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手を差し伸べてくれる人
3日目
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「いってきます……」
「気をつけてね」
リビングから見送りに顔を出した母さんの後ろで窓からモルテさんが手を振っていて……ため息をつきながら外へ出た俺は思わず後退りした。
「環?どうしたの?」
「いや……何でも……ない」
やっぱり母さんにも見えていない。
玄関……門を出たところの道路に…赤い扉が立っていた。
確実に近づいて来てる。
僅かに震える足で一歩進むと扉もスッと後ろへ移動した。一定距離を保っている。
俺が歩き出すと扉も動く……今は数メートル後方を静かについてきている。気付かなかっただけで……ずっとついてきていたんだろうか?
後ろを振り返り間近で見る赤い扉の不穏さに冷や汗が滲んだ。
「御園……お前顔色悪いけど大丈夫か?」
重い頭を持ち上げると心配そうに見下ろす杉浦君の顔が見えた。
その肩ごし……教室の入り口のガラスの向こう、廊下に赤い扉が立っている。
ずっと見張られている様な気がして正体の知れない恐怖が体を震わせた。
「扉が……いや……何でもない……心配してくれてありがとう」
これ以上聞かれて、扉の事を話したところできっと杉浦君には見えていない。頭のおかしな奴と思われて終わり。
「扉?……そういえば雑賀も扉がどうとか言ってたな……」
突然飛び出した懐かしい名前に逸した視線を杉浦君に戻した。
雑賀君も……扉が見えていた?
もしかしてあの扉が雑賀君の命を奪ったのか?
扉を睨んだけれど、扉はただ静かに立っているだけ。
「何か悩んでるなら聞かせろよ?俺が雑賀の為にしてやれる事はそれぐらいしか無いから……」
寂しそうな笑顔を浮かべた杉浦君に頭を撫でられた。
雑賀君……君の残してくれたものは……今でも温かい。
「大丈夫……ありがとね」
ありがとう……杉浦君。
だけど……俺もやれる事を見つけたよ。
真っ直ぐに前を向いて笑顔になれた。
ーーーーーー
帰り道、後ろを振り返りついてきていた扉と向き合った。
「……お前が雑賀君を殺したのか?」
当然扉は何も答えない。
一歩踏み出すと一歩分扉も後ろへ移動する。走って近づいても一定の距離を保って扉は逃げていく。
近づけない……。
きれた息を整えながら扉を睨む。
「何をしようとしているんですか」
後ろから突然声を掛けられ、振り返ると窓からライさんがこちらを伺っている。
家の中以外でも出て来れたのか。
「あの扉……あの扉もライさん達と関係あるものですか?」
関係無いなんて言わせない……同時期に現れた怪異、無関係なはずが無い。
「それは……その……」
「それは言えないなぁ~言っちゃったら僕の労力が無駄になっちゃうし?」
モルテさんの軽い物言いに黙って体を反転させて家への帰宅路へ進路を戻した。
「御園君……詳しくは話せないけれど……俺は君を助けたいと思ってる。それだけは信じて欲しい」
信じる……?何を?
大切な事は何も話さないこの影を?
黙々と歩き続ける俺の後ろでライさんはひたすら『信じてくれ』『一緒に来てくれ』と言い続けている。
「黙って言うこと聞いたほうが良いと思うよ~?何の為にわざわざ僕が窓を開けたと思ってんの~?君の為を思って言ってあげてんのにさあ」
「煩い……煩い……煩いっ!!もう俺に構うなっ!!あんた達の事なんか信用出来ない!!」
いきなり大声を出した俺を周りを歩いていた人達が驚いて振り返る。
その視線から走って家へと逃げ帰った。
ーーーーーー
リビングの窓から外を眺めると塀の向こうに赤い扉が見える。
あの扉が雑賀君を……俺の大切な人を奪った。頭の中を巡る強い嫌悪に拳を握りしめて唇を噛んだ。
「御園君……あれに近づいていけない……お願いだ。俺の手を取ってくれ」
「もう自由にさせればいいじゃん。しつこい男は嫌われちゃうかもよ?」
「駄目だ!!御園君!!滅多な考えを起こしちゃ駄目だよ!?」
背後から聞こえる会話にゆっくり振り返った。
「お腹……空きませんか?夕飯作るので一緒に食べません?」
「……御園君?」
「ご飯!?食べる!!食べる!!そっちの食べ物は不思議な物が多くて大好き!!」
はしゃぐモルテさんの声を引き連れてキッチンへと足を踏み入れた。
まな板の上に並べたじゃが芋と人参と玉葱……玉葱を切りながら涙が目尻に滲んだ。
『お?御園慣れた手付き。料理出来んの?』
ずっと思い出さないようにしていた雑賀君の笑顔が蘇る。
市販ルーのカレーなんて誰が作っても大概同じ味になるのに……あの日のカレーはとても美味しかった。
自然の中で皆と協力して作り上げた物、みんな笑顔だったけれど……美味しい、美味しいと大袈裟に笑う雑賀君の笑顔だけが色濃く脳裏に焼き付いている。
出来上がったカレーをお皿によそい窓辺へ差し出す。
「すげぇ!!いい匂い!!美味そう!!」
「カ……カレー……カレー?」
はしゃぐモルテと考え込むライさんの前に俺も腰をおろしてカレーを一口スプーンで持ち上げる。
「うわぁ!!初めての味!!美味しいなぁ!!おかわりある?」
「とても……美味しいですね……」
口へ運んだその味は……あの日と比べ物にならないくらい……。
最期の晩餐に相応しいぐらい不味かった。
「気をつけてね」
リビングから見送りに顔を出した母さんの後ろで窓からモルテさんが手を振っていて……ため息をつきながら外へ出た俺は思わず後退りした。
「環?どうしたの?」
「いや……何でも……ない」
やっぱり母さんにも見えていない。
玄関……門を出たところの道路に…赤い扉が立っていた。
確実に近づいて来てる。
僅かに震える足で一歩進むと扉もスッと後ろへ移動した。一定距離を保っている。
俺が歩き出すと扉も動く……今は数メートル後方を静かについてきている。気付かなかっただけで……ずっとついてきていたんだろうか?
