れるんじゃないかって。だって、わたし死んだ記憶がないんだよ? 生きてるかもしれないじゃない。どうするのが正しいのかって」
悩ましげに眉を八の字にして、リリィが心情を吐露してくる。そんなものはマリアンヌの知ったことではない。もしゃもしゃとポップコーンを口の中に頬張る。塩味も美味しいが、キャラメル味も良いな、などと思いながらマリアンヌは動画鑑賞を続ける。
『自分の人生について考えるのは否定はしねえ。けどよ、その答えを他人に求めてどうするってんだ』
サングラスをかけた金髪の青年が、画面の中で人生に迷った主人公へそう言った。途端、リリィの瞳が揺れ、ばっと顔を上げた。
「そ、そうだよね。もっとちゃんと、自分自身で考えてみないといけないんだよね」
「…………へ? あ、はあ。そうですね、それが良いと思います」
何やら決意を込めたように目を輝かせる。彼女は一体何の話をしていたのだろうかと、マリアンヌは心中で首を傾げながら、ポップコーンを差し出した。
「食べます?」
リリィの話を聞いていなかったなど言えない、食べ物で流してしまおう。マリアンヌの思惑通り、リリィは嬉しそうにし「食べる!」とポップコーンに手を伸ばした。
「そう言えば、マリアンヌ様って牢屋に入る前より綺麗になってない?」
「そうですか? ストレスから解放されたからでしょうか。ああ、いや、日本産のシャンプーや美容品を使ってるからですね」
「え! そうなの!? あ、あの。それって私でも使える?」
急に落ち着きが無くなったリリィに、マリアンヌはニタリと詐欺師のような笑みを浮かべる。どの世界の、どの年代でも、女性であれば美に多少興味はある物なのだろう。
「シャンプー一本、金貨一枚ならお譲りしますよ」
「ひ、百万円!? 日本の高級シャンプーでも一万円くらいなのに。 うう、流石に無理だよ……これって、ぼったくりじゃ」
一万円そこそこの品を百倍で売りつけようとするなど、阿漕な商売である。いや、サロン御用達の高級シャンプーで、こちらの世界の何十倍の効果があるのだから妥当だろうと、マリアンヌは笑う。
「魔法のように以前の自分よりも美しくなるんですもの。百倍だってかわいい物でしょう? ふふ、まあ、仕方がないのでタダでお譲りしても良いですよ」
「ほ、本当!?」
「ええ。ただし、お茶会に参加が条件です。誰かに聞かれたら、牢屋にいるマリアンヌから買ったと伝えてください。ああ、金貨を貰っても使えませんので、宝石やドレスなんかの高価な物で物々交換すると」
公爵家のマリアンヌが着ていたドレスで一億円になったのだから、爵位が下の娘でも金貨一枚以上のドレスを持参するだろう。
これで、牢屋にいながら商売ができ、一生外に出なくとも牢屋で人生を終えられるという算段だ。女性の美に対する執念は頭が下がるくらいなのだ、きっと喜んで金を出してくれるだろう。
「あ、あの。化粧水なんかも……」
「良いですよ。ランクをつけてご婦人方に売りつけましょうか。高級品の美容液で十万くらいするわけですから、金貨十枚で売りましょうか。ふふ、大貴族ぐらいしか払えませんね。でも効果があるんだから、購入できたことがステータスになりますね。ふ、ふふふふふ。頑張ってくださいね、リリィ様」
リリィに美容品一式を手渡したマリアンヌは、悪魔じみた笑みを浮かべた。
リリィがマリアンヌの牢屋でアイスを食べて大泣きしてから数日、リリィはまたマリアンヌの牢屋を訪れていた。
もじもじと落ち着かない様子のリリィを横目に、マリアンヌはスキルでポップコーンを購入していた。
「あら、リリィ様。何しに来たんです?」
ポンポンと軽快な音をさせてトウモロコシの種を弾かせながら、マリアンヌはリリィを見つめる。この子、本当に何しに来たんだろうか。
「あ、あの。あのね……わたし、王妃になるの止めたいの。マリアンヌ様が言うように、日本に帰れない可能性の方が高いのに、わたしに王妃なんて、なれるわけないって。そんな難しいことを乗り越えられる根性も頭脳もないし」
