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空いた従者枠

次の街へ

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「ミャオちゃんのお宝写真集めたい!!このままファンドラの街へ行かない?」
今日はこの後どうするんだろうと、ぼんやり食後のカフェオレを飲んでいた目の前にマップが現れ『ファンドラの街』が新たに表示された。
マップはまだほとんどが開かれていないけど『ファンドラの街』は今いるエストリカからまっすぐ東にある。
距離的には大体エストリカとフードファイターの森の距離の倍ぐらい。
ゲームのルートだと次の街にあたる街なんだろう。

ゲームみたいに街の人から次の目的地を聞いているわけじゃないし、どんな場所に何があるのか全く分からないから、勝利君がここへ行こうと言うなら俺には異論はない。
早速コントローラーで『ファンドラの街』を目的地に登録すると到着予想時間が計算された。

『徒歩で1354時間』

「は!?1354!?」
暗算は苦手なので地面に木の棒で筆算を書いた。
「えっと1日24時間で……5の6の……4だから……57日もかかるの!?」
「24時間計算だとそうだけど、食事や睡眠の時間を入れるともっとだね。ルート案内機能は危険の少ない道を案内してくれるからどうしても遠回りしちゃうのは仕方ないよね」

地図に示されたおすすめルートはエストリカから大きく南に迂回して回り込むようなルートになっている。
エストリカとファンドラの間に広がるまたは開放されていない空間……危険の少ない道を案内するルート機能が避けて通る道……ここに一体何があるというんだ。
聞くのは嫌な予感しかしないので触れずに置こう……。

「ここは『スクスプリト山』っていう断崖絶壁の高い山があって、その下に広がる森はエストリカ側が『ムルトロルの森』、ファンドラ側が『殺戮の森』だよ。推奨レベルは80かな」

ピコン、ピコン、ピコンという効果音と共に連続で地図に名前が浮き上がり、暗くなっていた箇所が開放されてしまった。
いらない情報だよ……『殺戮の森』って何?名前からして絶対やばいじゃん。
「この山を越えれば普通の奴でも10日も掛からず辿り着けると思うよ」
嫌な予感は的中するもので……。
「俺なら5日もいらないかな」
勝利君はその断崖絶壁という山と物騒な名前の森を抜けていく気だ。
普通の奴って何を基準に普通だと言ってんの!?
普通の奴は通んない道なんだろ!?

「……俺なら一生掛けても辿り着けない気がします」
普通の登山もしたこと無いのに断崖絶壁なんて無理!!無理!!
奇跡的に山を越えても殺戮なんて冠にしてる森には近づきたくも無い。

「ミャオちゃんは俺が抱っこして行くから大丈夫!!」
ドン!!と胸を張って宣言してくれるけど勝利君に運んで貰うのだって決して楽な旅で無いのは知っているんだ!!

「嫌だよ!!次の街がそんな過酷なルートってどんなクソゲーだよ!!」

普通、順を追って敵が強くなってきて、それにあわせてレベルアップしていくもんだろう!!
次の街へ行くのに推奨レベル80って始まりの街から出るなって言ってるようなもんじゃないか!!
「え?だってファンドラの街はルート的には最後の街だもん。だから正規のルートをすっ飛ばして山越えするんじゃん」
「正規のルートをすっ飛ばす理由がわかりません。せめてこの街の周りで俺のレベルが追いついてからにしてよ……」

強くてニューゲームじゃないんだから順番に進んで行こう……勝利君はチート能力だから強くてニューゲームみたいなもんか……。

「……非公開にしても既に出発してたのがこれからもっと集まるだろうしな……」
何が集まるんだろう?
勝利君は口元に手を当てて数秒考え込み……。

「うん。却下だね!!大丈夫、俺が全力で守るから!!レベルが高い敵と戦った方がすぐにレベル上げられるのは常識だからね、魔王を倒す近道だと思って諦めて?」

ーーーーーー

「魔王を倒す近道だと思って諦めて?……じゃないよ!!」
モフルキャットと雪ウサギダイフクンの間に頭を沈めた。
にこやかな笑顔に怒りを覚えたのは許して欲しい。

ベッドの上で留守番をしながら姿の見えない相手に文句を言った。
勝利君は街に旅の買い出しに出掛けている。
危ないから待っててねと、スライムだけ連れて出掛けていった。
つまり俺はお荷物だと……。
「俺だって勝利君に頼られたい……」
勝利君の作ったというミャオちゃんはきっと料理も完璧だったはず……ゲームのキャラに嫉妬する訳じゃ無いけど、やっぱり人として、男として好きな人に頼られたら嬉しいもんだ。

