花はももとせ 汝はちよに

藤雪たすく

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魂の洗浄

兄神

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収穫した芋とマラカさんを送って行ったハクは、いつもの御供物のお肉と共に何かの袋を背中に乗せていた。
落ちない様にロープで括られているので、ハクの仕事ではない。マラカさんが乗せたのだろうか?

袋を降ろして確認してみると、中にはたくさんの服が入っていた。
シャツやズボンと下着、体に合わせてみると大きさは丁度よく、僕のためにハクに持たせてくれたんだと思う。
華美な服では無いけれど、今着ている物より生地は厚手で余計な装飾が無い分動きやすそうだ。

「僕が貰っていいのかな?」
「クウ!!」
そうだと言う様にハクは大きな声で答えてくれた。

早速着替えてみると若干大きいけれど、いま着ているものに比べたらかなり動きやすい。
新しい服に心の中が温かい物で満たされていく……どうしよう、すごく嬉しい。

拠点の中心には、コクさんから預かった種から成長した樹がすでに僕の背を超えて幹の太さも僕の太さを超えている。急成長しすぎて、すぐに他の作物を押し退けたので新たに畑の場所を開梱する事にはなってしまったけれど御神木の様な風格でこの地を見守ってくれている。

御神木の前に膝をつくと、静かに目を閉じて天にいるはずの父なる神に向けて祈りを捧げた。

神様……どうかこの国にお恵みをお与えください……。

まるで願いを聞き入れてくれたかの様に、頬に冷たい物が落ちてきた。
次第にその粒は数を増やしていく。

「雨だ」

せっかくマラカさんに貰ったばかりの服を濡らしたくなくて袋を抱えて洞穴に戻ろうとすると、ハクが鼻先で袋ごと僕を飛ばすと背中に乗せて洞穴へと飛び上がった。

「ありがとうハク。でもこれからは先に一言欲しいな」

あまりに突然でびっくりして……ちょっと怖かった。

「クウゥゥ…」
僕が怒ったと思ったのか項垂れてしまったハクに「ありがとう、助かった」と首にしがみつき、その柔らかな毛の中に顔を埋めた。暖かくてフワフワな毛の感触を堪能していると一緒にキュイも飛び込んでくる。

洞穴の外は、雨が大分強くなっている。
この雨だと今日の仕事はもう終わりだな。

ハクとキュイは街の人に貰ったお肉を仲良く食べ始めたので、僕もジュジュの実を籠から取り出し齧った。
口の中に広がる甘酸っぱい味。
自然になっている木の実も種類が増えて来た気がする。少し前までは爪の大きさぐらいの木の実が取れるぐらいだったけど、今は拳ぐらいの木の実を見つけられる様になって来た。
気のせいかもしれないけど、緑が増えている気がする。

山から見下ろす街も前より瘴気が薄れてきているし、この雨が全てを洗い流してくれたら良いな。

洞穴の入り口に膝をつき、中断してしまっていた祈りを再開させた。

どうか……どうかこの地に潤いを……どうかこの国の民に笑顔を……。

小さな祈りをかき消す様な雨は一晩中降り続いていた。

ーーーーーー

一夜明け雨はすでに上がっており、御神木の葉に残る水滴が朝の光に輝いている。

「クウウウッ!!」
「キュイッ!!キュイッ!!」

2頭は嬉しそうに走り回っているけれど、せっかくの真っ白な毛皮が泥だらけになってしまっている。
あの姿を見るとちょっと躊躇ってしまうけれど、新しい服を用意してくれたマラカさんには申し訳ないけれど、汚れたら洗えば良いし……意を決して洞穴から出た瞬間にキュイに抱きつかれ……おかげでもう汚れる事も気にならなくなった。

「う~ん……雨上がりは空気が澄んでいて気持ちが良いね」
大きく伸びをして顔を洗うのに湧き水へ向かった。
ハクとキュイでは無いけれど、駆け回りたくなるのもわかる程、今日の朝は空気が美味しい。

