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王都編18
しおりを挟むダンスが始まったのか微かに会場から音楽が聞こえてくる。レストはそれに耳を傾けながら、ぼんやりと庭を眺めていた。
「…お久しぶりですね、レストさん」
「レイズ様!お久しぶりです!」
後ろから声をかけられて振り向けば、村で会ったときと変わらない笑みを浮かべるレイズがそこにいた。
どうやら上手く令嬢達から逃げてきたらしい。
「また会えて良かったです。話したいこともありましたし」
「話したいこと、ですか?」
「えぇ。…レストさん、私が国へ帰るときに貴方に好きだと告げた事を覚えていますか?」
レイズの問いに勿論覚えていたレストはすぐにコクリと頷く。
「あの時の返事を聞かせてもらいたいのです」
「………」
レイズは自分には求婚する資格はない、と言ってレストの返事を聞くことなく去っていった。今さらなぜそんな事を聞くのだろうと、困惑しながらレイズを見る。
レイズはじっとレストの言葉を待っていた。
「……ごめんなさい。私はレイズ様の気持ちを受け取れません」
ふと脳裏にルナシークの事が浮かんだレストは、思わず断りの返事をしていた。無意識に自分の口から滑り出た言葉に、はっとしてレイズを見れば優しげな表情を浮かべてレストを見ている。
「ありがとうございます。これですっきりしました」
「すっきり?」
「えぇ。レストさんに会いたかったのは私の気持ちの整理をつけるためです。…これで、婚約を受け入れる事が出来ます」
「え?」
レストは突然出てきた婚約という言葉に驚いて、深緑の瞳を見開いた。
「相手は国の立て直しに尽力してくれた新しい宰相の娘です。…私が貴方に気持ちを残したまま婚約するのは彼女に失礼だと思い、婚約を引き延ばしにしていました」
「え、でも…私が断らなかったらどうしてたんですか…!」
「…レストさんは断ると分かっていましたから」
断定した物言いにレストは首を傾げる。レストは説明を求めるように、レイズを見つめて言葉を待つ。
「もしレストさんが私と同じ気持ちだったのなら…おそらくあのまま村で待っていてくれたでしょう?」
「…それは…そうかもしれません。それに…レイズ様と私は結婚出来ない立場ですから、どっちにしろ身を引いていたと思います」
隣国は身分を重んじる国だ。この国のように好きな相手を身分関係なく妻に出来る訳ではない。そんな国のましてや国王と隣国の村娘では誰も結婚を認めなかっただろう。
「…そうですね、私が国を捨てなければ結ばれる事は難しかったでしょう。…私の気持ちの整理に付き合わせてしまってすみません」
「いえ。お気持ちは嬉しかったです。…レイズ様、婚約する方と幸せになってくださいね」
レイズはレストの言葉にふわりと優しい笑みを浮かべて、しっかりと頷いた。
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