「……はあ。なるほど? 賢明な判断だと思います。」
パリポリと音をさせてポップコーンを食べながら、池袋で非日常を求める人々の倒錯ドラマを描いたDVDを見始める。
「でも……わたし、日本に帰りたくて。あそこには、お父さんもお母さんもいるし、もっと友達といろんな場所に遊びに行きたかった。夏祭りで浴衣を着て花火を見たり、コンビニでアイスを買い食いしたりとか。もっと、つまんない日常を、大好きな人がいる場所でしたかったの。物語通りの結末を迎えたら、最後には目を覚まして、元の世界に戻れるんじゃないかって。だって、わたし死んだ記憶がないんだよ? 生きてるかもしれないじゃない。どうするのが正しいのかって」
悩ましげに眉を八の字にして、リリィが心情を吐露してくる。そんなものはマリアンヌの知ったことではない。もしゃもしゃとポップコーンを口の中に頬張る。塩味も美味しいが、キャラメル味も良いな、などと思いながらマリアンヌは動画鑑賞を続ける。
『自分の人生について考えるのは否定はしねえ。けどよ、その答えを他人に求めてどうするってんだ』
サングラスをかけた金髪の青年が、画面の中で人生に迷った主人公へそう言った。途端、リリィの瞳が揺れ、ばっと顔を上げた。
「そ、そうだよね。もっとちゃんと、自分自身で考えてみないといけないんだよね」
「…………へ? あ、はあ。そうですね、それが良いと思います」
何やら決意を込めたように目を輝かせる。彼女は一体何の話をしていたのだろうかと、マリアンヌは心中で首を傾げながら、ポップコーンを差し出した。
「食べます?」
リリィの話を聞いていなかったなど言えない、食べ物で流してしまおう。マリアンヌの思惑通り、リリィは嬉しそうにし「食べる!」とポップコーンに手を伸ばした。
「そう言えば、マリアンヌ様って牢屋に入る前より綺麗になってない?」
「そうですか? ストレスから解放されたからでしょうか。ああ、いや、日本産のシャンプーや美容品を使ってるからですね」
「え! そうなの!? あ、あの。それって私でも使える?」
急に落ち着きが無くなったリリィに、マリアンヌはニタリと詐欺師のような笑みを浮かべる。どの世界の、どの年代でも、女性であれば美に多少興味はある物なのだろう。
「シャンプー一本、金貨一枚ならお譲りしますよ」
「ひ、百万円!? 日本の高級シャンプーでも一万円くらいなのに。 うう、流石に無理だよ……これって、ぼったくりじゃ」
一万円そこそこの品を百倍で売りつけようとするなど、阿漕な商売である。いや、サロン御用達の高級シャンプーで、こちらの世界の何十倍の効果があるのだから妥当だろうと、マリアンヌは笑う。
「魔法のように以前の自分よりも美しくなるんですもの。百倍だってかわいい物でしょう? ふふ、まあ、仕方がないのでタダでお譲りしても良いですよ」
「ほ、本当!?」
「ええ。ただし、お茶会に参加が条件です。誰かに聞かれたら、牢屋にいるマリアンヌから買ったと伝えてください。ああ、金貨を貰っても使えませんので、宝石やドレスなんかの高価な物で物々交換すると」
公爵家のマリアンヌが着ていたドレスで一億円になったのだから、爵位が下の娘でも金貨一枚以上のドレスを持参するだろう。
これで、牢屋にいながら商売ができ、一生外に出なくとも牢屋で人生を終えられるという算段だ。女性の美に対する執念は頭が下がるくらいなのだ、きっと喜んで金を出してくれるだろう。
「あ、あの。化粧水なんかも……」
「良いですよ。ランクをつけてご婦人方に売りつけましょうか。高級品の美容液で十万くらいするわけですから、金貨十枚で売りましょうか。ふふ、大貴族ぐらいしか払えませんね。でも効果があるんだから、購入できたことがステータスになりますね。ふ、ふふふふふ。頑張ってくださいね、リリィ様」
リリィに美容品一式を手渡したマリアンヌは、悪魔じみた笑みを浮かべた。
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