顔を洗って洞穴の前まで戻ると2頭の姿はもう見えなかった。
朝食を獲りに行ったんだろうと、さほど気にせず朝食がわりにジュジュの実を一つ齧ると、昨日食べた分の種と併せて拠点の端、新たに果樹園と名付けた場所に埋めておいた。

今日は雨上がりで土も柔らかくなっているだろうから川の拡張でもしようと、鍬代わりに使っている大きくて平たい石を持つと移動を始めた……が、すぐに立ち止まる。

「おはようございます。マラカさん」

こんなに朝早くからマラカさんが立っていた。
汚れた部分を石でなんとなく隠すけど……隠しきれない。

「ご無事でしたか……」
少し焦った顔をしていた様だったが僕の顔を見た途端、ホッと息を吐いた。
たくさん雨が降ったから土砂崩れなんかを気にしてくれていたのだろうか?

マラカさんは片膝をついて頭を下げると僕の手を取った。
……雨上がりでぬかるんでいるから服が汚れてしまうけれど大丈夫だろうか?

「時折山に大きな神の気配を感じてはおりました。新たな神がこの地を収めるなら、その神の命に我らは従うのみとその時をただ待っておりました」

大きな神の気配?
全く感じなかった……いつか兄弟に攻め込まれるんだろうとは思っていたけれど、もう既に攻め込まれていたなんてどこまでも神失格。

「今朝もその気配を感じたので急いで参りました。今までの非礼どうぞお許しください……アヴィンディドール様、どうか貴方を守る大役を今一度、私めにお与えください」

えっと……むしろ非礼は僕の方で……マラカさんは僕を一生許さないはずだったのでは?国民が僕を許せないのは仕方がない事だとわかっているから無理してくれなくても……むしろ他の神が乗り込んできているなら、戦う力のない僕を守り傷を負うぐらいなら、僕を差し出してその神に付いて欲しい。
無駄に命を散らす様な事はやめて欲しいと思うのに、思っているのに胸が温かいを通り越して熱い。

「マラカさん、気持ちはとても嬉しいですが、僕では貴方方を守る事はできません。どうか僕の首をその新たな神に差し出し、命を繋げる道を選んでください」

なんだろう……遠い昔にもこんな事があった様な気がする。頭痛を堪えながら記憶の糸を辿っていくけれど、呼び起こすにはそれは遠すぎて、掴みかけても指の間から溢れる水の様に流れ落ちていく。
青……青い……花。

「いいえ!!昨日、貴方様の姿を拝見し『この方こそ仕えるべき主』と確信をいたしました!!どうか、どうかこのマラカの命、貴方様の為にお役立てください!!」

泥の中に頭を押し付けて土下座をするマラカさんの顔を慌てて起こした。

「こんな真似はしないでください。せっかく美しい金色なのに勿体ないです」

申し訳ないとは思うけれど、体を拭くものを持っていないので服でその顔を拭かせてもらう。

「仮にも神を追い出しておいて、随分と都合の良い話だな」

「っ!?」

突然の声にマラカさんは咄嗟に僕を庇う様に前に立ってくれたけど、僕はこの声の主に危険がない事はわかっているのでマラカさんの肩を軽く叩いてから、声のした御神木の側へ向かった。

「コクさん、お久しぶりです。また立派になったと思いませんか?」

この間見に来てくれた時よりも、いや……昨日より一回り大きくなった御神木をコクさんへ自慢げに見せた。

「ああ、流石だ。随分と力も戻って来ている様だしこれからの成長がますます楽しみだな」

功績を褒めてくれる様に頭を撫でられ、自分の価値を少しでも認められた様な気がして嬉しくなる。

「まさか……ルーンヴェイン様!!」

ルーンヴェイン様?

マラカさんは激しい音を立てながら泥の中に再び土下座をしてしまった。

僕には聞き覚えのない名前だけど、マラカさんの態度でコクさんの本当の姿を察して腕の中から抜け出すとマラカさんと同じ様に額を地に押し付けた。
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