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T家のうさみ
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こんにちは! 私の名前は高畑亜美。小学三年生になったばかり。家族は、お父さんとお母さんと、そしてお姉ちゃんの四人暮らし。……と、言いたいところだけど、実はね、家族はもう一匹いるの。え? 犬? 猫? どっちなのって? ううん、違うよ、どっちでもない。これはもう一匹の、私の家族のお話だよ。
「そろそろ寝る時間よ、いつまで遊んでるの」
「いいじゃん、明日は土曜日だもん」とお姉ちゃん。
「まだ遊びたいー。うさみも、まだ遊びたいって」
私は自分の思っていることを、『うさみ』に代わりに言ってもらうように言う。うさみの頭をちょっと動かして、まん丸黒目をお母さんに向けた。
「うさみちゃんはもう寝たいって言っているように聞こえるけどなあ」こういうお母さんも、うさみと遊びたいんだろう。
「ううう」
うさみの頭を左右に動かして首を振るようにする。私が言っているんだけど、まるでうさみが本当にしゃべっているみたいに。
「うさみちゃんは遊ばれて疲れたって言っているよ」
「うちゃあ」
またお母さんに向かってうさみは首を振る。疲れてないよ、まだ遊ぶもん、そういう意味をこめて。
ぬいぐるみ遊びはお母さんもお姉ちゃんも私も大好きなのだ。
そう、ぬいぐるみの『うさみ』は家族みんなのアイドル。私が赤ちゃんの時、お姉ちゃんの誕生日プレゼントとしてもらったんだって。一応お姉ちゃんのものだけど、私も遊ぶし、お母さんも時々私たちと一緒に遊ぶ。
うさみは長い耳をしていて、灰色と白のお顔をして、指はないけれど両手両足があって立つこともできる。果物が散りばめられたような柄の赤いスカートを履いていて、えりには白いリボンもついている。女の子なのだ。
「とにかく、早く寝なさい。亜美は、今日からお姉ちゃんと一緒に寝るんでしょ」
「……うん」思い出した。急に私のなかに不安が出てきた。
「お姉ちゃん、ちゃんと眠れるか見てあげてね」
「はーい」お姉ちゃんは、私の手の中にあるうさみの右腕を挙げて返事をした。
不安。これまではお母さんとお父さんの間で眠っていた。でも、小学三年になって一週間、生活リズムが落ち着いてきたこの日から、お姉ちゃんの子供部屋……じゃなくて二人の部屋でお姉ちゃんと一緒に眠ることになったんだ。ベッドの用意もしている。もう私は子供部屋で寝ることに決まっている。本当は、一人でちゃんと眠れるのか不安だし、お母さんと一緒に眠りたいんだけれど。
そんなあたりまえが、今日から変わる。
お姉ちゃんはすごい。私の知る限りではお姉ちゃんはずっと一人、部屋で寝ている。トイレに行きたい時は自分一人でいく。私なんか、トイレで起きるに決まっているし、トイレに一人で行けなくてお母さんと一緒に行くのが当たり前だ。お姉ちゃんは小学五年生。小学五年生になれば、私もそうなれるのかな?
