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逃亡
しおりを挟む何が起きているのか解らないと言いたげな薄氷色の瞳が揺れる。
その瞳には「傷の手当てをしたい」と言っていた時の澄んだ色はなく、樟んだ空のような光を帯びていた。
「お前は勝手に俺を助けた…」
ならば、俺も勝手にする。
鼻先まで覆うマスクを下げて歩み寄れば脅える少女が後退り、壁まで追い詰めて顎を指で引き上げ目線を合わせる。
目を閉じて恐怖心と戦っているのか、細い身体は震えている。
戦争中に何十何百と数え切れないほどに殺し、屍の山を作り上げてきたが、今見ている恐怖に震える姿ほど嫌な物は無い。
「借りたままは気にくわない……」
「え…?」
言葉の意味が解らなかったのか不思議そうに見つめられ、恐怖から涙の溜まる目元をそっと撫でた。
「…ぁ………」
「殺して欲しいならそうするが、死ぬことを望んでいるようには見えない」
何を求めている、と低く問い、絹糸のように柔らかい髪を撫でてやると、堰を切った様に大粒の涙が溢れ出した。
「たすけ…て………此処から、出して…!」
革の手袋を伝う涙と震える声が自分に助けを求め、それと同時に周囲が騒がしくなる。
辺りを見回せば壁を切り捨てた音を聞き付けた兵達が背後を囲み始めていた。
「…大人しくしていろ」
片腕で細い身体を抱きよせれば、思った以上に軽い体が身長とは見合わない体重まで落ちていることを物語る。
少女を支え、マスクを鼻先まで引き上げて剣を振るうと同時に空気を切り裂く音が耳に届く。
次の瞬間には壁が崩れ、白ばかりだった部屋に影が生まれていた。
「レン様を離せ、愚か者」
「俺が愚か者ならば、必要な時ばかり使うお前達は愚劣者だな」
冷たく言い捨て片腕で担いでいる少女を抱き直すと、剣先を首に突きつける振りをする。
「引け。この籠の鳥が居なくなるのは酷く困るのだろう?」
「貴様、何が目的だ!レン様を如何するつもりだ?!」
問いかけに答えず、ガウルは外からの陽光によって浮かび上がった足下の影へ、自身の影を絡ませ身体を闇に埋め始めた。
「影術遣いだと?!捕らえろ!」
兵士の言葉を鼻で笑い、少女の身体をローブに包みそのまま影の世界へと飛び込み、紛争で起きた時空の歪みに身体を預ける。
奇妙な浮遊感が数秒続いたのち、地に足を付けると人間界へと降りたっていた。
抱いていた少女をそっと下ろしローブを外してやりながら、追手が来て居ない事を確認して街がある方角へ顔を向けた。
「この先に行け。人間のふりをして暮らしていけば、暫くは大丈夫だろう…」
「貴方は…どうするんですか…?」
躊躇いがちに聞かれ、ガウルは空に出来ている歪みを見上げる。
「…只では済まないだろうな」
命令に背き、在ろうことか天使を連れて下界に降りた以上、拷問だけで済む訳がないだろうと内心苦笑した。
「…あの……」
少女の声に振り向き見れば、何を求めているのか手を差し出されていた。
「…なんだ?」
「…一緒にいきませんか?」
数ヶ月前と変わらない不可解な行動にガウルは呆気に取られたが、暫くして声を上げて笑った。
「な、なんで笑うんですか?!」
ひとしきり笑い、顔を赤らめる女の頭を撫でる。
先程まで小動物のように脅えていたというのに、今は加減知らずに遊ばれた猫のように怒っている。
むっとした表情ではいるが大人しく撫でられている辺り、本気で怒っていた訳でもないのだろう。
「…レン、と言ったか?お前、俺が何なのか解っていて言ってるのか?」
「解ってます…」
でも、助けてくれた人が酷い目に合うのは嫌だから、と初めて会った時と同じ真っ直ぐな瞳が自分を見つめている。
(変な女だ……)
だが、目の前にいる女に興味を持った自分も変なのだろう。
「お前と居る方が面白そうだ…」
「失礼な!」
くるくる変わる表情は見ていて飽きない。
歩速を合わせ、ガウルはレンと共に街へと向かい始めた。
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