白のマシュー

あやさわえりこ

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ずっとそばにいる

ページ38

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──ゆい──
 どこを見回しても白い中。
 地面と空の見分けもつかない。そんな場所にあたしは立っていた。どこからか、なつかしい声が聞こえてくる。
 やさしい、穏やかな、女の人の声。
──ゆい──
 別の声がまたどこからか聞こえた。これもなつかしい。
 やさしい、しっかりとした、男の人の声。
「お父さん? お母さん?」
 聞きなれた声がだれのものか思い出した瞬間、あたしの声は、大きく、張りあげて、空間中に響きわたった。目の前も上も下も真っ白な中で、あちこちに首を動かしてみる。
 探しても、どこにもいない。聞き違いだったのかな。
──ゆい──
 やっぱり、この声はお母さんだ。あとからお父さんの声でもう一度聞こえる、「ゆい」と。
 どこから聞こえているか、よくわからなかった。ふしぎだった。白の空間全部から呼びかけられているよう。
「ねえ、どこにいるの?」
 白の光に吸いこまれるようで、自分の声が壁に当たって跳ね返ってくることも、ない。
「お父さんも、お母さんも、どこ行っちゃったの?」
 のどが、キュッと乾きはじめる。体中の水が目の下に向かっているサイン。
「どこ行っちゃったの……」
 上ずって、言葉が最後まで続いてくれない。
 こんなとき、いつもお母さんはあたしを両腕で包んでくれたし、お父さんは大きな右手をあたしの頭にポンッとのせてくれた。しばらくそうやってくれて、温めてくれる。
「二人とも、どこにいるの……」
 ぐすっと無意識のうちに鼻をすすっていた。勝手に目からまた熱いものがこぼれようとした。
 と、そのときだった。
 ふわりとあたしの肩にあたたかいものが触れる。空気があたる……といったらなんだか変だけど、ほんとにゆっくりと、そっと、小さな風があたった。それに、その風のような感触は、人の体温くらいにあったかかった。服を通じて肌に当たる感じ……気持ちいい。ふわふわな雲でもあたったのかな。
──お父さんも、お母さんも──
 左肩の後ろあたりから声がした。たしかにそこから聞こえる。
──ここにいる──
 今度は右肩から、お母さんの声。
──ずっと、そばにいる──
「ずっと、そばに……?」
──だからゆいは一人なんかじゃない──
 自信を持った、お父さんの声がした。のどの奥から出る太い声。
──そうよ。お父さんとお母さんがついてる──
 あたたかい空気は、あたしの手にも。
 あたしの手がそっとにぎられているよう。見えないけれど、ここにはお母さんの細い指がやわらかく包みこんでいる気がする。
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