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壱/倒錯とも言える純愛的関係性
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◇
「五月のゴールデンウイークなんだけどさ」
仕事帰り、家にいた皐と学校の支度をしながら、思い出しながら会話をする。ん? と耳を傾ける皐に、俺は適切な言葉を選ぶ。
「なんか、休みになったっぽい」
「え、珍しいね」
俺の言葉に皐が意外そうな声をあげる。
「ただでさえ土曜日でも祝日でも仕事してるのに、ゴールデンウイーク休みなんて珍しくない?」
「なんか、今度の現場に関しては祝日に工事禁止らしくてさ。騒音問題がどうたらで休みになる、とか恭平さんが言ってた気がする」
なるほどね、と皐は返す。
皐の荷物の支度は終わっているようだ。今日の時間割について確認を行い、その教科に合わせて教科書を適切に選別している。
どうも、こういった作業は苦手だ。中学の時にも、大半の荷物をロッカーに押しこんで、終業式に大量の荷物を抱えて帰ることになってたっけ。
そんなことを考えていたら、隅の方で支度を終わらせた皐が隣に来て、貸して、と一言声をかけて、俺が準備をしていた荷物などを素早く入れ込む。
慣れているな、と思う反面、こんなところまで甘えている自分の情けなさを少しだけ反芻する。まあ、そんな俺だからこそ、皐に対しては安心感を抱けるのだけれど。
「それじゃあ、ゴールデンウイークは出かけられるってことでいいのかな?」
「そう、だな。……あっ、でも確約はできないかもしれない」
「えー? さっきと言っていること違うじゃん」
俺は恭平の言葉を思い出しながら、声を出す。
「今の現場がそうなだけで、もしかしたら他のところに応援として呼ばれる可能性もあるらしいから」
「……んー、それを言われたら、なんか仕方ない気持ちになる」
皐は一瞬うなだれた。彼女がそんな仕草をするときは、なにか考えていたことがあるときだ。
「どこか行きたいところでも?」
「遊園地!!」
「子供か」
俺が笑いながら返すと、彼女は脇腹を小突いた。少し痛い。
「だって、同棲生活に関しては長いけど、まるでデートらしいデートって行ったことないじゃん。 だから、デートしてみたいんだ」
「それで遊園地か」
「そうなのです。デートと言ったら遊園地なのです」
「遊園地で会話が持たないカップルはいずれ破局するとかなんとか……」
俺が悪戯っぽくそう言うと「そもそも会話をする内容なんてなくても、一緒にいて安心するからいいの」と皐は返してくる。
確かに、それはそうだ。
「まあ、わかった。ゴールデンウイーク当日になって休みだったら、遊園地とか行ってみようか。もしゴールデンウイークが仕事だったら、日曜日にでも──」
「いや、それは翔也の身体がお疲れで可哀相になってしまうからダメ。ゴールデンウイーク特有のお楽しみということにしよ」
明るく彼女はそう答える。
──そんな時に過る、今日の昼間の恭平の言葉。
『お前はあの子に生かされてるんだよ』
ああ、これは確かに生かされている。もともと自らでわかってはいたけれど、確かな実感として安心感を改めて認識する。
「それなら、そうしよう」
俺は彼女の言葉に明るく返して、そうして皐に整理してもらった鞄を立ち上がって肩に提げた。
もうそろそろ、学校に行かなければいけない時間だ。
◇
学校に行く道中で、昨日と同じようにコンビニで軽食を買うことにした。これからはこれが日常になる感覚がする。
いつも通りと言わんばかりに、俺たちは飲み物を選択し、食事を選ぶ。
飲み物を選び終わると、彼女は真っ先にサンドイッチのコーナーに行き、俺は握り飯のコーナーへと足を動かした。
そんなとき、「あっ」と俺は声を出した。
見覚えのある顔がいる。見覚えというかなんというか、昨日俺が話しかけた女子が握り飯のコーナーの前で立ちすくんでいる。
確か、伊万里っていう名前の女子だ。
俺が無意識に吐き出した声に彼女は気づいていない様子で、ひたすらにツナマヨのおにぎりを穴が空くほどに見つめている。食べたいなら食べればいいのに、彼女はその仕草を続けている。
「とらないのか?」と俺は伊万里に声をかけた。声をかけた瞬間、伊万里の背はバネのように弾けて、そうしてめちゃくちゃでかい声で「失礼しましたぁぁぁ!」と叫びながら、特に何も買わず、勢いのままコンビニから出ていった。
……どうしたんだ、ありゃ。
「なに今の叫び声」
サンドイッチを選び終わったらしい皐が、俺のところまできて、そんな言葉をかけてくる。
「知らん、伊万里さんがずっとおにぎり睨んでいたから、とらないのか、って声をかけたら、でかい声を出して逃げた」
「あー、なるほど? 伊万里ちゃんいたんだ」
俺はその言葉に頷いた。結局逃げられてしまったけれど。
どこか納得がいくような表情を皐はした。俺は全体的に納得がいかないのだけれど、ここで立ち往生していても仕方がない。
俺は伊万里が睨みつけていたツナマヨと、俺が食べたい筋子のしょうゆ漬けを選ぶと皐と一緒にレジに並ぶ。
