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2.サディストかと思っていたらただの獣だった件

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 ◇◇◇

「閣下!ご結婚おめでとうございます!」

「アイラ様!ようこそ!グッテンバーク公爵家へ!」

 ずらりと並んだ使用人たちに出迎えられ、あれよあれよという間に風呂に入れられ磨き上げられる。

 待って。展開が早すぎてついて行けない。

「か、かかかか閣下!?こ、これは一体!?」

「我が公爵家の使用人達は優秀だろう?僕が花嫁を連れて帰ると、屋敷に連絡してくれたみたいだね」

「は、はぁ」

「うう、ようやく閣下にも春が!」

 そう言えばそんな事言いながらダッシュで走っていく人がいたなぁと、頭の片隅でぼんやり思う。

「じゃ、いただきます」

 ぽすんとベッドに押し倒されて。

「へ?んんんんんん~~~~~!?」

 いきなりのキスに目が回る。

「ま、ま、ま、」

「はぁ。甘い」

 ぺろりと舌舐めずりする閣下のなんと色っぽいことか。


 いやいやいやいや!!!


「ま、ま、待って!」


「嫌だ。待たない」

 もう一度麗しい尊顔が近づいてきて、私は思わず、本当に思わずバチンとその顔を両手で挟んだ。

「ヒドイ。暴力反対」

 上目遣いで見つめられ思わず怯むが、このまま流されてたまるもんか。


「ちょっとは私の話をきいてください!!!」

 肩でハァハァ息を切らしながら叫ぶと、ちょっと口をへの字に曲げながら、離れてくれた。

「ここまできてお預けなんて酷くない?」

 酷いのはそっちである。

「結婚前になんてことするんですか!」

 うら若い乙女の貞操をなんだと思っているのか!

「いや、結婚するでしょ?」

「まだしてません!」

「しかたないな」

 閣下が軽くベルを鳴らすと、先ほどダッシュで公爵家に報告に走った侍従さんが、うやうやしく手に持った書類を差し出してきた。閣下はそれを受け取るとサラサラっと署名をし、はいっと私に渡してくる。

「こ、これは……」

 紛うことなき由緒ある大神殿発行の結婚証明書を前にくらっとする。

「いつでも結婚できるように用意してたんだ。さ、アイラもここにサインして」

「どんだけ結婚したかったんですかっ!」

「あれ?熱烈なプロポーズをしてきたのは君なのに」

 にっこりと微笑まれて言葉に詰まる。だが、このままではまずい。せめて側室のことは言っておかないと。

「閣下に結婚を申し込んだのはやむにやまれぬ理由があったからなんです!」

 私の言葉に閣下は顎をちょっと上げて続きを促す。

「じ、実はその、父から陛下の側室になれって話がきて」

 とるに足り無い側室候補とはいえ、このまま結婚してしまうのは、さすがにまずいのではないかと思う。

「そ、それで、婚約者ができてしまえば、陛下も諦めてくださるかと」

 恐る恐る閣下の顔を見ると、にっこり微笑んだままナイフを手にしていた。

「ひっ」

「あのクソジジイ。僕の想い人に手を出すとはいい度胸だ。今日が命日ってことでいいかな?」

「閣下、さすがにそれは混乱が生じるかと」

 侍従が静かに首を振ると、

「チッ。ハゲろ」

 明らかな舌打ちのあと、開け放った窓から思いっきりナイフをぶん投げた。ナイフは魔力を纏い、一直線に王宮のほうへ飛んでいく。怖い。あれ、どのへんに刺さったんだろう。陛下の残り少ない毛髪はご無事でありますように。

「これでよし。君の父上にも結婚の許可が必要かな?」

「け、け、け、結婚の許可とは?」

 まさかうちの父(毛髪)までターゲットに!?

「邪魔したら殺すってメッセージが簡潔に伝わると思うけど」

 二本目のナイフを手に取ると、手の中でクルクルっと回してみせる。公爵家の家紋入りのナイフをそんなことに使わないで欲しい。

「ふ、普通の方法で!父には普通の方法で伝達をお願いします!」

 いきなりナイフが飛んできたらそれだけでハゲるかもしれない。しかし、

「ご安心下さい。すでに伯爵家には伝達を出しており、了承の返事を頂いております」

 私にすっと差し出された手紙には、震える字でイエスとだけ書かれてあった。一体どんな目にあったのだろう。

「じゃあ、もうなんの問題もないね。サインを」

 あらためて結婚証明書にサインを迫られる。

「ほ、本当に、陛下は大丈夫なんですか」

「問題ないよ。心配なら今すぐ血祭りにあげてこようか?」

「だ、だ、だ、大丈夫です!」

 心配なのはこの国の陛下のお立場です!

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