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第2章 霧の中の足音
第10話 沈黙の先で待つもの
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東棟から続く廊下を抜けた先、館の西端に位置する階段室へと翔たちは足を運んでいた。昼を越えた時間帯にもかかわらず、窓から差し込む光は妙に弱く、壁のランプの明かりだけが彼らの足元を照らしていた。
足音が、床板の上に落ちるたびに、わずかに軋んだ。
森と相川の姿は、どこにもなかった。
「さっき話してた“隙間のある壁”って、書庫のさらに奥よね?」
結衣が囁くように問いかける。
「うん、昨日、俺たちが見つけたときには、あえて触らずに通り過ぎた場所だ。何か……開けてはいけない気がして」
「でも森さんたちは、もう何かを掴んでるかもしれない。追いかけなきゃ」
翔は小さく頷き、階段をゆっくりと降りる。
薄暗い廊下を抜けた先、書庫の扉は、わずかに開いていた。静かに近づいた翔がノブに触れると、軋むこともなく滑らかに開いた。
中は無人だった。
ただ、机の上に置かれていたノートのページが一枚だけ、めくれていた。
翔が近づいて確認する。
そこには、誰かが新たに書き加えたような筆跡が残されていた。
『記録する者が、記される側に堕ちるとき、扉は開かれる』
「……これ、誰が書いたの?」
結衣の声が微かに震えていた。
「元々あった文字とは筆跡が違う。誰かが、この数時間のうちに来たんだ」
水沢が部屋の隅に目を向ける。
「見て。あの本棚……少し動いてる」
翔が歩み寄り、壁際の棚に手を添える。微かにズレている。よく見れば、床にうっすらと擦った跡が残っていた。
「……やっぱり、動かせる構造になってる」
そう言って押し込むと、ギギ……と低い音を立てて、本棚はわずかに奥へとスライドした。
暗闇の向こうに、細い隙間が覗く。
「まるで、意図的に“隠された通路”みたいだ」
誰もが息を呑んだ。
そのとき――背後の扉が、ゆっくりと閉まる音が響いた。
驚いて振り返ると、そこには誰もいない。
だが、確かに、何者かが“通り過ぎた気配”だけが残されていた。
「……これは、もう偶然とは思えない」
水沢が、静かに言った。
「この館は、“誰か”の思考に従って動いている。私たちは今、その思考の“なぞり道”を歩かされているだけかもしれない」
翔が隙間の奥を見つめる。
「でも……なら、その“誰か”は、何を見せようとしてるんだ?」
誰も答えなかった。
だが、そのとき、翔のポケットの中――朝方からずっと気になっていた招待状の封筒が、ひとりでに“軋む音”を立てて折れ曲がった。
「……中身、確認してなかったよな?」
結衣に言われて初めて、翔はゆっくりとそれを取り出した。
封筒の裏――以前には無かったはずの封蝋が、ひび割れたように剥がれていた。
そこに、薄墨で綴られていたのは、たった一行。
『君は、どこまで知る覚悟があるか。』
その文が、招かれた者に対する“真の問い”であるように、翔には思えた。
足音が、床板の上に落ちるたびに、わずかに軋んだ。
森と相川の姿は、どこにもなかった。
「さっき話してた“隙間のある壁”って、書庫のさらに奥よね?」
結衣が囁くように問いかける。
「うん、昨日、俺たちが見つけたときには、あえて触らずに通り過ぎた場所だ。何か……開けてはいけない気がして」
「でも森さんたちは、もう何かを掴んでるかもしれない。追いかけなきゃ」
翔は小さく頷き、階段をゆっくりと降りる。
薄暗い廊下を抜けた先、書庫の扉は、わずかに開いていた。静かに近づいた翔がノブに触れると、軋むこともなく滑らかに開いた。
中は無人だった。
ただ、机の上に置かれていたノートのページが一枚だけ、めくれていた。
翔が近づいて確認する。
そこには、誰かが新たに書き加えたような筆跡が残されていた。
『記録する者が、記される側に堕ちるとき、扉は開かれる』
「……これ、誰が書いたの?」
結衣の声が微かに震えていた。
「元々あった文字とは筆跡が違う。誰かが、この数時間のうちに来たんだ」
水沢が部屋の隅に目を向ける。
「見て。あの本棚……少し動いてる」
翔が歩み寄り、壁際の棚に手を添える。微かにズレている。よく見れば、床にうっすらと擦った跡が残っていた。
「……やっぱり、動かせる構造になってる」
そう言って押し込むと、ギギ……と低い音を立てて、本棚はわずかに奥へとスライドした。
暗闇の向こうに、細い隙間が覗く。
「まるで、意図的に“隠された通路”みたいだ」
誰もが息を呑んだ。
そのとき――背後の扉が、ゆっくりと閉まる音が響いた。
驚いて振り返ると、そこには誰もいない。
だが、確かに、何者かが“通り過ぎた気配”だけが残されていた。
「……これは、もう偶然とは思えない」
水沢が、静かに言った。
「この館は、“誰か”の思考に従って動いている。私たちは今、その思考の“なぞり道”を歩かされているだけかもしれない」
翔が隙間の奥を見つめる。
「でも……なら、その“誰か”は、何を見せようとしてるんだ?」
誰も答えなかった。
だが、そのとき、翔のポケットの中――朝方からずっと気になっていた招待状の封筒が、ひとりでに“軋む音”を立てて折れ曲がった。
「……中身、確認してなかったよな?」
結衣に言われて初めて、翔はゆっくりとそれを取り出した。
封筒の裏――以前には無かったはずの封蝋が、ひび割れたように剥がれていた。
そこに、薄墨で綴られていたのは、たった一行。
『君は、どこまで知る覚悟があるか。』
その文が、招かれた者に対する“真の問い”であるように、翔には思えた。
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