「じゃあ由美、よろしくね。おやすみ」
「はーい、おやすみー」「おやすみー」
二階に行って『由美と亜美の部屋』と書かれている扉を開ける。お姉ちゃんは電気をつけた。持ってきたうさみをおもちゃ箱の前に置いて、さっそくベッドに向かった。
「お姉ちゃんは先に寝るね。あ、電気消すから早くベッドに入って」
言われるがままに、私は自分の新しいベッドに入る。
ベッドの木の匂い、新しく買ってもらったばかりの布団の匂い。いつも嗅いでいるお母さんとお父さんの匂いはどこにもなく、ちょっと落ち着かない。
「消すよー」
パチッと音がして、部屋の中のものはなんにも見えなくなってしまった。
「うわ! 真っ暗! なんにも見えない」
「すぐ慣れるよ。ほら、おもちゃ箱の前にうさみがいるよ。見えるでしょ」
「うん、うさみ見えるよ」「なら安心でしょ? おやすみ」
そういうとお姉ちゃんは布団の中にもぐりこんだ。
「そろそろ寝る時間よ、いつまで遊んでるの」
「いいじゃん、明日は土曜日だもん」とお姉ちゃん。
「まだ遊びたいー。うさみも、まだ遊びたいって」
私は自分の思っていることを、『うさみ』に代わりに言ってもらうように言う。うさみの頭をちょっと動かして、まん丸黒目をお母さんに向けた。
「うさみちゃんはもう寝たいって言っているように聞こえるけどなあ」こういうお母さんも、うさみと遊びたいんだろう。
「ううう」
うさみの頭を左右に動かして首を振るようにする。私が言っているんだけど、まるでうさみが本当にしゃべっているみたいに。
「うさみちゃんは遊ばれて疲れたって言っているよ」
「うちゃあ」
またお母さんに向かってうさみは首を振る。疲れてないよ、まだ遊ぶもん、そういう意味をこめて。
ぬいぐるみ遊びはお母さんもお姉ちゃんも私も大好きなのだ。
そう、ぬいぐるみの『うさみ』は家族みんなのアイドル。私が赤ちゃんの時、お姉ちゃんの誕生日プレゼントとしてもらったんだって。一応お姉ちゃんのものだけど、私も遊ぶし、お母さんも時々私たちと一緒に遊ぶ。
うさみは長い耳をしていて、灰色と白のお顔をして、指はないけれど両手両足があって立つこともできる。果物が散りばめられたような柄の赤いスカートを履いていて、えりには白いリボンもついている。女の子なのだ。
「とにかく、早く寝なさい。亜美は、今日からお姉ちゃんと一緒に寝るんでしょ」
「……うん」思い出した。急に私のなかに不安が出てきた。
「お姉ちゃん、ちゃんと眠れるか見てあげてね」
「はーい」お姉ちゃんは、私の手の中にあるうさみの右腕を挙げて返事をした。
不安。これまではお母さんとお父さんの間で眠っていた。でも、小学三年になって一週間、生活リズムが落ち着いてきたこの日から、お姉ちゃんの子供部屋……じゃなくて二人の部屋でお姉ちゃんと一緒に眠ることになったんだ。ベッドの用意もしている。もう私は子供部屋で寝ることに決まっている。本当は、一人でちゃんと眠れるのか不安だし、お母さんと一緒に眠りたいんだけれど。
そんなあたりまえが、今日から変わる。
お姉ちゃんはすごい。私の知る限りではお姉ちゃんはずっと一人、部屋で寝ている。トイレに行きたい時は自分一人でいく。私なんか、トイレで起きるに決まっているし、トイレに一人で行けなくてお母さんと一緒に行くのが当たり前だ。お姉ちゃんは小学五年生。小学五年生になれば、私もそうなれるのかな?
「じゃあ由美、よろしくね。おやすみ」
「はーい、おやすみー」「おやすみー」
二階に行って『由美と亜美の部屋』と書かれている扉を開ける。お姉ちゃんは電気をつけた。持ってきたうさみをおもちゃ箱の前に置いて、さっそくベッドに向かった。
「お姉ちゃんは先に寝るね。あ、電気消すから早くベッドに入って」
言われるがままに、私は自分の新しいベッドに入る。
ベッドの木の匂い、新しく買ってもらったばかりの布団の匂い。いつも嗅いでいるお母さんとお父さんの匂いはどこにもなく、ちょっと落ち着かない。
「消すよー」
パチッと音がして、部屋の中のものはなんにも見えなくなってしまった。
「うわ! 真っ暗! なんにも見えない」
「すぐ慣れるよ。ほら、おもちゃ箱の前にうさみがいるよ。見えるでしょ」
「うん、うさみ見えるよ」「なら安心でしょ? おやすみ」
そういうとお姉ちゃんは布団の中にもぐりこんだ。
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