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59.この群衆、全員を吹っ飛ばしたい
しおりを挟む炎竜には、核がどのように力を使用していたのかは、まったく知らない……と言葉を返され。
それから、何か打開策があるか。もう一度、世界と同期をしてくると言って。それに集中が出来るという、火山へと帰ってしまった。
「わ、分かんね~ぞ? マジで、どう清浄すんだよ……?」
いや、なんかさ……。あの雰囲気的に、それすらも知ってます! みたいな感じだったから。俺、間の抜けた声が出ちゃったよ。
まあ……。でも、そうだよな。世界の仕組みを知っているからって、それらの使い方まで理解が出来るとは限らない。
あくまでも、力を使っているのは核達だったんだからな。
「そういや、レイド……大丈夫かな」
だいぶ、時間が経っているのに。レイドは、未だ戻って来ていない。
目に見える場所で、あれだけの惨状だったんだ。そう簡単には終わらないか。
ふと、周りを見渡した時――――。
「あれ? 毛玉達は……?」
あいつら、いつも我が物顔でゴロゴロしてるのに、何処に……。
ん? あ、そうだ。ここ、いつもの森じゃなかったわ。
――俺は、勇名の特権を解除し。ダンジョンの外に出る。
「え? な、なんだ……一体?」
凄い数の人達が、俺のダンジョンを囲むようにいた。
「核が外に出てきた!? そんなのあり得ない!! やっぱり、このダンジョンが、全ての原因だったんじゃないか?」
「そうだ! あいつ見たことあるぞっ! あの、悪名高いダンジョンの核だ!! あそこは、確かに消えた筈なのに、それが存在してるなんておかしいだろ!!」
「こいつだっ!! こいつのせいで、俺達がこんなに苦しむ羽目になったんだ!!」
「殺せ!! 殺さないと、もっと犠牲者が出るぞっ!!!」
「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」
「は? ちょっ、と!?」
大量の魔法が、俺に降り注いでくる。
けど、幸運スキルのお陰で。それら全ての魔法が消え去った。
「やっぱり、化け物だっ! 人間の敵っ!!」
「お前のせいで、こんな事になってんだよ!! 死んで償えーーーーっ!!!」
「俺達が、何をしたっていうんだ!? 血も涙もない卑劣な悪魔めっ!!」
自分達のことを棚に上げて、何を言ってんだこいつらは……?
「……はぁ? 何をした、だって? 自分達を着飾るためだけに青い鳥や毛玉を殺し、幾度となく核達をも殺してきた……。お前達の方が、卑劣な悪魔だろうがっ!!!」
「あ、悪魔の声に耳を貸すなっ! 早く、早く殺さないと!! 催眠をかけられるぞっ!!」
「そうだ!! 早く……――あっ!! ハートシア様っ!! この悪魔が全ての元凶ですっ! 八つ裂きにして殺して下さい!!」
――その群衆の後ろに、レイドの姿が見えた。
「なに……? 貴様らは、何を言っている? ……邪魔だ、どけ」
酷く疲れた様子のレイドは、俺の方へとフラフラしながらも近付いて来る。
俺に辿り着くまでの間、ペチャクチャと喋っている群衆に揉みくちゃにされ。レイドはそれに顔をしかめ、触れてくる奴らを振り払っていて……。非常に迷惑そうにしている。
俺は、そこまで迷惑だと態度を示されているのに、気付けない周囲の視力は大丈夫なのかと驚いた。
だから、俺からレイドに近づこうとして、ハッと踏み止まる。俺があの群衆に突っ込んだら、全員が空に吹っ飛んでしまう。
一人二人だったら、近づく距離で加減が出来るけど。あんな人数のど真ん中に俺が入ったら、死傷者が出る可能性が高い。
こんな人間達でも、何かあったら目覚めが悪いからと……。レイドには悪いけど、距離を保って待つことにした。
「ヤマダ……」
レイドが俺の元に辿り着いた時には、いつもは綺麗に整えている、髪の毛とか洋服とかが悲惨なことになっていた。
それを直そうとする余裕がない程に、手を膝につけ、疲労困憊であるレイドの姿を見て。俺はその身体を支え、身だしなみをサッサッと軽く整える。
また、魔力をギリギリまで使用したのだろう。
「レイド、大丈夫か? また、魔力切れを起こしてるじゃねーか……」
「ああ、平気だ。待たせて悪かったな……。炎竜とは、話が出来たのか?」
レイドは、俺の肩に頭を預け。荒くなった息を整えていた。
「うん、それが――」
「ハートシア様が、催眠にかかってしまったぞっ!? 救出しなければっ!!」
「ハートシア様!! 目を醒まして下さいっ!! 悪魔の声に耳を傾けないでっ!! 悪魔を殺して、私たちを救って下さいっ!!!」
「ハートシア様! 負けないでっ! 私達がついていますっ!!」
「はあ……? だからさ~!!」
幸運スキルで、こいつら全員を吹っ飛ばしてやろうか!? ……あ~、いやいや。我慢だ、我慢。
イラッとして、さっき思ってたことが頭からすっぽ抜けそうになった。
俺が、怒りを鎮めていると。隣にいるレイドから、凄まじい冷気が溢れ出てきて、それが群衆に向けられていた。
「……貴様ら、せっかく助かった命を無駄にする気か? 死にたくなければ、ここから消えろ」
周囲にいた人達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていく――。
魔力を向けられていない俺も、ちょっと怖かったから。それを向けられた本人達は、一溜りもなかったのだろう。
「レイド無理すんなよ。どうせ、あいつらじゃ俺に触れることすら出来ないんだから……」
「そういう問題じゃない。あのようなことを、ヤマダが言われていること自体、許せない」
レイドが、不快そうに顔を歪めている。
俺にとって、全く問題にならないことでも。レイドは烈火の如く怒る。
初めは、意味分かんない奴だから。どうせ、変な理由からだろ……なんて思って、気にしていなかったけど。
最近はそれが気になっていた。
それは、レイドの俺を見る目が……――ただ好みだから、というだけじゃないような気がするのだ。
だから、落ち着いたら。その理由を聞いてみようと思っている。
「ヤマダ。森に戻ったら、炎竜とした話を聞かせて欲しい」
俺に向かって、レイドが手を差し出してきた。
「え? もしかして、空間魔法を使おうとしてる……?」
「ああ。距離は、そう遠くはないから大丈夫だ。これで飛んだ方が早いだろう?」
そう言いながらも、レイドは苦しそうな表情を浮かべている。これは、どう見ても。魔力を使わない方がいい。
多分、さっきの事があったから。俺の姿を、人の目に触れさせたくないんだろう。
俺、あんなので傷つく程。繊細な心をしていないから、大丈夫なのに……。
「普通に帰ろう。あそこの道を、真っ直ぐ行けば森に――」
俺の手が、ガシッ! と掴まれ。拒否する間もなく、レイドは空間魔法を使ってしまった。
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