暫く従魔達の体に顔を埋めていたが、はっとして起き上がり、服のフードやポケット、枕の下を確認した。
何も無い。
何故スライムを連れて行ったのか?
もしかしたらまた盗聴されてるのかもと思ったけど思い過ごしだった。
また勝利君の事を疑っちゃった。
そもそも疑われるような事をする勝利君が悪いんだけど……。

「ただいま~どうしたの?」
勝利君が戻ってきて枕を慌てて元に戻した。
「おかえり、早かったね……」
「飲み物とちょっとした物を買いに行っただけだからね」

勝利君はそう言って鞄から、皮で出来たベルトとごつい金属の部品を取り出した。
「何に使うの?」
ベルトはまあ腰に巻くんだろうけど、この部品は……この形はフック?

「ミャオちゃんが俺の抱っこで移動するの怖いって言うから、安全装置の代わりになりそうな物探してきたんだ。このベルトをミャオちゃんに着けて……このフックで俺のベルトと繋げて……」
勝利君と向き合ってベルトで連結され、腰の位置の違いに悲しくなった。

「ミャオちゃん、コアラみたいに俺にギュッとしててね!!」
体を持ち上げられて、言われた通りに手と足で勝利君にしがみついた。
「ほらぁ!!俺と繋がってる安心感!!」
確かにベルトで繋がっている分、前よりは安心感はあるけど……。
「もし落とされて、腰のベルト一本に全体重と衝撃がかかると思うと俺の腰は死ぬね」

「え……全身で固定して欲しかったの!?ま……まさかの緊縛プレイ……ミャオちゃんそっちが好みなんて知らなかった!!今度はちゃんとそれ用を買ってくるね!!」
「……お尻に固い物が当たるんですけど……」
体を逃がそうとしても固定されていて逃げ場がない。
「大丈夫!!ミャオちゃんの固いのも俺のお腹に当たってるのわかるよ!!」
親指を立てられ、一本拳を人中に叩きつけた。

「大丈夫?ミャオちゃん」
けろりとした勝利君とは逆に俺は指の骨が折れたかと思った。
鋼鉄かよ……攻撃された側から心配されるなんて情けない。

「さて、冗談はさておき……そろそろ行こうか」
「冗談が分かりづらいよ」

勝利君に腰と背中を支えられて、俺が勝利君の首にしがみつく手に力を込めた瞬間、ぎゅんっと周りの景色が通り過ぎていった。
いきなり飛ばしすぎじゃなかろうか。
やっぱり怖くて目を閉じて勝利君の肩に顔を押し当てた。

「早く街へ着きたいからなるべく魔物は避けて通るようにするけど、戦闘になった時はよろしくね」
「うぅ……うん」
話しかけられても上手く答える余裕などはない。

「頼りにしてるよ……俺のコントローラー さん」
勝利君の顔を目を開けて確認すると、ニヤッと笑われた。
や……やっぱり盗聴してたなっ!!
「勝利君サイテーだ!!」
「ほらほら、あんまり暴れると落ちちゃうし、喋ってると舌噛むよ?」

そう言われて、つい下を見てしまった。
ちょうど崖を飛び降りようとした所で……体の芯がすうっと冷えた。
「ひっ!!」
絶対タイミングを見計らって言っただろ!!

「もぉぉぉ勝利君!!君は!!本当に!!サイテーだぁぁ!!」

俺の嘆きは猛スピードで通り過ぎていく風に流された。
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