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第3章 おてんば姫の冒険録

35 みんな!オラに元気を分けてくれっ!

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 ♢♢♢

「今後のことに付いては、またゆっくり話し合おう。まず最初にすることは、エスドラド国民の支持を得ることだ」

 アデルの言葉にジムも大きく頷く。

「ああ。国民の支持が得られなきゃ、ただの暴徒だからな」

「それは、僕の魔道具が役に立つと思うよ」

 ミハエルがことりとテーブルの上に小さな魔道具を置く。

「これは?」

「これは、遠くにいる人にも声を届けることができる魔道具。この国全体をカバーできるよ」

「そうか。ジム、この道具に向かって国民全体に話しかけてくれるか?」

「お、おう。本当にこれに話し掛ければいいのか?」

「ミハエルの魔道具は優秀だから安心して下さい」

 ティアラの太鼓判にジムも覚悟を決めた。

「じゃあいくよ。はい、どうぞ?」

 ミハエルの掛け声で、ジムはぽりぽりと頬をかきながらぽつぽつと話し出した。

「あー、何て言えばいいのか。まず、自己紹介するとしよう。俺の名前はジム・リー。エスドラドの首都で冒険者ギルドのギルドマスターを勤めている……」

 それは、ジムの飾らない人柄が伺い知れる演説だった。民衆の不安を煽るでもなく、興奮を引き出すでもなく。今この国が直面している現実と自分達がなし得たいと思っていることを切々と訴えた。

 普段はなんでも笑い話にしてしまう冒険者たちですら、神妙な顔で聞いていたほどだ。

「と言うわけで、俺たちはもう一度この国を俺たちの手で作りなおそうと思っている。どうか、力を貸してくれないだろうか。俺たちの力で、獣人と人間がお互いを尊重し合って生きていける、そんな国にしてぇと思わねぇか?力を貸してもいいって奴は、声をあげてくれ。そして、アリステアの貴族どもをこの国から追い出そうぜ。俺の話はそれだけだ」

 ジムは話を終えると、魔道具をミハエルに返した。

「いいのか?俺たちのことを話さなくて」

 アデルの問いにジムは静かに首を振る。

「他国との同盟に頼って判断するんじゃ、今までと変わらねえ。飼い主が変わるだけだ」

 ジムの信念が伝わり、アデルもそれ以上は何も言わなかった。

「甘っちろいことを言ってるのは百も承知だが、可能な限り民衆に被害が出ないようにしたい。知恵を貸してくれるか?」

「ああ。それはこちらも望むところだ。できるだけ速やかにアリステア王国の戦力を削ぎたい。今の演説で、敵のほうからこちらに出向いてくるだろう」

「なるほどな。すでに迎え撃つ準備はできてるしな」

 ジムは不敵に笑う。

「おう、野郎共!準備はいいな?アリステア兵をたたんじまうぞ!」

「「「おう!!!」」」

 ♢♢♢

「下民共が小賢しい……」

 ジムの演説を聞いていたルート侯爵は、ワインを飲んでいたグラスをそのまま床に叩きつけた。ワインが零れ、上等な絨毯にシミを作る。

「おい、軍に通達を出せ。馬鹿な夢など見ないよう、徹底的に叩き潰してこい」

「はっ!」

 アリステア王国からエスドラドの完全統治を命じられ、すでに侯爵家が誇る私兵団もこの土地に拠点を移していた。しかも、流通経路を押さえ、ポーションは全て手の内にある。

 英雄気取りで満身創痍の冒険者どもなど小賢しいだけだ。

「冒険王ジムか……まだアリステアに歯向かう元気があったとはな。あの老いぼれめ。大層な夢物語も、数刻もたたずに屍に変えてやるわ」

 アリステア貴族の傲慢な目がギラリと光った。
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