もし、真剣に吟味をしていた、というのなら邪魔をしてしまった俺が悪いかもしれない。このツナマヨはひとつのお詫びとして買っておこう。
「五月のゴールデンウイークなんだけどさ」
仕事帰り、家にいた皐と学校の支度をしながら、思い出しながら会話をする。ん? と耳を傾ける皐に、俺は適切な言葉を選ぶ。
「なんか、休みになったっぽい」
「え、珍しいね」
俺の言葉に皐が意外そうな声をあげる。
「ただでさえ土曜日でも祝日でも仕事してるのに、ゴールデンウイーク休みなんて珍しくない?」
「なんか、今度の現場に関しては祝日に工事禁止らしくてさ。騒音問題がどうたらで休みになる、とか恭平さんが言ってた気がする」
なるほどね、と皐は返す。
皐の荷物の支度は終わっているようだ。今日の時間割について確認を行い、その教科に合わせて教科書を適切に選別している。
どうも、こういった作業は苦手だ。中学の時にも、大半の荷物をロッカーに押しこんで、終業式に大量の荷物を抱えて帰ることになってたっけ。
そんなことを考えていたら、隅の方で支度を終わらせた皐が隣に来て、貸して、と一言声をかけて、俺が準備をしていた荷物などを素早く入れ込む。
慣れているな、と思う反面、こんなところまで甘えている自分の情けなさを少しだけ反芻する。まあ、そんな俺だからこそ、皐に対しては安心感を抱けるのだけれど。
「それじゃあ、ゴールデンウイークは出かけられるってことでいいのかな?」
「そう、だな。……あっ、でも確約はできないかもしれない」
「えー? さっきと言っていること違うじゃん」
俺は恭平の言葉を思い出しながら、声を出す。
「今の現場がそうなだけで、もしかしたら他のところに応援として呼ばれる可能性もあるらしいから」
「……んー、それを言われたら、なんか仕方ない気持ちになる」
皐は一瞬うなだれた。彼女がそんな仕草をするときは、なにか考えていたことがあるときだ。
「どこか行きたいところでも?」
「遊園地!!」
「子供か」
俺が笑いながら返すと、彼女は脇腹を小突いた。少し痛い。
「だって、同棲生活に関しては長いけど、まるでデートらしいデートって行ったことないじゃん。 だから、デートしてみたいんだ」
「それで遊園地か」
「そうなのです。デートと言ったら遊園地なのです」
「遊園地で会話が持たないカップルはいずれ破局するとかなんとか……」
俺が悪戯っぽくそう言うと「そもそも会話をする内容なんてなくても、一緒にいて安心するからいいの」と皐は返してくる。
確かに、それはそうだ。
「まあ、わかった。ゴールデンウイーク当日になって休みだったら、遊園地とか行ってみようか。もしゴールデンウイークが仕事だったら、日曜日にでも──」
「いや、それは翔也の身体がお疲れで可哀相になってしまうからダメ。ゴールデンウイーク特有のお楽しみということにしよ」
明るく彼女はそう答える。
──そんな時に過る、今日の昼間の恭平の言葉。
『お前はあの子に生かされてるんだよ』
ああ、これは確かに生かされている。もともと自らでわかってはいたけれど、確かな実感として安心感を改めて認識する。
「それなら、そうしよう」
俺は彼女の言葉に明るく返して、そうして皐に整理してもらった鞄を立ち上がって肩に提げた。
もうそろそろ、学校に行かなければいけない時間だ。
◇
学校に行く道中で、昨日と同じようにコンビニで軽食を買うことにした。これからはこれが日常になる感覚がする。
いつも通りと言わんばかりに、俺たちは飲み物を選択し、食事を選ぶ。
飲み物を選び終わると、彼女は真っ先にサンドイッチのコーナーに行き、俺は握り飯のコーナーへと足を動かした。
そんなとき、「あっ」と俺は声を出した。
見覚えのある顔がいる。見覚えというかなんというか、昨日俺が話しかけた女子が握り飯のコーナーの前で立ちすくんでいる。
確か、伊万里っていう名前の女子だ。
俺が無意識に吐き出した声に彼女は気づいていない様子で、ひたすらにツナマヨのおにぎりを穴が空くほどに見つめている。食べたいなら食べればいいのに、彼女はその仕草を続けている。
「とらないのか?」と俺は伊万里に声をかけた。声をかけた瞬間、伊万里の背はバネのように弾けて、そうしてめちゃくちゃでかい声で「失礼しましたぁぁぁ!」と叫びながら、特に何も買わず、勢いのままコンビニから出ていった。
……どうしたんだ、ありゃ。
「なに今の叫び声」
サンドイッチを選び終わったらしい皐が、俺のところまできて、そんな言葉をかけてくる。
「知らん、伊万里さんがずっとおにぎり睨んでいたから、とらないのか、って声をかけたら、でかい声を出して逃げた」
「あー、なるほど? 伊万里ちゃんいたんだ」
俺はその言葉に頷いた。結局逃げられてしまったけれど。
どこか納得がいくような表情を皐はした。俺は全体的に納得がいかないのだけれど、ここで立ち往生していても仕方がない。
俺は伊万里が睨みつけていたツナマヨと、俺が食べたい筋子のしょうゆ漬けを選ぶと皐と一緒にレジに並ぶ。
もし、真剣に吟味をしていた、というのなら邪魔をしてしまった俺が悪いかもしれない。このツナマヨはひとつのお詫びとして買っておこう。
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