後ろを振り返り間近で見る赤い扉の不穏さに冷や汗が滲んだ。
「御園……お前顔色悪いけど大丈夫か?」
重い頭を持ち上げると心配そうに見下ろす杉浦君の顔が見えた。
その肩ごし……教室の入り口のガラスの向こう、廊下に赤い扉が立っている。
ずっと見張られている様な気がして正体の知れない恐怖が体を震わせた。
「扉が……いや……何でもない……心配してくれてありがとう」
これ以上聞かれて、扉の事を話したところできっと杉浦君には見えていない。頭のおかしな奴と思われて終わり。
「扉?……そういえば雑賀も扉がどうとか言ってたな……」
突然飛び出した懐かしい名前に逸した視線を杉浦君に戻した。
雑賀君も……扉が見えていた?
もしかしてあの扉が雑賀君の命を奪ったのか?
扉を睨んだけれど、扉はただ静かに立っているだけ。
「何か悩んでるなら聞かせろよ?俺が雑賀の為にしてやれる事はそれぐらいしか無いから……」
寂しそうな笑顔を浮かべた杉浦君に頭を撫でられた。
雑賀君……君の残してくれたものは……今でも温かい。
「大丈夫……ありがとね」
ありがとう……杉浦君。
だけど……俺もやれる事を見つけたよ。
真っ直ぐに前を向いて笑顔になれた。
ーーーーーー
帰り道、後ろを振り返りついてきていた扉と向き合った。
「……お前が雑賀君を殺したのか?」
当然扉は何も答えない。
一歩踏み出すと一歩分扉も後ろへ移動する。走って近づいても一定の距離を保って扉は逃げていく。
近づけない……。
きれた息を整えながら扉を睨む。
「何をしようとしているんですか」
後ろから突然声を掛けられ、振り返ると窓からライさんがこちらを伺っている。
家の中以外でも出て来れたのか。
「あの扉……あの扉もライさん達と関係あるものですか?」
関係無いなんて言わせない……同時期に現れた怪異、無関係なはずが無い。
「それは……その……」
「それは言えないなぁ~言っちゃったら僕の労力が無駄になっちゃうし?」
モルテさんの軽い物言いに黙って体を反転させて家への帰宅路へ進路を戻した。
「御園君……詳しくは話せないけれど……俺は君を助けたいと思ってる。それだけは信じて欲しい」
信じる……?何を?
大切な事は何も話さないこの影を?
黙々と歩き続ける俺の後ろでライさんはひたすら『信じてくれ』『一緒に来てくれ』と言い続けている。
「黙って言うこと聞いたほうが良いと思うよ~?何の為にわざわざ僕が窓を開けたと思ってんの~?君の為を思って言ってあげてんのにさあ」
「煩い……煩い……煩いっ!!もう俺に構うなっ!!あんた達の事なんか信用出来ない!!」
いきなり大声を出した俺を周りを歩いていた人達が驚いて振り返る。
その視線から走って家へと逃げ帰った。
ーーーーーー
リビングの窓から外を眺めると塀の向こうに赤い扉が見える。
あの扉が雑賀君を……俺の大切な人を奪った。頭の中を巡る強い嫌悪に拳を握りしめて唇を噛んだ。
「御園君……あれに近づいていけない……お願いだ。俺の手を取ってくれ」
「もう自由にさせればいいじゃん。しつこい男は嫌われちゃうかもよ?」
「駄目だ!!御園君!!滅多な考えを起こしちゃ駄目だよ!?」
背後から聞こえる会話にゆっくり振り返った。
「お腹……空きませんか?夕飯作るので一緒に食べません?」
「……御園君?」
「ご飯!?食べる!!食べる!!そっちの食べ物は不思議な物が多くて大好き!!」
はしゃぐモルテさんの声を引き連れてキッチンへと足を踏み入れた。
まな板の上に並べたじゃが芋と人参と玉葱……玉葱を切りながら涙が目尻に滲んだ。
『お?御園慣れた手付き。料理出来んの?』
ずっと思い出さないようにしていた雑賀君の笑顔が蘇る。
市販ルーのカレーなんて誰が作っても大概同じ味になるのに……あの日のカレーはとても美味しかった。
自然の中で皆と協力して作り上げた物、みんな笑顔だったけれど……美味しい、美味しいと大袈裟に笑う雑賀君の笑顔だけが色濃く脳裏に焼き付いている。
出来上がったカレーをお皿によそい窓辺へ差し出す。
「すげぇ!!いい匂い!!美味そう!!」
「カ……カレー……カレー?」
はしゃぐモルテと考え込むライさんの前に俺も腰をおろしてカレーを一口スプーンで持ち上げる。
「うわぁ!!初めての味!!美味しいなぁ!!おかわりある?」
「とても……美味しいですね……」
口へ運んだその味は……あの日と比べ物にならないくらい……。
最期の晩餐に相応しいぐらい不味かった。
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