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15.『デール』の名を知るおじさん

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「いでっ……!?」
「きゃっ!?」

 腰を打ち付け、ジンジンする。ぶつけたとこを擦っていると、カラフルさんが驚いた声を上げた。
 一体、どうしたんだと思い。カラフルさんへと、視線を向ける――。

「カラフルさん、どう――あれ? ここって……」

 俺達が、今いる場所は。泉で見た、小さな家の中のようだった。

「え? な、なぜ……わたくしまで?」

 カラフルさんは、周囲を見渡し。戸惑っている様子だった。

「ん……? どういうこと?」
「あの泉を使用する時。普通は、一人ずつで……。泉に映った場所は、それを思い浮かべた本人しか行けませんのよ……」
「そ、そうなの……?」

 だから、カラフルさんは、俺と一緒に逃げようとしなかったのか……。

「それで、此処は貴方のお住まい……?」
「いや、違う……。こんなとこ、見たこともないんだけど……」
「……それは、あり得ませんわ。泉は、記憶にある場所に、飛ぶようになっていますから……。空想上など、あやふやなものでは。飛ぶことはおろか、反応すらしませんの」
「え、でも……」

 あーだこーだと、カラフルさんと話したが……。結局、分からなかった為。外に出て、人を探し。ここは何処の地区なのかと、聞くことにした――。



 △▼△▼△▼△▼


「カ、カラフルさん……。やっぱり、これで行くの?」
「ええ、仕方ないでしょう? ここに貴方を運べる物、ありませんでしたし。この世界のこと、わたくし知らないんですもの」

 ――俺は再び、カラフルさんに抱き上げられ。下山していた。

(うん、まあ……。確かに、仕方ないか。そんなこと、言ってる場合でもないもんな)

 チラリとカラフルさんを見ると、焦っているように感じる。きっと、なんとかして元の世界に帰りたいんだろう。

 けど、話を聞く限り。シコ様がいる世界へと帰る術は、分からないというのだ。
 あんな魔法のような泉と同じものは、ここの世界には無いからだ。
 だから、今は――この場所を、把握することしか出来ない。

 それに、カラフルさんは……。シコ様があのようになったことに、責任を感じているのかもしれない。それで、自分が殺されるとしても帰ろうとしているのだと思う。
 でも、責任ならカラフルさんじゃなく。俺の方があるんじゃないか? と一瞬、思ったが――。
 それでも、あの世界に渡ってから。ずっと、理不尽なことをされていた……という気持ちの方が強くて。そう素直に認めることは、出来なかった。


「――ん~? なんだぁ? 男を抱えられるなんて。ずいぶんと、力持ちな娘だな……?」

 話かけられて、声の方を向く――。
 籠を背負ったおじさんがいて、その装いからすると、山菜採りに来たのだろう。

「こんなの、朝飯前ですわ!」
「はっはっは! 面白いお嬢ちゃんだな」

 カラフルさんはおじさんと、どんな山菜が旨いかと談笑し始めた。

(いや、カラフルさん。普通に会話してるけど、急いでるんじゃなかったっけ……? やっぱ、カラフルさんって、気持ちが一直線になる人なんだろうなぁ~)

「おじさん、ここって……どこの地区?」

 話し終わるのを待っていたら、いつになるか分からないので。俺がその話を振った。

 カラフルさんは「そうでしたわ……」と、いま思い出したといったふうに呟いていたから。話しを、さっさと切り上げて良かった。

「ん? ここは、隠霧地区だが?」

(隠霧……? 俺のアパートから、かなり遠いじゃん。金ないし、どうしよう……)

 う~んと悩んでいると、おじさんに顔を覗かれて。一体どうしたのかと、おじさんを見上げた。

「あれ……? あんた、デール坊か?」
「――え?」

(デール坊? ……デール、って。なんで、あっちの名前を、このおじさんが知ってるんだ?)

 おじさんは、確信したように頷いている。

「その左目の泣き黒子と、深緑色の瞳……。やっぱ、そうだな? 全然、町に戻って来ねぇから。あんた、自分の母さんのことを忘れちまったかと思ってたぞ? 息子が迎えに来てくれて……。マリアさんも、やっと報われるなぁ……」

(は? なに、母さん……? 俺、孤児なんだけど?)

 俺は、意味が分からず。ポカンとおじさんを眺めていると、おじさんについて来いと言われ。
 呆然としている俺を見て、カラフルさんも戸惑っていたが。言われるがまま、おじさんの背について行った。

 着いた場所は――俺達が始めにいた家のような、小さな木造の家で。おじさんは自分の家だと言い。それから、少し待っててくれと家の中に入って行く。
 暫くして、出てきたおじさんは。手に何かを持っていた。

 それを、俺に向かって差し出し――「マリアさんの、遺骨だ」と、骨壺を手渡されたのだ。


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