魔法使いが死んだ夜

ねこしゃけ日和

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 部屋の外に出ると私はまたシャロンに尋ねた。

「……あの人は犯人なんでしょうか?」

「さあ。今はまだ分からないわね。でも部屋で使っていた魔法は日常レベルを出ないわ。ただそれなりに使えることは確かよ。ユリルは実力がない子は取らない性格だから。弟子の方は案外甘ちゃんみたいだけど。実力的に見ると六人の中では上位でしょうね」

「なら新たな魔法を開発した可能性も」

「あると言えばあるし、ないと言えばないわ」

「と言うと?」

「ここにいる中では実力があるけど、魔法使い全体で見れば精々中の上。魔法痕を残さずに殺人が犯せるほどではないというのがわたしの見立てね」

 それを聞いてローレンスが顔をしかめた。

「ここにお呼びしたのは魔法使いの中でも名が通った者達です。それを中の上というのはさすがに過小評価ではないですか?」

 シャロンは呆れながら笑った。

「分かってないわね。国に呼ばれてホイホイ来る時点で一流とは言えないのよ。魔法使いは知の探求者。カネや名誉は二の次。大衆に支持されているものは派手で利益をもたらすけれど、だからと言ってその業界で能力があるわけじゃない。それはどこの世界でもそうでしょう? それと一緒よ」

 ローレンスは食い下がる。

「……かもしれません。しかしこの日のために役人達が厳選した六人なんです。魔法使いの中では一流でなくても国にとっては重要な人達です」

「どうかしらね。国にとって必要なのは技術や知識であって個人じゃない。ある程度利用したら捨てるつもりかもしれないわ。それはいざとなれば駒として消費されるあなた達が一番よく分かっているでしょう?」

 たしかに国にはそういう一面もある。戦争になれば軍人は死んでも仕方がないような作戦に投入される。個人はただの数字になり、集団の中では歯車としての役割を求められた。

 使い捨ての駒になる。それが国に仕えるということであり、組織に加わるということだ。

 しかし裏を返せば我々はそうしないと生きていけない弱者だとも言える。

 本当の強者は組織に入らずとも一人で生きていけるだろう。

 国に取り込まれようとしている時点で二流。シャロンはそう言いたいのだ。私としては認めたくないが、一人でなにもかもこなせるほど自分は強くないし優秀でもない。

 小さく息を吐く私と違い、ローレンスは微笑んでいた。

「国の為になるならそれもまた必要なことでしょう。我々はそれを無駄とは思いません」

 シャロンは肩をすくめた。

「案外頑固なのね。そんな性格も嫌いじゃないわ。軍人には必要な資質でしょうね。でもそんなあなただからこそこの事件は解けない。今必要なのは信じることでなく、全てを疑うことなのだから」

 たしかに信じるだけでこの事件が解けるとは思えない。

 それだけ言うとシャロンは次の部屋へと歩き出した。
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