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一晩経って2
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「おはよう。いや、もうこんにちは、だろうな。こんにちは」
「こ、こんちは……」
真っ直ぐ慶の元にやってきた兵藤は、まず最初にそう言った。すでに時刻は正午を回っているということに気付き、わざわざ挨拶し直すところがやはり真面目である。
「昨日のことを謝ろうと探していた。会えて良かった。昨夜はすまない」
「いや……べ、別に?」
慶の声が思わず上擦った。昨夜の一体何を、謝ろうとしているのだろうか。泥酔からの介抱か、それとももっと先の話だろうか。そもそもあれは慶のイタズラが発端なのだが、それを怒っている素振りはない。一体兵藤はどの程度の記憶を有しているのだろう。
「酒にのまれてしまうなど、恥ずかしいところを見せてしまった。自分が情けない。お前が介抱してくれたのだろう?」
「あー……うん。一応」
「目覚めたら知らない場所にいたので焦ったが、助かった。俺を運ぶのは大変だっただろう」
兵藤の様子に変わりはない。昨日、酔っ払うまでの兵藤と同じだ。
もしセックスをした記憶があったなら、こんな風に平然と話しかけてくることはないだろう。
やはり兵藤はなにも覚えていなかったのだ。慶はほっと胸を撫で下ろす。これならなかったことにできる。忘れられると思った。
「大変だったよ、お前重いし。ホテルに置き去りにするのは悪いと思ったんだけど、お前もぐっすり寝てたし大丈夫だろうと思ってさ」
昨日のセックス前と同じ態度で兵藤と接する。これで良い。兵藤にとっても自分にとってもこれが一番良い形だ。
「苦労をかけてすまなかった。……それに置き去りにされるのは当然だ。俺は嫌がるお前にあんなことをしたのだから」
「……ん?」
慶の表情がぴしりと固まる。兵藤は、今、なんといった?
「ひ、兵藤。どうしたんだよ、一体なんの話……」
動揺を隠せず、声が震える。口元が引き攣るのを慶は感じていた。まさか、まさかとその言葉だけが頭の中にこだまする。
「お前のその様子。やはりあれは夢ではないのだな」
「い、いや。俺、お前の言っていること分からないなー……」
心臓が激しく音をたてる。動揺してはいけないと思えば思うほど、声が震え、目が泳いだ。これではとぼけているのが丸分かりだ。
「お前が昨夜のことを思い出したくない気持ちは分かる。それくらい、俺は男として酷いことをしたんだ。酔っていたとはいえ、自分よりも非力な人間にあんなことを強要するなど、許されるはずもない。本当にすまないと思っている」
そう言うと兵藤は両膝を折り、地面に額をつけた。突然の事に、慶はこれがジャパニーズドゲザかぁと映画のワンシーンでも見ているような気持になったが、周囲のざわつきと痛いくらいの視線に我に返ると、引きずるように兵藤を立ち上がらせ、人目のつかないところまで連れていく。流石に人目の激しい正門前でする会話ではない。
大学の敷地内にある木々の繁みに身を紛れるようにして、慶は話を再開させた。
「こ、こんちは……」
真っ直ぐ慶の元にやってきた兵藤は、まず最初にそう言った。すでに時刻は正午を回っているということに気付き、わざわざ挨拶し直すところがやはり真面目である。
「昨日のことを謝ろうと探していた。会えて良かった。昨夜はすまない」
「いや……べ、別に?」
慶の声が思わず上擦った。昨夜の一体何を、謝ろうとしているのだろうか。泥酔からの介抱か、それとももっと先の話だろうか。そもそもあれは慶のイタズラが発端なのだが、それを怒っている素振りはない。一体兵藤はどの程度の記憶を有しているのだろう。
「酒にのまれてしまうなど、恥ずかしいところを見せてしまった。自分が情けない。お前が介抱してくれたのだろう?」
「あー……うん。一応」
「目覚めたら知らない場所にいたので焦ったが、助かった。俺を運ぶのは大変だっただろう」
兵藤の様子に変わりはない。昨日、酔っ払うまでの兵藤と同じだ。
もしセックスをした記憶があったなら、こんな風に平然と話しかけてくることはないだろう。
やはり兵藤はなにも覚えていなかったのだ。慶はほっと胸を撫で下ろす。これならなかったことにできる。忘れられると思った。
「大変だったよ、お前重いし。ホテルに置き去りにするのは悪いと思ったんだけど、お前もぐっすり寝てたし大丈夫だろうと思ってさ」
昨日のセックス前と同じ態度で兵藤と接する。これで良い。兵藤にとっても自分にとってもこれが一番良い形だ。
「苦労をかけてすまなかった。……それに置き去りにされるのは当然だ。俺は嫌がるお前にあんなことをしたのだから」
「……ん?」
慶の表情がぴしりと固まる。兵藤は、今、なんといった?
「ひ、兵藤。どうしたんだよ、一体なんの話……」
動揺を隠せず、声が震える。口元が引き攣るのを慶は感じていた。まさか、まさかとその言葉だけが頭の中にこだまする。
「お前のその様子。やはりあれは夢ではないのだな」
「い、いや。俺、お前の言っていること分からないなー……」
心臓が激しく音をたてる。動揺してはいけないと思えば思うほど、声が震え、目が泳いだ。これではとぼけているのが丸分かりだ。
「お前が昨夜のことを思い出したくない気持ちは分かる。それくらい、俺は男として酷いことをしたんだ。酔っていたとはいえ、自分よりも非力な人間にあんなことを強要するなど、許されるはずもない。本当にすまないと思っている」
そう言うと兵藤は両膝を折り、地面に額をつけた。突然の事に、慶はこれがジャパニーズドゲザかぁと映画のワンシーンでも見ているような気持になったが、周囲のざわつきと痛いくらいの視線に我に返ると、引きずるように兵藤を立ち上がらせ、人目のつかないところまで連れていく。流石に人目の激しい正門前でする会話ではない。
大学の敷地内にある木々の繁みに身を紛れるようにして、慶は話を再開させた。
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